13話 知恵の試練1
(リューリュ、起きて……)
頭の中に、声が響く。
けれど、今日は何か起きたくない……。
なので私は、そのままベットで眠り続ける。
(リューリュ、起きて)
頭の中にそんな声が響くが、私はただ眠り続ける。
(はぁ……)
頭の中の声が、ため息を漏らした。
スピカ様は、私にため息なんて聞かせる事はない。
そういえば、さっきから頭の中に響いている声が、スピカ様のものじゃない気がする……。
(リューリュ、起きて!!)
「ひゃう!」
叱られるみたいな声色で、思わずびくっとする。
スピカ様は起きるまでひたすら声をかけてくるという感じだったので、こんな風に起こされた事はなかった。
なので、驚いた拍子でそのまま眠気が覚めてしまった。
「うー……」
私は、ぼーっと目を開ける。
風通しがよさそうに造られた家の中。
窓の外では、白い砂浜と透き通った海が朝日に照らされていた。
(今日から知恵の試練だから……、頑張って)
「はい……」
そう言えば、だから起きたくなかったんだった。
嫌だなぁ……。
宿の中で、姫と一緒に朝食を取る。
そして朝食を食べ終えたら、顔を洗ったりして、外に出る為の準備を済ませる。
「じゃあ行ってくるね、姫ー」
「頑張ってきて下さい、リューリュさん」
そして姫へと一時的な別れを告げて、宿を出る。
(じゃあまず、右に向かって)
「はーい……」
起きる時に怒られたショックをまだ少しだけ引きずりながら、ヒテイ様に道案内をして貰う。
そうして私は、学校へと向かったのだった。
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ヒテイ様に案内されるまま、聖域の中央街へと進んでいく。
そして中央街に着いて、その中を少し歩いた後。周りの建物よりも一回り大きな建物に付いた。
(着いた、ここが学校)
私はオネストにいた頃、ちょっとだけ学校に通っていた事がある。
そしてその時の校舎と比べると、ポポラハの校舎の方が倍以上大きい気がする。
オネストと比べると、ポポラハの方が人口が多いからだろうか。
(じゃあ、入って)
「はーい……」
私は緊張しながらも、しょうがなく、校舎の中へと入っていく。
そしてまずは、職員室みたいな場所に案内された。
(リューリュは転入生だから、みんなが登校してきて授業が始まった後、クラスに入って自己紹介して貰う。
だからここで、授業が始まる時間まで待ってて)
そっか、自己紹介とかしないといけないのか……。
「私が入る事になるクラスの人は、もうみんな、私が転入してくるって知ってるんですか……?」
(うん。勇者の子が知恵の試練としてこの学校に1年通うっていうのは、もう何ヶ月も前に伝えてある。
あなたが人見知りな事とかも伝えてあるけれど、みんなあなたの事をとても珍しがるだろうから、最初は色物みたいな扱いをされるかもしれない。でもそれは許してあげて)
この世界は、聖域と聖域の間に物凄く距離が離れているので、転入生なんてものはまずいない。しかも私は勇者だ。
なのでやっぱりどうしても、最初は目立ってしまうのだろう。
うう、胃が痛くなってきた……。
そして、少し待った後。
私はヒテイ様に呼ばれて、自分の教室の前へと案内された。
(じゃあ入って)
「はい……」
私は恐る恐る、教室の中へと入る。
教室の構造は、一番前に教卓があって、そして横に長い机と椅子が教卓の対面に並んである、という感じだ。
たぶん、前世の世界の大学みたいな感じに近いんじゃないだろうか。
そしてその机には、私と同い年くらいの子達が一杯いて、全員が私に好奇の目を向けてた。
うう……。
私は、普段道行く人を見ていても、そこまで嫌な気分にはならない。それは、その人たちとは関わりがないからだ。
しかし私はこれから1年間、この人たちとは、一緒に過ごさないといけない。
そんな事を思うと、どうしても恐怖のようなものを感じてしまう。
(じゃあ、自己紹介して)
教卓の前に立った私の中に、ヒテイ様のそんな声が響く。
「初めまして、リューリュって言います……」
特に言うこともないので、その一言だけで自己紹介を終わらせる。
私の自己紹介がそれで終わった事を確認して、ヒテイ様の声がまた頭の響く。
