12話 水の大聖域ポポラハ
ルルストからポポラハまでは、かなりの距離があるので、船で2ヶ月以上の航海をしなければならないらしい。
そんな長距離の航海、前世の世界だったら相当な技術がないと不可能なのだろうけれど、この世界ではそれが出来る。
この世界には、魔纏の気配探知の力があるので、羅針盤などがなくても目的地の方角が分からなくなる事がない。
そして、船は精霊様が導いてくれているので、変な場所に行かないように誘導してくれるし、進む先に嵐などが起こっていたら事前に引き返すよう知らせてくれるらしい。
だから、この世界の船旅は安全で、難破するような心配は全然ない。
例えば今私が乗っている船も、商船として普段から定期的に、ルルストとポポラハの間を行き来しているらしかった。
そんな船での生活が、とりあえず20日程が過ぎた。
私も姫も、船で過ごす時間にもすっかり慣れてきて、思い思いの時間を過ごすようになっていた。
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ざざーんざざーんと、海が波打つ音が聞こえる。
波に揺られる船の中で、私は今日も、のんびりと目を覚ます。
「おはようございます、リューリュさん」
目を覚ますと、窓から海を眺めていた姫が、私へと挨拶してくれた。
私は朝が弱いタイプなので、姫の方が先に目を覚ましている事が多い。
そしてどうやら今日も、姫の方が先に目を覚ましていたらしい。
「おはよ、姫……」
「起きたら、朝ごはん食べに行きましょう」
「うん」
私は軽く顔を洗った後、姫と一緒に客室を出る。
そして船の中を少し移動して、厨房へと付いた。
船の厨房はそんなに広くない。
厨房には料理人の人がいて、その人に朝食を注文すると、何時も通り料理を作ってくれる。
船には保存が効く食料しか積まれていないので、料理とは言っても、食べるものは毎日殆ど同じだ。
なのでその日出された食事も、何時も出されているものと同じ、乾かしたパンと魚をダシに使ったスープだった。
「姫、今日は何して過ごすの?」
私はパサパサのパンを食べながら、姫へと雑談をする。
「今日も、船にあった本を読もうと思います」
船の上にはやる事がないので、暇つぶしの手段として、小さな図書館が設置してある。
元々読書が趣味である姫は、そこから借りてきた本を読むのが最近楽しいらしい。
「じゃあ私は、今日も釣りしてるね」
一方の私は、最近釣りをして過ごす事がブームになっている。
オネストにいた頃から釣りは好きだったが、勇者にさせられた後全くやっていなかったので、最近またやり始めてみたら思ったより楽しかったのだ。
ルルストで暇潰し用に釣竿を買っておいてよかった。
そんな他愛もない話をした後。私達は引き続き朝食を食べた。
そうして朝食を食べ終えて、姫と一緒に客室に戻る。
「じゃあまたー」
「はい、また」
そして、姫は本を読む為に客室に残り、私は釣竿を持って甲板へと向かうのだった。
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甲板の隅っこで、釣り糸を垂らす。
そして、どこまでも広がる海面を眺めながら、ぼーっとする。
そしてしばらく経ったら、魚がかかった。
私は竿を引き上げる。今回はちょっと大物らしかったので、竿に魔纏の力を纏って、ちゃんと壊れないようにしてから引っ張った。
釣り上げた魚は、大きくて、目が3つ付いていて、牙が滅茶苦茶鋭くて、なんか全体的にちょっと怖い感じだった。
聖域の外にいる大きな生物は、基本的に全員魔物化している。なのでこの世界では、魚も大抵は魔物なのだ。
「スピカ様ー」
見たことがない魚だったので、スピカ様に話しかけてみる。
(……何ですか?)
