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21話 自分の居場所

 ノストの隣に進めば、この星を一周して、私の故郷であるオネストに着く。

 そして、オネストの隣にはストラハがある。

 よって、ノストからストラハに向かおうと思ったら、今まで進んできた道を引き返すより、星を一周してしまう道を選んだ方が距離が短い。

 なので私達はこれから、途中でオネストを通りつつ、オネストの隣にあるストラハに戻るという道筋を辿る事になる。


 ノストで少し休んだ後。

 私は姫を連れて、次はオネストへと出発したのだった。



 そして、2ヶ月程度森の中を歩いた。

 季節はもう夏が過ぎて、すっかり秋へとなっている。


 スピカ様は、私へと何も言ってこず、ただ道案内だけをしてくれる。

 あくまで、私達がストラハに着いた後で話し合いをするつもりならしい。

 そして私も、スピカ様に何かを話す事はない。

 私は完全にスピカ様に逆らう気になっているので、今更仲良く話しかけたり出来ないからだ。

 なので、私とスピカ様の間には、長い間まともな会話がされる事はなかった。



 けれど、オネストに大分近づいてきたある日。

 何時ものように森の中を歩いていたら、スピカ様が私へと話しかけてきた。


(リューリュ)

「……何ですか?」

(このままのペースで歩いていれば、3日後の昼辺りに、オネストに着きます)

「そうですか」


 私は気配探知が出来るので、わざわざ言われなくても、聖域への大まかな距離くらいは分かるのだが……。


(オネストにはあなたの家族がいます。あなたがあと数日でオネストに来る事を、事前に伝えておきましょうか?)


 ああ、そういう事か。


「いや、別にいいです」

(どうしてです?)

「私、お母さんに会う気ないんで……」


 会話を聞いていた姫が、私のその言葉に反応した。


「リューリュさん、両親に会わないんですか……?」


 私は苦い気持ちになりながら、姫に説明する。


「ほら、私のお母さんはもう7年以上前に再婚してるでしょ。

 だから、今更会ってもどんな風に接すればいいのかよく分かんないからさ……」


 それに、私の醜い部分だから姫には見せたくないけれど、それ以上の理由もある。

 私はお母さんのせいで、無理やり勇者にさせられた。そのせいで受けた苦痛はもう計り知れない。

 だから私は、お母さんの事を恨んでいる。

 恨んでる人に会いたくなんてない。


 私の個人的な事で姫が体を休められないのは可哀想だから、オネストには寄るつもりではいる。

 けれど聖域の中に入ったら、偶然お母さんと鉢合わせしてしまうかもしれない。

 なので私は、オネストに着いたら姫一人だけ聖域の中で休んで貰って、自分は聖域の外で待ってるくらいの事はしているつもりでいた。


「どうしても、会いたくないんですか?」

「うん」


 それでこの話は終わりだと思ったのだけれど、姫は何故か、私へと食い下がってきた。


「……私はリューリュさんに、両親の人とちゃんと会って欲しいです」

「えっと、何で……?」

「私が、会って欲しいんです」


 姫は、そんな要領を得ない答えを話す。

 もしかして姫は、イリユさんにした事と同じような事を、私にもしたいのだろうか……?


「姫ー。私は出来るなら、姫の頼みなら何でも聞いてあげたいよ。でも流石にさ、こればっかりは、ね」


 私にとって姫は大切な人だけれど、流石に姫にでも超えて欲しくない一線というものはある。

 だから私は断ろうとする。けれど、それでも姫は食い下がってくる。


「リューリュさんはたぶん、本当に心の底から、両親に会いたくないんだと思います。

 けれど私も、軽い気持ちから言っている訳ではないんです。

 私、本当はまだ、お父様と会うのが凄く怖いんです。でも、リューリュさんがリューリュさんのお母さんと会ってくれたら、私も勇気が出る気がするんです。

 だから、お願いです……」


 姫は、自分の両親ともう一度話し合いたいと思っている。

 そして姫は、自分のそんな決意が間違っていない事を願っている。

 だから姫にとって、ここで私が両親に会わないという選択肢を取ることは、今の自分を否定されるようで凄く嫌な事なのかもしれない。

 

