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5話 光の大聖域ストラハ

 私は、ストラハの城壁の前に着いていた。

 ストラハの城壁は凄く横に長く、城壁内部の土地の広さを感じさせる。

 そして聖域の上空には、オネストのものより何倍も大きい、空に浮かぶ地面の塊が見えていた。


 オネストを出発してから40日以上歩き続けた後。

 長かった道のりを超えて、私はやっと、ストラハまで辿り着いたのだ。


(ここまでの旅、お疲れ様でした)


 スピカ様が私を労わってくれる。


「ほんと、長かったです……」

 

 肉体的な疲労以上に、ベットで寝れなかったり、毎日魔物の肉や木の実しか食べられないのが辛かった。

 これでやっと、また文明的な暮らしに戻れる……。


(直ぐに休みたいかもしれませんが、先に私のいる天界まで来て下さいね。

 それが終わったら、あなたに用意した宿などを案内しますので)

「はーい」


 上空に見える巨大な地面の塊、あの場所がストラハの天界だ。そこにスピカ様は住んでいる。

 そしてその場所で、スピカ様は一度私と顔合わせがしておきたいたらしい。

 私とスピカ様はもう1ヶ月以上一緒にいるけど、ずっとテレパシーで会話してただけだから、直接会って話したい事とかがあるのだろう。


 しかし、そういえば天界って空に浮かんでるのに、どうやってそこまで行くんだろうか?

 ふとそんな事を疑問に思う。

 まあ、スピカ様に従っていればなんとかなるか。

 この旅もスピカ様に従っていれば全部なんとかなってきたし。


 私は、城壁の門の部分を通る。

 そして、光の大聖域ストラハへと、足を踏み入れるのだった。



----



 城壁の中には、オネストと同じように、辺り一面の畑が広がっていた。 

 オネストの聖域は、外側に畑があって内側に畑以外のものがあるという、そんな構造になっていた。そしてその構造は、ストラハでも同じならしい。

 たぶんそれが一番機能的だからなのだろう。


「広いですねー」


 ただ、街の構造は同じような感じでも、畑の面積はこっちの方が遥かに広い。

 なので私は、そんな感想を抱く。


(ええ、そうでしょうね。なんと言っても光の大聖域ストラハには、人口が1万人もいるのですから)


 スピカ様は、少しだけ誇らしそうに話す。

 ストラハの大きさは、 ひょっとしたらスピカ様の誇りかなんかなのかもしれない。

 前にその事に付いて言及していた時も、心なしか嬉しそうだったし、


(こんな大都会、リューリュも初めて見るでしょう)

「はい、凄いですねー」


 私は前世の世界で、これとは比べ物にならない程の規模の街に住んでいたのだが、それは黙っていよう……。


(ではまずは、この道を真っ直ぐ進んでくださいね)

「はーい」


 スピカ様は気を良くしたまま、私へと道案内をしてくれる。

 私はその指示に従って、ストラハの道を歩いて行った。



 そして、しばらく内側に進んだ。

 すると、畑がなくなって、その代わり普通の家や商店などが立ち並ぶ場所に着いた。

 ここが、このストラハの中央街なのだろう。


 オネストには人口が1000人くらいしかいなかったので、中央街に行っても、そんなに建物はなかった。

 けれどストラハは人口が1万人以上いるので、オネストよりも沢山の建物や施設が並んでいる。また、道行く人たちもなんとなく活気がある気がする。

 建物の形式や道行く人々の服装などは、どれも、前世の世界の中世ヨーロッパみたいな感じだ。

 ただし、精霊教のおかげで道にゴミなどは全然落ちていなくて、そして見るからに貧しそうな人や、迷惑な騒音を立てたりするような人もいない。

 今更だが、こういう景色を見ると改めて、自分がファンタジーな世界に生まれ変わっているのだという自覚が芽生えてくる。


「スピカ様、あの建物は何ですか?」


 私は、周りよりちょっとメルヘンチックな感じで目立っていた建物を指して、スピカ様へと聞いてみる。


(あれは人形屋と言って、人形の専門店なのです)

「人形だけを売ってるんですか?」

(ええ。ストラハは人口が多いので、専門の商売だけをしていても生活出来るのですよ)

「はえー」

 

 いいなぁストラハ。

 私が生まれた場所のオネストは、人が少ないからか、娯楽施設とかがあんまり無かった。

 だからオネストと比べたら、都会って感じで楽しそうだ。

 まあオネストはオネストで、平和でのどかで、とても暮らしやすい場所ではあったのだが。


「スピカ様、あの人形屋さん、ちょっと見に行っていいですか?」

(ええ、構いませんよ)


 私はスピカ様に道を案内されながらも、ストラハにある色んなものを観光して回った。



----



 そして、しばらく歩いた後。

 私は、中央街の更に中央の部分へと付いた。


 中央街の中央の部分には、憩いの場やお祭りの会場として使えるように、大きな庭園になっている。

 庭園には、植物が整頓されながら綺麗に生えていて、そして中央には綺麗な噴水などが設置されている。

 オネストにもそんな庭園はあったのだが、ストラハの庭園はそれよりかなり広くて、そして豪華な作りになっていた。


(リューリュ、少し右の方に台座が見えているでしょう。あれが目的地です)