「なんか、こんな魚釣れたんですけど」
(ああ、それは毒があるので食べられませんよ)
「そですか……」
私は少ししょんぼりしながら、そのちょっと怖い感じだった魚を海に返してあげる。
そしてまた、海に釣り糸を垂らす。
そして魚がかかるまで、ぼーっと、特に何も考えずただ潮風に揺られる。
そうして今日も、特に何もする必要もない、のんびりした時間が流れていく……。
そして数時間が過ぎて、もうすっかりお昼頃になった。
船で過ごす時間は、とてものんびりしている。
この時間は、試練中ではないからやる事もないし、旅をしている時みたいに歩く必要もないし、ただ船が進むのをぼーっと待っているだけだからだ。
こうやって何もせず過ごしていると、少しだけ、オネストでのあの何も考えなくてよかった日々に戻ったような感覚になる。
「お母さん、今頃何してるのかな……」
青い海を眺めながら、ぼんやりと、そんな事を思う。
お母さんは結婚した後、新しい子供も2人出来たらしい。
今頃新しい家庭を築いて、私の全然知らない人たちと、元気でやっているのだろうか……。
正直言って、私はもう完全に、お母さんの事を恨んでいる。
私が勇者になんかさせられたのは、どう考えてもお母さんのせいだし、あんな人の事なんて信用するべきじゃなかった。
今の私は、お母さんが私の事をスピカ様に告げた理由は、自堕落でめんどうな娘を家から追い出したかったからだとすら思っている。
もしかしたら、私のこの考えは見当違いなのかもしれない。
けれど、どうせお母さんが何を考えているかなんて分からないのだから、もう恨んでおいた方が気が楽なのだ。
でも恨んだとしても、私の中の寂しさがなくなってくれる訳ではない。
だから、お母さんの事をこうやってふと思い出してしまった時、私は寂しい気分になってしまう。
以前までの私だったら、こんな気分になった時、寂しさが収まるまでじっと我慢しているしかなかったのだろう。
けれど今の私には、姫がいる。
だから私は、姫にこの寂しさを何とかして埋めて貰おうと思った。
釣竿を垂らしながら、姫にどんな風にして寂しさを埋めて貰おうか、考える。
少し悩んだ後。私は姫に、自分の秘密を打ち明けることを思い付いた。
私の秘密。それは、私の前世の記憶の事だ。
私は未だに、スピカ様に前世の記憶がある事を打ち明けていない。
そしてスピカ様は、私の事を1年中どんな時でも、良く言えば見守ってくれていて、悪く言えば監視している。
なので私は、未だに姫に、自分の前世の記憶の事を話せていない。
そんな事に付いては、さっきまではしょうがないと思っていた。
けれど改めて考えてみれば、やっぱり、私は姫に前世の話とかもしたいと思う。
なので私は思い切って、スピカ様に頼んでみることにした。
「スピカ様ー」
(……何ですか?)
「スピカ様って、何時も私の事見守ってくれてますよね」
そして何時も、私の事を監視してますよね。
(そうですけれど)
「私、姫と内緒話がしたいなーとか、そんな事を思うんですけど……」
(内緒話ですか……)
「はい。だからこれからちょっとの間、見守るのをやめて貰えたらなー、なんて……」
スピカ様が私の事をずっと見ているのは、私の状態とかを完全に管理しておく為なんだと思う。
それは体調とかだけの話ではなく、誰と友達になったかとか、誰にどんな話をしたかとか、そんな事に付いてもだ。
私はこの世界にとって相当重要な存在らしいから、私の事は何でも把握しておきたいのだろう。
そう考えると、やっぱ内緒話とかは無理だろうか……。
(そうですね、別にかまいませんよ)
断られるのではないかなと思ったが、スピカ様は案外、あっさりと許可を出してくれた。
「あ、いいんですか」
(私は出来れば、あなたの事は全部把握しておきたいです。
けれどそれと同じくらい、あなたとの関係を良好なままにしておく事も大切なのです。
なので、そのくらいなら大丈夫ですよ)
「そですか……」
こんなに簡単に認めて貰えるなら、もうちょっと早く言い出してもよかったかもしれないな……。
私はスピカ様に感謝しながら、今日は日が落ちるまで、姫と2人っきりにして欲しいと告げた。
そして私は、垂らしていた釣り糸を戻してから、姫のいる客室へと帰ったのだった。
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客室に戻ったら、本を読んでいる姫がいた。
「姫ー」
「どうしたんですか、リューリュさん?」
まだ昼間なのに帰ってきた私へと、姫が不思議そうにする。
「さっきスピカ様に頼んで、今日の夜まで監視されてるのを外して貰ったの。
それで私、スピカ様には内緒で姫にだけ話しておきたい事があったから、この隙にそれを話しておこうと思って」
「なんですか、それ?」
姫は本を置いて、私の話を聞いてくれる。
「これは本当に、姫だから話すんだよ。絶対に誰にも内緒にしてね」