「うー……」


 けれど、嫌だなぁと思う。物凄く嫌だ。


「オネストに帰っても、お母さんの家の場所知らないし……」


 ずっと前にスピカ様に聞いた話によると、お母さんは再婚した後、新しい家に引っ越したらしい。

 なので私は、お母さんが今どこに住んでいるのか知らない。


「スピカ様に聞けば分かります」

「えー……」


 今スピカ様と微妙な感じなのは、姫も分かってるだろうに……。


 私はなんとか断ろうと、精一杯、嫌だなぁって感じのオーラを出す。

 けれど姫は、凄く必死に、私のことをじっと見つめてくる。


「それにほら、私、勇者やめるつもりだからさ、お母さんに会ったら色々言われるだろうし……」


 この世界で精霊様に逆らう事は、重罪だし、倫理的にも最悪な事だ。

 そして私は、これからスピカ様に真っ向から逆って、勇者をやめようとしている。

 なので、そんな私に会うお母さんは、これから重犯罪を犯そうとしている子供と会う親みたいな感じになる。

 当然、考え直して欲しいとか言われるだろう。自分の世間体とかの為にも。

 けれど私は、そんな事を言われても考え直す気になんて全くならない。

 なのでたぶん、お母さんと会ったら、険悪な感じになってしまうだろう。


「母親なんですから、きっとそれでも、リューリュさんの事分かってくれますよ……」

「うーん、そんな事無いと思うけど……」

「そんなの、分からないじゃないですか……」


 姫は泣きそうになりながら、私の方を必死に見てくる。

 それを見ると、なんか物凄く申し訳ない気分になってくる。


 物理的には、姫に私を引っ張っていく力なんてない。

 だから私がどうしても嫌だと言えば、それでこの話は終わる。

 けれどここで断ってしまえば、たぶん姫との関係が悪くなってしまう。

 少なくとも、姫がここまで必死で頼んだ事を断ったという、そんな事実が私に残ってしまう。


 姫との関係を取るか、私の気持ちを取るか……。


「はぁ……」


 大きなため息をついてから、答える。


「分かった……。でも1日だけだよ、それ以上は嫌だから……」


 姫がここまで頼むなら、断る訳にはいかないだろう。


「すいません……。ありがとうございます、リューリュさん……」


 姫はお礼を言いながら、表情をぱーっと明るくする。たぶんよっぽど嬉しい事だったのだろう。

 私、姫には敵わないなぁ……。


「って事ですスピカ様。お母さんには、1日だけ家に泊まらせて貰うって言っておいて下さい。

 それと、オネストに付いた時の案内もお願いできますか? 」

(ええ、勿論ですよ)


 スピカ様は、すんなりと私の頼みを了承してくれた。

 そして私は、しょうがなく、オネストに帰る事になった。



---



 それから3日歩いて、オネストの直ぐ近くにまで来た。


 私はオネストにいた頃、聖域の周りを散歩して、木の実とかを集めてくるのが趣味兼仕事だった。

 だから聖域の周りに来れば、景色や道に見覚えがあって、懐かしい気持ちになる。

 この辺りには、毎日のんびり生きているだけでよかった、私の幸せだった頃の記憶が詰まっている。


 そんな見知った道から、更に少し歩く。

 すると、約7年ぶりに、私の二度目の人生の故郷が見えてきていた。



 姫と一緒に、城壁の門を潜って中に入る。

 とても懐かしい、のどかな畑の景色が広がっている。

 ここを出発してからかなりの時間が経つけど、聖域の様子は昔と全然変わっていない。

 このメルザスの世界は、人口も少ないし人の出入りとかも全然ないから、時間が経っても景色が変わるような事はあまりないのだろう。


(ではまずは、今の道を真っ直ぐ進んで下さい)

「……はい」


 7年前ここでのんびり暮らしていた頃は、私の世界にスピカ様はいなかった。

 だからスピカ様に話しかけられると、少しだけ、現実に引き戻されるような気分になる。

 私は懐かしさに浸りながらも、今のお母さんの家の場所まで、スピカ様に案内されていた。



 そして、しばらく歩いた後。

 私達は、聖域の中央街にある、普通の一軒家の前に着いた。


(ここが、今のアンネの家です。それでは)