(もうみんな知ってるだろうけど、リューリュは勇者なの。だから知恵の試練を受ける為に、この学校で1年間過ごす事になった。
リューリュは今まで学校に通っていなかったから、勉強についていけない事もあると思う。
だから、私は出来る限りリューリュのサポートしていくつもりだし、みんなもこの子に気を使ってくれたら嬉しい。
だからみんな、1年間の間だけれど、仲良くしてあげてね)
その声は、その場の全員にも聞こえていたらしい。
みんなはヒテイ様の言葉に、何やら盛り上がっていた。たぶん話の内容よりも、私が本当に勇者である事とか、大聖霊様に直接話しかけられた事とか、そういう事に感動していたのだろう。
それで自己紹介は終わりだと思ったのだが、その後授業が始まる事はなく、何故か私への質問の時間になった。
(知恵を育てるのは、ただ勉強をするだけじゃなく、色々な事を経験する事が大切なの。だから、こういう事も試練の一貫だと思って頑張って)
ヒテイ様のそんな声が頭の中に響き渡る中。私は、自分の故郷の事とか、勇者としてやっている事とか、そんな事を質問され続けた。
それからしばらく経った後。
やっと、質問の時間が終わった。
先生に、席に着くように言われる。
私は、後ろの隅っこの方にあった、空いていた席に座った。
はぁ……、やっと終わった……。
そんな事を思い安堵していたら、そのまま授業が始まった。
最初の授業は、幾何学の授業だった。
教卓の前に着いた先生が、教科書を開くように言う。
私は、ヒテイ様から貰った鞄から教科書を取り出す。
先生は、教科書に書かれている図形に付いて、何やら難しい事を解説し出す。
私はそれを、ただぼけーっと聞く。
(どうリューリュ、分かる?)
「正直、全然分かんないですけど……」
私はこれまで、殆ど全く学校に通っていない。
けれどこの授業は、当たり前だが、生徒は既に沢山の授業を受けてきている前提で話がされている。
その落差があるせいで、先生の言っている事が何も頭の中に入ってこない。
せめて前世の記憶で勉強した事を覚えていたら、もう少し何をやっているのか分かるのかもしれない。
けれど私の前世の記憶は、印象に残っている事しか思い出せないので、それも勉強面では役に立たない。
(昨日も説明したけれど、知恵の試練は何について考えたりする行為自体が大切なの。
だから分からなくても、頑張って考えてみて。私も出来る限り、あなたが分かるように教えるから)
ヒテイ様にそう言われたので、私はとりあえず、分からなくても考えてみる事にする。
「それじゃまず、この曲線は何を意味してるんですか……?」
(えっと、これはね……)
ヒテイ様の教え方は、あんまり頭のよくない私でも、それなりに分かりやすかった。
私は、ヒテイ様にマンツーマンで色んな事を解説して貰いながら、そんな授業を受けていったのだった。
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幾何学の授業や音楽の授業などが終わった後、次は道徳の授業になった。
前世の世界では、道徳の授業なんてあまり沢山するものではなかった。
けれどメルザスの世界では、道徳の授業がかなり頻繁に行われる。
この世界では、精霊様達の意向によって情緒教育に力が入れられているので、その一環として倫理観や法律を学ぶ授業も大切にされているのだ。
先生が教卓で、道徳の教科書に書かれた話の内容を読み上げる。
ある家の隣に、新しい一家が引っ越してきました。
しかしその2つの一家は、あまり馬が合いませんでした。
そしてある日、元々その場所に住んでいた一家は、とうとう引っ越してきた一家に対して不満を爆発させてしまいました。
みたいな感じの話だった。
先生は、元々住んでいた人の言い分は正当かどうかみんなで考えてみましょう、みたいな事を私たちへと話した。
それを聞いたクラスのみんなは、自主的に、周りの子達と議論をし出す。
私はそんな光景を、どうすればいいかよく分からなかったので、ただぼけーっと眺める。
すると、遠くの席から女の子が歩いてきて、私の隣へと座った。
「こんにちは、リューリュちゃん。私、ヒスイって言うの」
「あ、こんにちは……」
リューリュちゃんか……。
なんか馴れ馴れしいような気がするけど、同じクラスなんだしそんなものなのだろうか?