 私はスピカ様に言われた方向を見る。

 そこには確かに、何かよく分からない、柵の着いた大きな台座が設置されていた。


 私は、とりあえずそこまで進む。

 そして台座のある場所に着いた後、そこからどうしていいのか分からないので立ち止まる。


(では、その台座に乗って下さい)


 なんなんだろうか、これ。

 そんな事を思いながらも、私はスピカ様に言われるままに、その台座へと乗る。

 するとその台座は、私を乗せたまま、なんと空へと浮かび上がった。


 台座はそのまま、重力へと逆らいながら、天界へと向かって進んでいく。

 たぶんこれは、天界にいる精霊様が魔法で動かしているのだろう。

 なんかエスカレーターみたいだ。そんな事を思いながら、小さくなっていく地面でも眺めておく。

 そして少し待つと、やがてその台座は、空の上へと浮かぶ地面、天界まで着いたのだった。



 私は、オネストにいた頃は天界へと行った事は一度もない。

 だから、天界の景色をちゃんと見るのはこれが初めてだ。

 そこには、背の低い花や草がひっそりと咲き誇っていて、道はゴミ一つなく綺麗に整備されていて、そして真っ白な小さな家が辺りに点々と存在していた。

 あの白い家々は、たぶん精霊様達の住居なのだろう、

 なんていうか、天国みたいな感じの場所だ。


 そしてその景色の中には、沢山の精霊様達もいる。

 精霊様は、可愛い女の人というような感じの姿をしていて、みんな羽もないのに空を飛んでいて、体長が30センチくらいしかない。

 オネストにいた頃も、精霊様の容姿は何度か見た事がある。だから体長の小ささには驚かない。

 しかし、こうやって改めて精霊様達の姿を見る度に、やはり人間とは違う不思議な存在なんだなと感じる。


(みんな、勇者であるあなたが物珍しいのです。だからジロジロ見られる事は、勘弁して上げてくださいね)

 

 頭の中に、スピカ様のそんな声が響く。

 言われて周りを見渡して見れば、確かに、周りの精霊様達はみんな私の方を見ている気がする。

 目線が合わないようにひっそりと私を見ている精霊の方とか、逆に他の精霊の方と一緒にきゃっきゃと楽しそうにしながら私を観察している精霊の方とか、その反応の仕方も様々だ。

 しかしそんな精霊様達の動作からは、共通して、どこか子供っぽい印象を受ける。


 精霊様は純粋な心を持つので、長生きをしているのに何時までもいい意味で子供っぽいという、そんな話を聞いた覚えがある。

 しっかりとした話し方をするスピカ様が特別なだけで、本来精霊とは、もっと子供っぽい感じが普通なのかもしれない。


(ではリューリュ、その道を真っ直ぐ進んでください)

「はーい」


 私は引き続き、スピカ様に導かれながら、天界の中を進んでいった。



 そして、天界の中でも一際大きな、石で作られた神殿のような建物の前に付いた。


(では、そこに入ってください)


 私は言われたとおり、その建物の中に入る。

 すると、入口は謁見室のような構造になっていて、その奥の部分には精霊の方がいた。

 その精霊の方は、綺麗な長い髪をしていて、高貴な感じを思わせる真っ白な装束を来ていて、これで体長が30センチくらいじゃなかったら、女神さまって言われて誰でも思いつような姿をそのまま形にしたような、そんな感じの容姿をしていた。


「こんにちは、リューリュ。改めて、私が精霊神のスピカです」


 その精霊の方は、私へと優しく微笑み、私へとそう告げる。


「あ、えっと、こんにちは……」

 

 どうやらその方が、スピカ様ならしかった。

 

 スピカ様は、私へと改めて向き直る。

 そして私へと、まるで神様が人に何かを告げるみたいに、優しく、けれど命令口調で話す。


「私達の住むこのメルザスの世界は、今まさに、悪しき者達によって闇に覆われようとしています。

 私達光の勢力は、それになんとか対抗しようとしていますが、力及ばず、未だ現状を打開する事は出来ていません。

 私達の愛するこのメルザスの世界は、このままではそう遠くない未来、やがて破滅し、全てが崩壊してしまうでしょう。

 そしてそれを救えるのは、この世界で誰よりも勇者になる為の才能を持って生まれた、あなただけなのです。

 だからリューリュ、どうか私へと、その力を貸してください」


 天界まで来て、直接スピカ様に会って、そして改めてそんな事を言われてみて、思う。

 今、私の目の前にいるこの人は、私になんかがお願いを断っていいような身分の相手ではないと。


「はい……」


 だから私は、しぶしぶ、そんな返事だけをする。

 本当は凄く嫌で、出来る事なら今直ぐにでもお断りさせて欲しいんだけどな……。

 