 案内が終わったので、スピカ様の声は再び途絶える。


「うー……」


 これで、とうとう着いてしまった……。


「リューリュさん。後は、頑張って下さいね……」


 私の後ろに付いて来ていた姫も、そう言い残して、その場から去っていった。

 姫は家族水入らずの時間を邪魔するのは悪いから、私の家ではなく宿に泊まるらしい。

 だからここからは、もう私一人だ。


 この扉開けたら、お母さんがいる。そう思うと、今すぐここから離れたい気持ちになる。

 けれど、今更姫との約束をやぶる訳にもいかない……。


 オネストでは、扉に付いた金属の輪っかを扉にトントンと当てる事が、呼び鈴替わりになっている。

 だから私は、不安な気持ちで一杯になりながらも、渋々、それを実行した。

 そして少し待つと、家の中から女の人が出てきた。


「ただいま、お母さん」

「お帰りなさい、リューリュ」


 そこには、私の記憶より一回り年を取った、今世の私のお母さんがいた。



----



 私が帰ってきた事に対して、お母さんは喜んでいた。

 どうやらとりあえず、疎まれているような事はないらしい。


 お母さんが家の中に入り、私も続いて家の中に入る。

 新しい家は、特に何の変哲もない、この世界の普通の家だった。


「じゃあ、そこで待っててね」

「うん」


 私をリビングに置いて、お母さんは家の奥の方に歩いて行った。

 お母さん、私が知っていた頃よりも少し明るくなった気がする。再婚したからだろうか……?