もう長い間学校なんて行っていなかったので、クラスメイトとの距離感がよく分からない。
「この話、リューリュちゃんはどう思う?」
この話とは、道徳の教科書の話の事だろう。
私が何もしていないのを見て、授業に参加させる為に、話しかけてきてくれたのだろうか。
「えっと、とりあえず悪いのは、元々住んでた人の方なんじゃないかな……」
「どうして?」
「だって、相手の人に悪気はなかったのに、それで怒るなんて理不尽だよ」
「うーん。でも私は、引っ越してきた人の方が悪いと思うけどな。だって初対面に礼儀正しくするのなんて、当然のマナーだよ」
「そうなのかなぁ……」
「まあでも、そもそもこの話の問題点は……」
どうやらヒスイさんは、普通に私と道徳の授業をしにきたらしい。
ヒスイさんは私へと、別の授業で教わった倫理観の話とかをしてくれた。
私はその道徳の授業が終わるまで、ヒスイさんがしてくれる会話に、相槌を打ったりたまに頭を使ったりしていた。
そして、道徳の授業が終わった。
もうお昼なので、今からはお昼休みの時間になるらしい。
「終わったねー」
「そうだね……」
分からない事ばかりだし、知らない人ばかりだし、午前の授業は精神的にかなり疲れた……。
「リューリュちゃんって、お弁当とか持ってきてるの?」
どうやらヒスイさんは、授業が終わった後も普通に話しかけてくるつもりらしい。
転入生の私とコミュニケーションが取りたいのだろう。
「いや、学校に食堂があるらしいから、そこで食べようと思ってたんだけど」
「そうなんだ。じゃあ私も食堂行くから、一緒にお昼ご飯食べない?」
「別にいいけど……」
本当は、疲れてるから一人で食べたい。
けれど学校に来て初日で人の誘いを断るのは、何か駄目だろう。
「やった、ありがとー」
そして私は、ヒスイさんと2人で食事をすることになった。
食堂で昼食を取っていると、まtヒスイさんが話しかけてくる。
「私、昔から色んな人の話を聞くのが好きなの。だからあなたに話しかけちゃった」
「そうなんだ」
「ねえねえ、ストラハの精霊神様ってどんな方だったの? 会った事あるんでしょ? やっぱり立派な方なの?」
「えー、えっとね……」
ヒスイさんは勢いよく、色んな事を質問してくる。
私は正直めんどくさかったが、そんな気持ちは表に出さないようにしながら、一つ一つ質問に答えてあげた。
そして、しばらく経って質問も落ち着いた頃。
私は逆に、ヒスイさんに一つ質問してみる。
「ねえ、ヒスイさんは学校って好き?」
「うん、好きだよ」
ヒスイさんは平然と、そんな風に答える。
「どうして?」
「だって学校って、人が一杯いて、賑やかで楽しいよ」
「そうなんだ……」
私はそんな言葉を聞いて、この子は明るい子なんだなぁとか、そんな事を思っていた。
正直、こういうタイプの人は苦手だ……。
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昼休みが終わった後、教室に戻る。
そして午後も、ヒテイ様に色々と解説して貰いながら、私には難しい授業をしばらく受けた。
そして昼も大きく回った頃。その日の授業は、やっと終わりになった。
疲れたなぁ……。
そんな事を思いながら、一人で宿に帰ろうとする。
「リューリュちゃん、一緒に帰らない?」
するとヒスイさんが、また私へと、普通に話しかけてきた。
「ごめん、私今日はちょっと疲れてるから」
正直、帰る時まで疲れたくなかったので、ヒスイさんの誘いを断る。
「そっか……、じゃあまた明日ね」
「うん」
私は校舎を出て、人気の少ない所に着いて安心した後、そのまま一人で宿へと帰った。
そして宿に着いた後。姫に癒されようと思ったのだが、肝心の姫がいなかった。
「ヒテイ様ー」
(……どうしたの?)
何時もならスピカ様を呼び出す所だが、今の私の導き役はヒテイ様だと言いつけられているので、代わりにヒテイ様を呼び出す。
「姫、どこにいるか分かります? 会いたいんですけど」
(他の精霊の子達に聞いてみるね)
宿の中で荷物などを下ろしながら、ヒテイ様の言葉を待つ。
(聖域の北の方歩いてるって。案内したほうがいい?)
