毎日の繰り返し
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病院の屋上には9月の風が吹き渡り、色とりどりの入院患者の洗濯物をはためかせていた。その中から、昨日干した母親のパジャマを取り込んでいたなつめは、ふと手を止めて、風に目を細めた。
「…気持ちいい」
もう10月も間もなくというのに、日中は25度近くにもなって、日差しの下では汗ばむほどだった。入院中の母親の付添のため、病院に通い始めてもう4カ月近くなる。この間、近くのボロアパートを借り、アルバイトも変え、生活のすべてを捧げてきた。でも最近は、そんな生活にも倦んでいた。心も体も疲れきっていた。
なつめはふうっと息をついて、洗濯物をすべて取り込むと、バスケットを抱え上げた。また強い風が吹いて、後ろで結んだ長い髪をなぶっていく。思いついてフェンス際に立つと、眼下の街並みを眺めた。普通電車しか停まらない、JRの環状線の小さな駅から歩いて15分程の所にある病院の周囲には、色も形もばらばらな建物がひしめきあって建つ、せせこましい街並みが広がっている。吹く風にも町工場からの煤煙がまじり、決してさわやかとは言えないが、病院の中で唯一ほっとできる空間がこの屋上だった。
なつめはバスケットを足元に置き、髪をくくったゴムを取って、頭を揺すった。ゆるやかに波打つ長い髪が、風になびいて広がった。汗ばんだ地肌に風が通り、気持ちよかった。もともと細身なのに、この4カ月で体重は激減し、ジャストサイズのジーンズがぶかぶかになっていた。朝、鏡で見る丸い小さな顔は、頬がこけ、大きな目は今にもこぼれ落ちそうになっている。フェンスを掴む手首が、また細くなったのを見て、なつめは小さなため息をついた。
「こんにちは」
声をかけられて振り返ると、屋上でよく顔を合わせる同年代の女性だった。今日は母親らしいパジャマ姿の中年女性と一緒だった。
あわてて「こんにちは」と返し、寄り添いながら歩く2人の後姿をじっと見送って、また街並みに目をやった。
「遠くに行きたいなぁ…」
ぽつんとつぶやく。
また風が強く吹いてきた。
風に吹かれるまま、なつめはしばらくその場で立ち尽くしていた。




