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11話 知らない場所へ

 私は今日、ある女の子と友達になった。

 その子は、私よりも2歳年下で、礼儀正しくて大人しくて、そして私の事を受け入れてくれた。

 だから私は、その子を連れ出してあげる為に、一緒にストラハを旅立った。

 しかし時間はもう既に夜だったので、聖域から少し離れた所で、直ぐに野宿をする事になった。

 

 私は姫と2人で、ぱちぱちと燃える焚き火を眺める。


(イルマ。あなたが勇者の旅へと付いて行く事、両親に伝えておきましたよ)


 すると、スピカ様のそんな声が頭の中に響いた。

 勢いだけで出てきてしまったけれど、ちゃんと連絡してくれたのか。ありがたい。


「ありがとうございます、スピカ様……」


 姫は、スピカ様にお礼を言う。

 そういえば、私はまだスピカ様にお礼を言っていなかった。私も言っておこう。


「スピカ様、ありがとうございます。私を姫と出会わせてくれて」


 本当に、感謝してもし足りない。


(リューリュ。あなたは人見知りな割に寂しがり屋な所があるので、一度友達が出来れば、その相手にべったり懐くのではないかと思っていました。

 けれどまさか、たった1日でここまでイルマと仲良くなるとは思いませんでしたよ……)


 スピカ様は、4年半以上の時間ずっと、私に友達が全くいない事を心配していた。

 そして今日、それがたった1日で解消されてしまったのだ。今は天界で苦笑いでもしているのかもしれない。

 実際自分でも、私がここまで簡単に誰かに懐くなんてびっくりだ。


(それと、イルマ)

「はい、なんでしょうかっ……」


 スピカ様は、また姫に話しかける。

 姫はこんなに偉い相手と話す事に慣れていないからか、かなり緊張している。


(リューリュはこう見えて、寂しがり屋な子です。

 なのであなたがリューリュの旅に付いて来てくれるのならば、それはこの子にとって、きっととても大きな励みになります。

 だからイルマ。どうかリューリュを、よろしくお願いしますね)


 なんかそんな風に言われると、親から友達に宜しくされてるみたいで恥ずかしいな……。


「その、私なんかで本当にいいんでしょうか……」


 姫は私の方を見ながら、不安そうに話す。

 自分なんかが私の励みになるか、そんな事を心配しているのかもしれない。

 私はそんな姫へと、改めて自分の気持ちを話す。


「私は昨日までさ、ずっとスピカ様と2人だけで、勇者としての生活をしてたんだ。

 それはとっても寂しかったし、辛かったし、そしてこれからもずっと、そんな日々が続いていくんだと思ってた。

 けれど、私にはとても大切な友達が出来た。そしてその友達は、今日から私に付いて来てくれる。

 私はそれだけで、本当にとっても嬉しいの。だから姫が付いて来てくれるなら、私はそれだけで嬉しいよ。」

「でも私、リューリュさんの邪魔になったりしないでしょうか……」

「そんなの、なる訳ないよー。姫がいてくれたらそれだけで、私は寂しい気持ちが凄く紛れるんだからさ」

 

 現に私は今、昨日までからは考えられないくらい、とても温かい気持ちでいる。


「そうなんですか……」

「うん。そうなのー」


 姫は、それで納得してくれたらしい。

 私へと改めて向き直って、そして頭をぺこりと下げてきた。


「じゃあリューリュさん。改めて、よろしくお願いしますね」

「私こそ、改めてよろしくね。姫ー」


 私はニコニコと、姫とそんなやりとりをしていた。



 その後私は、姫へと、私達がこれから辿る旅路の説明をしてあげた。

 魔王を倒すことが最終目標な事や、その為には知恵の試練や優しさの試練というものを受ける事や、ポポラハに向かう為に明日からはルルストという場所へと向かう事などだ。


 その後は、姫がこれからどうするかという、そんな話もした。

 私は勢いで連れ出してきただけなので、姫にこれからどうして貰うかは、まだノープランだ。

 とりあえず私は、私達は旅の中で色んな聖域に寄る事になるから、その中で気に入った所があったら、姫はもうそこに住んでしまえばいいのではないかと思っている事を話した。

 姫はとりあえず、自分もそれでいいと言ってくれた。


 そしてその後、私は姫へと、私に付いてきたらストラハにもう一度帰れるかどうか分からないという話をした。

 もし私が勇者の旅を全て無事に終える事が出来たら、スピカ様の元に一旦帰る為に、ストラハへと帰る事になるだろう。

 しかし、私は旅の最後に魔王と戦わないといけないので、それを終えて生きていられるかどうかは分からない。

 なので私に付いて来たら、もうストラハには二度と帰れないかもしれない。

 私はそんな事を姫に告げたが、姫はそれを承知の上で、私に付いて来てくれると言ってくれた。

 