「はい、分かりました」
姫はそう約束してくれる。
ただの口約束だけれど、きっと姫なら守ってくれるだろう。
「私ね、実は生まれる前の記憶があるのー」
自分が違う世界で13年生きた事。その世界はこの世界とは全然違う世界だった事。前世の私ものんびりと生きる事が好きだった事。
そんな、お母さんにもスピカ様にも話さなかった秘密を、姫へとかいつまんで話したのだった。
「そうなんですか……」
結構突拍子もない話だったが、私の話す事を、姫は何も疑ったりせず聞いてくれた。
「だから私って、本当は姫よりずっと年上だと言えちゃったりするかもしれないんだけど……」
私は、姫がこんな自分をちゃんと受け入れてくれるのか不安になる。
けれど姫は、何時もと変わらない様子で、私へと言葉をかけてくれる。
「びっくりはしましたけれど、でも、リューリュさんはリューリュさんですよ。
私の気持ちを分かってくれた人で、そして、私の事を助けてくれた人です。
だからそんな事で、リューリュさんへの対応が変わったりなんてしませんよ」
「姫……」
私はじーんとしながら、改めて、姫の存在に感謝する。
「それで、その前世の世界の学校がどんな所だったのか、もう少し聞かせて貰ってもいいでしょうか……?」
「うん、勿論だよー」
そして私は、夜が来るまで、私の前世の世界の話をしてあげた。
私の前世の記憶は、実は結構あやふやだったりする。
自分の名前とか楽しかった事は覚えているが、どうでもいい人の名前や別に楽しくなかった事などは思い出せないのだ。
何ていうか、印象に残っている部分しか記憶に残っていないという感じだ。
なので、詳しく聞かれたら思い出せない部分も幾つかあった。
けれど私は、聞かれるままに出来る限り色んな事を思い出して、そして姫へと話してあげたのだった。
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そして、夜になった。
スピカ様の監視がまた戻ってくる前に、私は改めて、今日話したことは絶対秘密だと念を押しておいた。
私に前世の記憶があるなんて事がスピカ様にバレたら、どんなめんどくさい事させられるか想像もつかないからな……。
(リューリュ、もうよろしいですか?)
「はい、もういいですよー」
スピカ様は戻ってきた後も、何も質問してきたりはしなかった。
だからたぶん、本当に何も聞かないでいてくれたのだろう。
約束を破らなかったスピカ様に、私は改めて信頼の念を寄せる。
「別にスピカ様の悪口を言ってた訳じゃないんで、それは安心してくださいね」
(くす、それならいいのですけれどね)
私の言葉に、スピカ様はちょっと笑ってくれる。
本当に、ただ絶対めんどくさい事になるから言いたくないだけで、私は別にスピカ様の事が嫌いな訳ではないのだ。
(それではリューリュ。もうう夜なので、寝る前の修行をしましょう)
「はーい」
私は、船の甲板の上に出る。
そして邪魔にならない範囲で、魔法を使ったりして魔力を消費しておいた。
勇気の試練は終わったが、別に魔王との戦いが終わった訳ではないので、簡単な修行は引き続けさせられている。
これは私が旅をしている間は、もうずっとしていないといけない事なのだろう。
少しして魔力を使い終わった後。
私は、姫のいる客室に戻ってくる。
「今日もお疲れ様です、リューリュさん」
「うん、姫ー」
姫は私を労ってくれて、私はそんな姫に感謝をする。
前世の記憶の事を打ち明けられてから、私はますます、姫に懐けるようになった気がする。
そしてそんな感覚が、自分でも凄く嬉しい。
その後少しして、もう寝る時間になった。
「それじゃ、おやすみなさい、スピカ様」
(ええ、リューリュ)
「姫も、おやすみー」
「はい、リューリュさん」
私は、スピカ様が見守ってくれていて姫が隣にいてくれるという、そんな事に安心を覚えながら、その日ものんびりと眠りに付いたのだった。
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釣りをしたり、本を読んだり、昼寝をしたり、特に何もせずぼーっと過ごしたり。
ずっとこんな時間が続けばいいと思うようなのんびりした日々を、しばらく船の上で過ごした。
しかしそんな日々も、何時かは終わりがきてしまう。
ルルストを出発してから、2ヶ月以上が経った頃。
船はついに、水の大聖域ポポラハへと到着してしまった。
船が錨を下ろすのを待ちながら、見えている景色を堪能する。
「温かいですね……」
「そうだねー……」
そろそろ春の季節にさしかかっているからというのもあるのだろうけれど、この辺りは本当に温かい。
たぶん、かなり南の方にまで来たからなのだろう。
「砂浜、真っ白ですね……」
「そうだねー……」
この辺りは、砂浜が真っ白で、海も透き通っているように綺麗だ。
どういう理屈でこうなっているんだろうか……?