「お願いします」
私はヒテイ様に案内して貰って、姫の元へと向かったのだった。
そしてしばらく歩いた後、道を歩いている姫がいた。
「姫ー」
「あ、リューリュさん」
私は、そんな姫の元に駆け寄る。
「姫、何してたの?」
「散歩してました。私、特に何もする事がないので……」
「そっかぁ……」
姫は私に付いてきているだけなので、衣食住などの保証はされているが、別にやる事は何も指示されていない。
だから、特に何もせずぶらぶらと過ごしていたらしい。
「リューリュさんは、学校はどうでしたか?」
「大変だったよー。周りは知らない人ばっかだし、勉強は全然分かんないしでさー」
「そうですか……」
姫は、自身も学校にあんまり楽しい思い出がないからか、私に対して同情してくれる。それが嬉しい。
私はそんな姫へと、何となく一つ質問してみる。
「姫ー」
「なんですか?」
「姫は、学校が苦手だったんだよね。その理由はなんでなんだっけ」
旅の間に何度も聞いた話だけれど、改めて聞いてみる。
「学校は、人が沢山いて賑やかです。私、そういう場所はあまり得意ではないですから……」
姫は、そんな事を答えてくれる。
それは私と同じ思考で、そして、私が側にいて一番落ち着ける人の思考だ。
「姫ー」
「わわっ」
私はそんな姫が、愛おしくて抱きつく。
姫は私にとって、やっぱり特別な存在なんだなぁ。そんな事を、私は改めて思っていた。
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学校に通い始めてから、10日くらいが経った。
学校に通い始めた頃は、よくヒスイさんに絡まれた。
どうやらヒスイさんは、クラスの中でも誰とでも話すような子だったらしくて、だから私にも分け隔てなく接してくれたらしい。
しかし私は、他人があまり得意な性格ではなく、そういう子に絡まれているよりは、一人で過ごしている方が落ち着くような性格だった。
なのでヒスイさんには、それとなく距離を置くような接し方をさせて貰った。
そうしていると ヒスイさんが毎日絡んでくるような事はなくなった。
たぶん、私があまり他人と接する事が得意な性格ではない事を察してくれたのだろう。
また、私に対する他の子達の反応も、質問する事などが無くなったからか、流石に大分落ち着いてきていた。
午前の授業が終わって、昼休みになる。
私は、姫が暇だったから作ってくれたお弁当を食べる。
そして食べ終わった後、特にやる事もないので、ただぼーっと窓の外を眺める。
私はこの学校に、未だに一人も友達が出来ていない。
その理由は、私が人見知りする性格で、しかもどうでもいい他人と話すのをめんどくさいと思ってしまうような性格だからだ。
たぶん、ヒスイさんとはもう少し友好的に接したら友達になれるのだろうけれど、そんな気も起きない。
だから私は、この教室の中には、気楽に会話を出来るような相手が誰もいない。
それは私が望んだ事でもあるのだが、やはり、不便でもある。
道徳の授業の時などは気軽に話せる相手がいないと困るし、それに自意識過剰なのかもしれないが、教室という空間に一人でいると、何か駄目な事をしているような気分になる。
だから、ヒスイさんみたいな一緒にいて疲れる相手は遠慮したいけれど、もう少し私が接しやすい人とだったら、友達になっておきたいなと思う。
なので私はここ最近、接しやすそうな人がいないかと思って、しばらく教室を観察していた。
このクラスはもう最終学年なので、当たり前だが、みんな完全に人間関係の輪が出来上がってしまっている。
しかし観察をした結果、一人だけ、私と同じように教室の隅で、毎日一人で過ごしている子がいた。
既に人間関係が出来ている人の輪の中には、入って行き辛い。
けれど友達がいない子だったら、私でも上手く友達になれるような気がする。
なので私はとりあえず、その子に焦点を絞って、また少し人間観察でもしてみる事にした。
そうしてまた、数日が過ぎた。
私は学校に通いながらも、教室の中で一人で過ごしているその子の事を観察し続けた。
そしてその結果、幾つかの事が分かった。
まず、その子はオルカという名前ならしい。
そしてその子は、何故かは知らないが、他人を自分から遠ざけているらしい。つまり友達が出来ないタイプなのではなくて、作らないタイプなのだ。
そしてその子は、言動が少しトゲトゲしている所はあるけれど、大人しい性格で、たぶん私に近いような性格をしているようだった。
何時もの昼休み。