 そうして、とりあえず話しておくべき事は話し終えた。

 私は、姫と明日からも会える事を嬉しく思いながら、その日も眠りに付いたのだった。



----


 夜が明けて、朝になった。

 私は、姫と一緒に森の中を歩き始める。

 今はもうすっかり冬なので、周りの木々は落葉していて、道にも草などはあまり生えていない。

 なので草木が生い茂っている季節と比べると、森の中は明るい、道も少しは歩きやすい。


 魔纏の力のおかげで、私には体力が有り余っている。

 なので私は、大盾を背負いながらも、姫の荷物も全部自分で持ってあげている。

 しかしそれでも、姫は私よりも歩くペースが遅い。なので私は、歩くペースも姫に合わせてあげる。

 姫にも一応魔纏の力はあるので、私よりは遅いけれど、前世の世界の普通の女の子よりは体力がある。

 だから姫のペースに合わせていても、そこまで旅が遅れるという事はなかった。



「そういえば姫ってさ、魔物と戦ったり出来るの?」

 

 道を歩きながら、私はふと、そんな事を聞いてみる。


「私も分からないです。学校で魔物との戦い方を学んだ事はありますけれど、実際に戦ってみた事はないですから」

「そうなんだ。じゃあ次、魔物が出てきたら一度戦ってみる?」

「そうですね、やってみます」

 