 スピカ様は、私の返事に少しだけ安心してから、話を続ける。


「という訳ですから、リューリュ。あなたには明日から、勇気の試練というものを受けて貰う事になります。

 しかし、今は旅をしてきて疲れているでしょう。なので今日1日くらいは、ゆっくり休んでおいてください」


 さっきの神様モードみたいなのは、たぶん形式的なものだったのだろう。

 スピカ様は直ぐに、私へと気を使って接してくれる、何時ものスピカ様に戻った。


「顔を合わせて直接挨拶しておきたかっただけなので、今日の要件はそれだけです。

 この後はどうします? せっかくですし、神殿の見学でもしていきますか?」

「いや、今日は疲れてるので、そういうのはまた今度でいいです」

「そうですか。それでは今から、あなたの寝泊りする所などを案内させて貰います。

 また地上へと戻って貰いますので、まずは、天界に来る時に乗ってきた台座の所まで戻ってくださいね」

「はーい」


 そして私は、その神殿を後にした。

 そして台座のあった場所へと戻り、台座に乗って空を飛んで、再び地上へと戻ったのだった。



---



 そして、元の庭園の場所に付いた。

 私は台座から降りて、地上の感触に少し安心する。


(ではリューリュ、後はこれから、あなたの家になる場所と、あなたが食事を取る所の、その2箇所を案内させて貰います。

 どちらから先に行きたいですか?)


 肉声ではなくテレパシーとして、スピカ様の声が頭の中に響く。


「私、お腹空きました」

(では先に、食堂へと向かいましょうか)

「はーい」


 そして私はスピカ様に、食堂とやらの場所を案内して貰う。



 庭園の中を少しだけ歩いたら、いい匂いがする大きな建物の前に着いた。


(ここが食堂です。中に入ってみてください)


 私は言われたとおり、中に入ってみる。

 すると、中は広くて、100人以上が同時に食事を取れそうな程の沢山のテーブルや、それに釣り合った大きな厨房などがあった。


(ここは、庭園で修行する兵士や、庭園の中にある施設で仕事をしている人が、一緒に食事を取る為の場所なのです。

 奥に行って、好きなものを注文してきていいですよ)


 私はスピカ様に言われた通り、奥の厨房へと向かって、パンやスープなどを頼んできた。

 そして、適当なテーブルへと座って、料理が出されるのを待つ事にした。 



 周囲を見渡して見ても、人は全然いなくて、テーブルはどれも空席だ。

 たぶん、今は昼と夕方の間くらいの微妙な時間帯だから、食事をしている人はいないなのだろう。

 辺りを眺めながら少し待っていると、料理が出された。

 料理自体は、パンやスープという代わり映えのしないものだった。

 しかし、私はずっと旅をしていたので、久々に魔物の肉や木の実以外のものを食べれれた事自体が嬉しかった。



 そして、夕食を食べ終わった後。

 私は次に、スピカ様に寝泊りする場所を案内して貰う事にした。

 指示されるままに、庭園の中を歩いていく。

 そして少し歩いた後、3階建ての小さなお城みたいな感じの、何やら豪華な建物の前に着いた。


(この城の中の一室が、これから寝泊りする場所となります)

「こんな綺麗な所に住んでいいんですか?」

(ええ。もちろんですよ。

 ここは、重要な要職に付いている人達が暮らす為の施設なのです。

 そしてあなたは間違いなく、この世界にとって重要な人物ですから)


 目の前の豪華なお城を見ていると、なんか改めて、自分が特別扱いされているという実感が沸いてくる。 

 大きな扉を開けて、そのお城の中へと入る。

 その建物の中は、前世の世界の中世のお城みたいな感じで、外装に劣らず豪華で華やかだった。


 私は、そんな建物の中を歩いていく。

 老齢の男の人とか、私より少し年下くらいの女の子とか、何人かの人とすれ違う。

 すれ違う人たちは、みんなキリっといしていて、なんか高貴な教育とか受けてそうな感じだった。

 


 スピカ様に案内されるままに少し進んだ後、お城の中の一室の前に付いた。

 

(ここが、あなたの部屋になります)


 私は扉を開けて、中を見てみる。

 部屋の中は、床が綺麗に磨かれていて、机や椅子もどことなく豪華な作りになっていて、そして壁には絵とかが飾ってある。そして奥には、豪華なお風呂なども完備されていた。


 私はとりあえず、お風呂に入ってゆったりと体を洗った。

 そして、用意されていた寝巻きに着替えたあと、ベットへと寝転がってみる。


「ふかふかだ……」


 ベットは、なんか凄くふかふかだった。


(リューリュは寝る事が趣味だと聞いていたので、職人に特注で頼んで、そのベットを作って貰ったのですよ)

「そうなんですか……」


 ストラハに向かって歩いている途中、世間話の一環で趣味とかを聞かれて、寝たり散歩したりする事だって答えたりした事があった。

 それは、この部屋を用意する為だったのか……。


「スピカ様……」

(どうしましたか?)

「いえ、ありがとうございますと思って……」

(私はあなたに、勇者の使命を押し付けているのです。だから、このくらいの事をするのは当然ですよ)


 スピカ様は何時ものように優しく、そんな事を言ってくれる。

 やっぱりいい人だなこの人……。


 その後私は、スピカ様が用意してくれたふかふかのベットで、1日ゆったりと休んだのだった。

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