そんな風に辺りの景色を眺めていたら、やがて船が錨を下ろし終えて、陸に降りれる状態になった
「行きましょう、リューリュさん」
姫は楽しそうに、船から降りる。
たぶん見知らぬ場所に降り立つ事に、ワクワクしているのだろう。
「うん、そだね……」
私は姫とは違い、船でののんびりとした時間を名残惜しく思う。
けれど行かない訳にはいかないので、姫と一緒に陸へと降りるのだった。
(それでは、まずは天界に向かいますね。このまま道をまっすぐ進んで下さい)
「はーい」
スピカ様の声に従い、姫と一緒に道を歩いていく。
ポポラハも他の聖域と同じように、外側は畑になっていて、内側に中央街がある作りになっていた。
そして、家はどれも風通しが良さそうな作りになっていて、道行く人たちはみんな涼しそうな服を着こなしていた。
ポポラハの中央に付いたら、他の聖域と同じように、整備された庭園が広がっていた。
そしてその庭園には、ストラハと同じように、天界へと向かう為の台座が設置されていた。
(では、それに乗って下さい)
「はい……」
「はーい」
そして私達は、台座に乗って天界へと向かった。
私はもう何度もやったので慣れているが、姫は天界に行くのは初めてらしいので、恐る恐る台座へと乗っていた。
台座が空へと浮かび上がって、地面が小さくなっていく。
そして少し経ったら、やがて天界へと付いた。
天界は、規模こそストラハよりは小さいものの、作りはストラハと同じような感じだった。
人は住んでいる場所によって文化が違うが、精霊様にはそういう事がないのかもしれない。
スピカ様に案内されるままに、天界の中を歩いていく。
そして道の途中。スピカ様は私へと、諭すように話す。
(リューリュ。知恵の試練が始まれば、あなたの導き役は私からヒテイに移ります。
私もあなたを見守り続けますので、あなたが何をしているかはちゃんと把握しています。
しかし、あなたを導く役目はヒテイが請け負う事になりますので、ヒテイの言うことをしっかり聞いてあげて下さいね)
「はーい」
ヒテイ様、どんな人なんだろうか。スピカ様みたいにいい人だったらいいな……。
そんな事を思いながら、私は道を進んでいった。
しばらく歩いたら、スピカ様がいた場所と同じような、石で作られた神殿があった。
私達は、その神殿の中に入る。
神殿の中も、スピカ様のいた神殿と同じように、入口の場所は謁見室になっていた。
そしてそこには、何となく眠そうな感じの目をした精霊様がいた。
(ヒテイ。それでは、リューリュをお願いしますね)
頭の中にそんな声が響く。この方がヒテイ様なのか……。
「うん。任せて、スピカ」
そのスピカ様の声は、ヒテイ様にも聞こえていたらしい。
たった一言づつのやりとりだったが、それは事務的なものというよりは、友達同士の頼み事みたいな感じの印象を受けた。
「こんにちは、リューリュ、それとその友達のイルマ」
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
私はそこまで緊張しないが、姫はかなり緊張している。
この世界には、精霊様は神様的な思想が人々の常識としてある。
そして、私は前世の世界の常識で生きている所があるので、そんな思想はそこまでは染み込んでいないが、姫はそんな思想がちゃんと染み込んでいる。
だから、私と姫とでは緊張の差が出るのだろう。
「スピカから聞いてるだろうけど、私がこのポポラハの大精霊のヒテイ。よろしく」
ヒテイ様は、少しぶっきらぼうな感じで挨拶をしてくれる。
スピカ様と比べると少し突き放したような話し方に見えるが、たぶんこれは、ヒテイ様の素の話し方なのだろう。
別に精霊様が全員スピカ様みたいな話し方をしないといけない訳でもないしな。
「はい、よろしくお願いします」
私は頭を下げておく。
ヒテイ様は普通に、私へと話を続けてくれる。
「私はスピカと友達だから、よく話をしてる。だから、あなたの事もよく聞いてる。
あなたがどんな性格かとか、どうして勇者をやっているかとか、そんな事も。
だから私は、あなたが学校に行くのを嫌だと思ってる事とかも、ちゃんと分かってると思う」
もう既に、そんな事まで分かって貰えてるのか。
「でもリューリュ。あなたはこの世界で唯一無二の力を持っている。そしてあなたの持つその才能は、闇に覆われてしまったこの世界の、かけがえのない希望なの。
だから、分かってるだろうけど、私達はあなたに頑張って貰わないといけない」
「はーい……」
そして分かっていても許してはくれないのも、スピカ様と同じなのか……。
「だから私は、これから1年間、あなたに知恵の試練というものを行ってもらう。