 そんな事をぼーっと考えていると、家の奥の方から話し声が聞こえてくる。


「ほら、どうして隠れてるのよ」

「だって、緊張するっすよ……」


 それは、男の人の声だった。

 そしてその直ぐ後に、お母さんより一回りくらい若い男の人が、家の奥から出てきた。


「えっと、初めまして、アンネさんと結婚させて頂いた、タールと申します……」

「あ、どうも……」


 この人が、お母さんの再婚相手なのか。

 本当に、私が全く知らない人なんだな……。


「ほら、あなた達も隠れなくていいから」


 お母さんのそんな声が聞こえてきた後。家の奥から更に、小さな子供が2人出てきた。

 片方は男の子で、もう片方は女の子だ。

 スピカ様から既に、お母さんに子供が2人いるという話は聞いている。

 確か、男の子の方はロップという名前で6歳で、女の子の方はミミという名前で4歳だったと思う。


「あんたが、お姉ちゃんなのか……?」

「あなたが、おねえちゃんなの……?」


 初対面の子供2人に、そんな事を聞かれる。


「うん。私がお姉ちゃんだよー」


 正直、どんな風に接していいのか全く分からない。だからとりあえず、ただ愛想笑いをしておく。


「この子達、ずっとリューリュに会いたがっていたのよ。私とタールさんの事はいいから、まずはこの子達と遊んであげて」


 お母さんにそんな事を言われる。

 遊ぶって言っても、どんな事をすればいいんだろうか……。


「えっと、2人は何時も、どんな事して遊んでるのかな?」

「鬼ごっことか、隠れんぼとかだけど」


 ロップが少しぶっきらぼうに、そんな事を答えてくれる。


「よし、じゃあそれして遊んでみよっかー」


 私はとりあえず、そう提案しておく。


「じゃあ私、かくれんぼがいいな……」


 少しだけおどおどしながらも、ミミが私の提案に乗ってくれた。

 まだほぼ初対面だけれど、ロップは活発な感じで、ミミは大人しい感じな気がする。


「うん。それして遊ぼっか」


 そうして私は、とりあえずしばらくは、2人に隠れんぼなどをしてあげたのだった。



----



 2人と遊んであげていると、やがて夕方になった。

 私達は日が落ちる前に家へと帰った。

 そして家では、5人で一緒に夕食を食べる流れになった。


 私は4人から、色んな話を聞かせられた。

 ロップが学校で何をしたとか、ミミはお母さんの事が大好きだとか、タールさんは兵士をやっているとか、タールさんは私の死んだお父さんの後輩だったとか、そんな話だ。

 そして私も、4人に対して、オネスト以外の聖域の様子とか、聖域の外にいた魔物の事とか、そんな話を聞かせてあげた。



 そして、夜になった。

 子供達は一足先に眠って、起きているのは、私とお母さんとタールさんの3人になった。


「リューリュ。あなたがあの日オネストを旅立ってから、どんな日々を過ごしたのか、改めて聞かせて貰えるかしら……」


 私へと向き直ったお母さんは、そんな事を尋ねてくる。


「うん。じゃあまずは、ストラハに行く途中、スピカ様と仲良くなった話からかな……」


 そして私は、お母さんとタールさんに、私の7年間の事をかいつまんで話したのだった。


 

 ノストに着いた所まで話して、私の旅の話も、もう終盤になる。


「それで私は、魔王の闇穴に向かったの」

「……じゃあ、リューリュはまだ生きているし、もう魔王を倒してきたの?」


 少しだけ、その先を話すのを戸惑う。

 けれど、嘘を付いても意味はないと思ったので、ありのままを話す。


「ううん。それで魔王の闇穴まで行ったんだけど、逃げてきちゃったの」

「……どうして、逃げたの?」

「怖かったから」


 そしてそれが、私の本心だったからだ。


「そしたらスピカ様に、とりあえず姫をストラハに送り届けてから、もう一度直接会って話し合いましょうって言われた。

 だから今の私は、ストラハに帰ってる所なの。

 オネスに寄ったのは、ここが道の途中にあったから」


 それで、私の事は全部話した

 だからここからは、私がお母さんに質問する番だった。


「ねえお母さん。私どうしても、お母さんに聞きたい事があるの」

「何かしら……?」


 この言葉を言うのは、怖い。

 けれど、私はここで、それを聞かないといけない。


「お母さん。どうして私を、勇者にしたの……?」


 だから私は、ずっと疑問だったその事を、お母さんへと尋ねていた。


「どうしてって……」


 お母さんの反応は、戸惑いだった。

 これは、どういう意図だと受け取ればいいんだろうか……?

 そんな事を考えていたら、お母さんが話しかけてくる。


「リューリュは、勇者になってよかった?」


 なんて事を、聞くのだろうか……。

 そんな訳ないだろこの馬鹿、なんてことしてくれたんだ。そんな事を言って、怒鳴り散らしてでもやればいんだろうか……?

 他にリアクションが見つからないけど、そんな悲しい事もしたくない。

 私はこの性格のせいで、普段全然怒る事がないから、他人への怒り方というものがよく分からない。

 それに今更そんな事を訴えても、もうあまりにも、手遅れ過ぎる……。


「全然……」


 悩んだ末。私はただ、そんな濁した言葉だけを答えていた。


「でもリューリュは、勇者になって色々なことを体験できたでしょ。イルマさんと友達になれたのも、勇者になったおかげなんだし」

「いや、それはそうだけどさ……」

「お母さんはね、リューリュを勇者にしてよかったって思ってる」


 ……?

 突然、何を言い出すんだろう。


「リューリュ。あなたは今、とても辛いかもしれない。けれどその辛さは、大切なものを得る為に必要なものなの。

 だから最後までやりとげたら、きっと楽しい事が待ってるわよ」


 今まで黙って聞いていたタールさんが、お母さんの言葉を支持し始める。


「そうっすよ。リューリュ程じゃないかもしれないっすけど、俺も兵士として頑張ってて、時々凄くしんどいです。

 でもそれを続けたおかげで、俺はアンネさんと会えたんです。俺も頑張るから、辛くても一緒に頑張りましょうよ」


 あまりにも変な事を言われて、理解がよく追いつかない。

 楽しい事が待ってる……? だから一緒に頑張ろう……?

 何言ってるんだ、この人らは……?