私は教室の中で、姫がまた作ってくれたお弁当を食べる。
そして食べ終わった後、教室を見渡してみる。
オルカさんは何時ものように、窓の外を見ながらぼーっとしている。
他人に話しかけるのは怖いけれど、教室でずっと一人でいるのは、それはそれで辛いものがある。
だから私は意を決して、オルカさんが座っている席の前に移動する。
そしてオルカさんへと、話しかけてみる。
「何してるの?」
「……別に、何もしてないけれど」
私が話しかけると、オルカさんはめんどくさそうに私を見る。
私は別に、この子に何か嫌われるような事をした訳ではない。この子は誰に対しても、こんな風に接しているのだ。
「ねえオルカさん、あなた、学校って好き?」
自分でも唐突だと思うが、思い切ってそんな事を聞いてみる。
「……別に」
オルカさんは私へと、ただ一言、そんな答えをくれた。
「そっか。その理由とか聞いてもいい?」
「……なんでよ」
「聞きたいから」
オルカさんは、たぶん、話しかけんなオーラみたいなものを出している。
けれど私は話しかけたかったので、それを無視して話かける。
「はぁ……」
会話しない事は無理だと悟ったのだろう。
オルカさんはめんどくさそうに、私へと話してくれる。
「私、騒がしい場所が苦手なの。学校って何時も騒がしいもの」
私はそれを聞いて、この子に話しかけた事は間違っていなかったと思った。
「ねえオルカさん。私、この学校に来たばっかりだから友達がいなくて、それで、友達が欲しいなーとか思うの」
「……それで?」
「私、オルカさんと友達になりたいなーとか、そんな事を思うんだけど……」
「何で私なの? あなたは人気者なんだから、ヒスイさん辺りと仲良くなっておけばいいと思うのだけれど」
「私こう見えて、結構暗い性格なの。だから、ヒスイさんはいい人だとは思うんだけど、ああいう明るい子とはあんまり合わないかなーとか思って……」
「それで、私と友達になりたい訳?」
「うん」
それで、私の意図が伝わってくれたらしい。
「ごめんなさい。私、一人でいるのが好きなの」
しかしオルカさんは、ただ一言、ばっさりと私を拒絶した。
私に何の背景もなければ、ここまで冷たい態度を取られたら、素直に諦めているのだろう。
けれどここで引き下がってしまえば、私はこれからも、学校で一人で過ごさなくてはならなくなる。
そして私には、オルカさんと簡単に友達になれる奥の手もある。
なので私は、オルカさんへと話を続ける
「ねえオルカさん。私、勇者なの」
「知っているけれど」
「だから私、ちょっとくらいのわがままなら、精霊様に聞いて貰えたりするんだよね。
例えばヒテイ様に、オルカちゃんに私と友達になってくれるように頼んだりー、とか……」
(……え、して欲しいの?)
少しだけテンポが遅れて、ヒテイ様が反応してくれる。
ちゃんと反応してくれてよかった。
「ヒテイ様、それくらいいいですよね? 私も頑張ってるんですから」
私は、この世界にとって重要な存在だ。
だからスピカ様もそうだが、ヒテイ様にも、私と不仲になりたくないというのがある。
だからこれくらいのお願いなら聞いて貰えると思う。
(……オルカ。お願い、この子と友達になってあげて)
案の定、ヒテイ様は私のお願いを聞いてくれて、オルカさんへとそんな事を頼んでくれた。
オルカさんも、ヒテイ様に言われて断る事は簡単にはできないだろう。
精霊様は、この世界にとって神様のようなものなのだから。
「……あなた確か、リューリュさんって名前だったわよね」
「そうだけど」
オルカさんは、私をじとっと睨みながら話す。
「私、他人に自分の世界に入ってこられるのって、すっごく嫌いなの。
だから、あなたが私に媚びへつらえって言うのなら、私はあなたを許さない」
他人に睨まれるのは怖いけれど、私は頑張って笑顔のまま、オルカさんへと話す。
「友達になって欲しい人に、そんなの望まないよ。
私はただ、お昼の時間とかに、話す相手がいてくれたらそれでいいの。
だから、ただ構ってさえくれたら、後は自分の思うままに適当に過ごしてくれたらいいから」
私のそんな言葉に、オルカさんは少し悩む。
「はぁ……、分かったわよ……」
そしてため息を付いた後、そんな事を言ってくれた。
「やった。じゃあ親睦の記念に、これからあなたの事、オルカちゃんって呼んでもいい?」
「まあ、そのくらいなら……」
「ありがと、オルカちゃん」
そうして私は、そのちょっと冷たい感じの女の子と、友達になったのだった。