けれどその前に一つ。リューリュは、知恵っていうものはどんなものだと思う?」
「知恵、ですか……?」
そんな事を尋ねられて、少し悩む。
えーっと、なんだろ……。
「頭の良さとかですか?」
「うん、大体それであってる。けれどもう少し踏み込んだ所まで理解していて欲しいから、説明させて貰うね」
「知恵とは、道理を判断したり、そこにあるものを正しく認識したり、物事の真理を見極めたりする、そんな心の動きの事。
そしてそんな知恵とは、色んなものに触れる事によって初めて育まれるものなの。
例えば、ただ知識を付けるだけなら、ずっと図書館で本を読んでいればいい。けれど、知恵と知識は違うものだから、それじゃ本当の知恵は身に付かない。
知恵を育てるには、色んなものに触れて貰って、そして色んな事を考えて貰う事自体が大切なの。
そして私は、この世界で一番色んな事を考えて貰える環境は、学校っていう場所なんだって思ってる。
だからあなたの試練は、1年間学校に通って貰うという事になったの」
私は学校なんて、勉強したりみんなが騒いでるだけの場所っていうイメージしかない。
けれど、そんな解釈もあるのか……。
「人の頭の良さなんて、簡単に変えられるものじゃない。
だから私は、この知恵の試練でも、そこまで沢山の事はあなたには求めない。
けれどそれでも、あなたがこの1年間で、色んなものに触れて、色んな事に悩んで、そして少しでも知恵の心を育ててくれたら嬉しいなって思う。
だからリューリュ。明日から、頑張ってね」
「はーい……」
学校に行かないといけないという話はなんとなく分かった。
でも正直、嫌だなぁと思う。
まあ今更断れないし、ヒテイ様が私のそんな気持ちを分かってくれてるだけ、まだマシだと思うしかないか……。
ヒテイ様はその後、もう学校に通わせる準備は出来ている事とか、だから明日から学校に通う事になる事とか、そんな事を私へと説明した。
そうして私は、明日から学校に通う事になっていたのだった。
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ヒティ様の話が終わった後。
私達はその場を後して、また地上へと戻った。
(それじゃあ、まずはその道を右に曲がって)
「はい」
「はーい」
導き役がスピカ様からヒテイ様に変わったので、ここからはヒテイ様が道案内をしてくれる。
私達はその声に従って、ポポラハの宿へと向かった。
宿は、ポポラハの隅の海に面した場所にあった。
時間はもう夕方になっていたので、透き通った海に夕日が映えていて、宿の前にはとても綺麗な光景が広がっていた。
「こんな所に泊まっていいんですか……?」
(うん。ここがポポラハの宿だから)
姫はこの前、ポポラハはこの世界で一番綺麗な聖域だと教わったと言っていた。
この景色を見ていたら、それも納得出来る気がする。
「綺麗な所でよかったね、姫……」
「そうですね……」
私達は少しの間、そこから見える景色に見惚れていたのだった。
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ポポラハの宿で、料理を振舞って貰う。
パンやスープのような普通の食事の他に、ココナッツミルクを加工したらしいお菓子とかを食べさせて貰えた。
久しぶりに保存食以外のものを食べれて、しかもそれが見たこともない料理だったので、とても楽しい食事が出来た。
そしてお腹が一杯になって、お風呂なども済ませた後。
その日はもう遅いので、そのまま眠る事になった。
「はぁ……学校か……」
私はベットの中で、思わずため息を付いてしまう。
「そんなに嫌なんですか……?」
そうしていると、姫が話しかけてくれる。
「私、他人と接するのあんまり得意じゃないんだよ……」
「リューリュさん、私やスピカ様とは普通に話せてます。それにヒテイ様とも、ちゃんと受け答え出来ているように見えましたけど……」
「姫だって、学校じゃ上手く過ごせなかったけど、私と喋るのは平気でしょ。それと同じなの。
姫は特別だし、聖霊様も人間じゃないから何となく接しやすいけど、普通の人と一緒にいるのは、やっぱりあんまり得意じゃないの……」
だから、明日から学校に行かないといけない事を思えば、憂鬱な気持ちになってしまう。
はぁ……。姫と2人だけで旅をしてたり、船でのんびりしてたり、ここしばらくは楽しかったな……。
「頑張って下さいね、リューリュさん……」
「うん、姫……」
姫に応援して貰えて、少しだけ元気が出る。
そして、明日に対して不安な気持ちを抱いたりしながらも、その日も眠りに付いていたのだった。