 私が今、どんな気持ちでいると思ってるんだ。


「リューリュ、落ち込んでちゃ駄目よ。あなたはもうみんなの勇者様なんだから。頑張ってお父さんの敵、取ってきてよ」


 お母さんは、おどけながらも、私へとそんな言葉を浴びせる。


「お母さんは、私に頑張って欲しいの……?」

「ええ、応援してるわ」

「な、んで……」

「私はあなたの、母親だからよ」


 お母さんは私へと、優しい目を向けていた。

 だから、この人が嘘や冗談を言っている訳ではないのだと分かった。


 私は、お母さんの事を恨んでいるけれど、本当はそれ以上に、怖かった。

 お母さんはどうして私を、勇者なんかにしたのか。どうして私を、こんなにも苦しい目に合わせ続けているのか。

 そんな事を考えると、怖くて仕方がなかった。

 それは心の奥底で、どこかに救いがあって欲しいと思っていたからなんだと思う。


 けれど、ああ、今分かった。

 この人が私を、こんなにも辛い目に合わせ続けている理由が。

 要するにこの人は、私の事を知らないのだ。

 私がどんなことをしたら楽しくて、どんなことをしたら苦しいのか。そんな事を。


 目の前の人間への認識が、冷たくなっていくのが分かる。

 何で私は、こんな人のせいで、あんなに苦しんでいたんだろうか……?

 何で私は、こんな人の事を、あんなに好きだったんだろうか……?


 なんとなく、怒った方がいいのかもしれないと思った。

 ここで本気で怒りや憎しみでもぶつけたら、私はまだ、この人との繋がりを残せる気がした。

 けれど私は、ただ、悲しみしか沸かなかった。


「そうだね、お母さん……」


 私は、適当に愛想笑いを浮かべておいた。

 私の目の前では、私の大好きだった人が、とても下らない事を言いながらヘラヘラ笑っていた。



 そうして、お母さん達との話し合いは終わった。

 お母さんは自分のベットで一緒に寝る事を勧めてきたけれど、嫌だったので、毛布だけ借りて床で寝る事にした。


 一人になって、地面に寝転ぶ。


「はぁ……」


 色んな事が、頭の中に浮かんでいく。

 そしてそれは、何一つとして、深く考えたりなんてしたくないような事だった。

 

「寝よ……」


 私は寝るのが好きだ。

 睡眠だけは、何時も変わらずに私を癒してくれる。

 私はただ、目を閉じて、じーっとする。


「考えない……考えない……」


 そして、苦しい気持ちを必死に抑えながら、何も考えないようにし続けたのだった。



----



 翌朝。

 日が昇った後、私は直ぐに家を出る。


「もう行っちゃうんすね……」

「もっとゆっくりしていってくれてもいいのに……」


 2人は、そんな事を言う。


「もう、行っちゃうのかよ……」

「おねえちゃん、もういっちゃうの……?」


 子供2人も、寂しそうにしていた。

 けれど私は、もうたったの1秒すら、こんな所にいたくなかった。


「じゃあさよなら、お母さん」


 そうして私は、その場所を離れる。


「何時でも、帰ってきていいからねー」


 後ろから、吐き気がするような声が聞こえていた。



 姫に会う為に、宿へと向かう。

 そして姫と合流した後。オネストの外へと向かう。


「どうでしたか、リューリュさん……?」


 歩いている途中。

 不安と期待の篭ったような声色で、姫がそんな事を尋ねてきた。


 どうだった、か……。


 ここには、私の家族が居る。

 だから私は、心のどこかで、ここにはまだ自分の居場所がある気がしていたのだと思う。

 私はつい昨日まで、自分はお母さんに捨てられたのではないかとか、そんな事を考えていた。

 今思えば、なんて能天気な考えだったんだろうか……。


「うーん……、ノーコメント」


 深く考えていたくなかった。


「そう……ですか……」


 姫はそれで、何も楽しい事がなかったと分かったらしい。

 俯いて、そして悲しそうにしていた。



 そして私は、城壁の門を通って、ストラハを後にした。

 たぶんここには、もう二度と帰らないと思う。


「行こ、姫……」

「はい、リューリュさん……」


 私は再び、ストラハまでの道を歩き出すのだった。

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