 聖域の外は、魔物が一杯出てくる危険な場所だ。

 だから、どのくらいのレベルで自分の身を守れるのかは、ちゃんと確認しておいた方がいいだろう。

 という訳で、姫に一度魔物と戦ってもう事になった。


 そして、少し歩いた後。

 道の先に、小さな兎の魔物がいた。

 そんなに強くない魔物だし、これが相手なら怪我などは起こらないだろう。


「じゃあ姫、頑張って」

「はい」


 姫は少し前に出てから、魔物に向かって衝撃の魔法を放った。

 発生した衝撃の威力は、当然だが、私が使える魔法と比べれば遥かに低い。

 その衝撃が兎の魔物にぶつかる。

 兎の魔物は少し仰け反ったけれど、そんなに大きなダメージにはなっていなさそうだった。

 そして兎の魔物は、姫の存在を確認して、姫に向かって襲いかかってきた。


「ひゃう」


 姫は、兎の魔物に体当たりされる。

 ダメージはそれほどでも無さそうだけれど、びっくりした事によって尻餅をついてしまった。

 兎の魔物が、倒れた姫に追撃を加えようとする。

 私はその兎の魔物に、衝撃の魔法を当てる。

 兎の魔物は凄い勢いで吹っ飛んだ後、そのまま全力で逃げていった。


「姫、大丈夫?」

「面目ないです……」


 戦い慣れていないというのもあるだろうが、それを差し引いても、姫は戦闘は全然出来なさそうだ。


「姫ー、やっぱり魔物が出てきたら、私が守ってあげるね」

「はい、よろしくお願いします……」

「任せてよ。私こう見えても、勇者なんだからー」


 そうして、魔物が出てきたら、私は姫を守りながら戦う事になった。


 そして、しばらく歩いていた後。。

 私達の前に、とても強そうな虎の魔物が出てきた。

 私は盾を構えて、姫をその盾の内側に入れる。

 そして姫を絶対に安全な状態にした後、魔法で簡単に、その魔物を倒してみせた。


「リューリュさん、凄いです」

「えへへ……」


 姫に頼られて初めて、私はたぶん生まれて初めて、この戦う才能に感謝していたのだった。



----



 魔物がいたら姫を守ってあげて、姫が疲れたら一緒に休む。

 そして暇になったら、姫から学校の話などを聞いたり、自分の事を姫に話したり、そんな風にして癒して貰う。

 そうして旅をしていって、3日くらいが経った。


「あ……」


 道を歩いていたら、姫が唐突に、空を見上げる。


「どしたの?」

「リューリュさん、雪です……」


 姫がそう呟いた直後、私にも冷たい塊があたった。


「ほんとだ」


 気が付けば、空から雪が降ってきていた。


「うー……、寒い……」

「そうですね……」


 魔纏の力は、瞬間的な熱気や冷気などには耐えられるが、慢性的なものである気温まで防ぐ事は出来ない。

 なので私でも、冬の寒さはただ耐えるしかないのだ。

 私達は引き続き、しんしんと雪が降る森の中を歩き続ける。


「そういえば、ノストの冬は沢山の雪が積もるらしいですね」


 ノスト、魔王を倒す途中に最後に立ち寄る事になるらしい聖域の名前だ。


「そうなの?」


 姫は常識みたいに話すけれど、私は初耳だ。


「スピカ様から聞いてないんですか?」

「ほら、私、勇気の試練を受けてた頃はそれだけで精一杯だったからさ。

 それに先の事なんて、あんまり興味もなかったし……」


 よく考えたら私、これから向かう聖域達がどんな場所なのか、スピカ様から全然聞いてなかったな……。


「っていうか姫は、他の聖域がどんな場所か知ってるの?」

「はい。学校で習いましたから」

「そうなんだ……」


 私より姫の方が詳しいのか……。


「これから向かう聖域の事、私が知ってる範囲の事でよかったら教えましょうか?」

「うん。じゃあ教えてー」


 私はついでだし、姫にそんな情報を聞いておく事にした。 

 姫は学校の知識を思い出しながら、私へと丁寧に教えてくれる。


「まず、今向かっているルルストは、海に面した場所にある聖域ならしいです。

 人口は1000人程度で、文化や気候はそれ程ここと変わらないらしいです」


 人口1000人か。前世の世界じゃ物凄く少ない方なのかもしれないが、今世の世界では別に珍しい事ではない。

 ストラハの人口は1万人だったけれど、あれは特別だっただけで、オネストも1000人くらいしかいなかったし。

 しかし、海に面した場所にあるなら、特別な料理とか食べれるんだろうか……。

 オネストもストラハも内陸にある場所だったから、海の魚とか食べられたら楽しそうだなぁ。

 

「ルルストから船で向かうポポラハは、同じく海に面した場所にあって、小さな島が聖域になっているらしいです。

 3大聖域の一つで、人口は4000人程度。気候は一年中温かいらしいです。

 それから、私もよく知らないですけれど、ポポラハはこの世界で一番綺麗な聖域だって言われているらしいです」


 3大聖域とは、光の大聖域ストラハ、水の大聖域ポポラハ、花の大聖域ラグラハ、その3つを合わせた言い方だ。

 この3つの聖域は他の聖域と比べても特に大きいので、特別な扱いがされているらしい。

 小さな島で、一年中温かい場所か……。

 私の前世の世界で言えば、ハワイみたいな感じの場所なんだろうか?

 何にせよ、これから1年間かけて知恵の試練を受ける場所なのだから、過ごしやすい場所だといいな。


「ポポラハから船で向かうラグラハは、花が沢山咲いている場所で、独特の文化がある場所ならしいです。

 人口はポポラハと同じく4000人程度で、気候はそこまで温かくも寒くもないらしいです」

「独特な文化って?」

「私も、そこまで詳しくは教わらなかったので、よく分からないです。

 ただ、メルザスの世界が闇に覆われてしまう前、ラグラハのある場所には独特な国があったらしいです。

 そしてそれが今でも引き継がれているので、独特な文化が残っているらしいです」

「ふーん……」


 ラグラハは、1年間優しさの試練を受ける場所だ。

 花の大聖域と呼ばれているんだし、なんか花とかが一杯ある場所なんだろう。

 しかし、花が沢山咲いていて、独特の文化か……。これはどんな場所なのか、実際に行ってみないと想像出来ない気がする。


「ラグラハから船で向かうイストは、ルルストと同じ海に面した場所にある聖域ならしいです。

 人口は1000人くらいで、気候はポポラハとは逆にとても寒いらしいです」


 ポポラハが暖かくてイストが寒い。じゃあポポラハからイストに向かう道は、南から北だったりするんだろうか。

 私の前世の世界では、南が暖かくて北が寒かったし。


「そして、最後にイストから歩いて向かうノストは、普通に陸地にある聖域ならしいです。

 人口は1000人くらで、気候はイストと同じでとても寒いらしいです。

 そしてさっき話した通り、冬になったら雪が沢山積もるらしいですよ」

「そうなんだ……」


 確かスピカ様が、ノストは私の故郷のオネストの近くにある聖域だと言っていた。

 ノストまで行く頃には殆どこの星を一周しているから、ノストの隣に行けばもうオネストがあるらしい。

 寒い場所の文化はよく分からないが、積もった雪で毎日遊んだり出来るんだろうか?


「私、ノスト行くの楽しみだなー」


 姫の話を聞いて、そんな事を思う。


「どうしてですか?」

「私、雪が一杯積もってるの見てみたい」


 オネストもストラハも、冬はそれなりに寒いが、雪がそこまで積もる程寒い地域ではない。

 それに前世の世界でも、住んでいた場所は雪が積もったりは全然しなかった。

 だから、辺り一面に雪が積もっている景色ってどんな感じなのか、一回見てみたい。


 そんな事を姫と話していたら、頭の中に声が響いた。


(リューリュ。申し訳ないですけれど、あなたが順当に旅をした場合、ノストに着く頃の季節はちょうど夏になります。

 なので、雪が積もっている光景は見られないと思いますよ……)

「そうなんですか……」


 旅の楽しみが減ってしまってがっかりする。

 けれどまあ、しょうがないだろう。やっぱり別に遊びに行く訳じゃないからな……。


「姫は、どこ行くのが楽しみ?」


 私は姫へと、そんな話を振ってみる。


「私は今までずっと、ストラハのあのお城の中で生きてきました。

 そしてこれからもずっと、あの場所だけで生きていくんだと思っていました。

 だから、あのお城ではないどこかへと行けるのなら、それだけで楽しみです」

「そっか……」


 姫はこれまでずっと、ストラハしか知らなかったし、それが自分の一生なのだと思っていたのだろう。

 だから姫は、自分が知らない場所に行けるという事が、たぶんそれだけで楽しみなのだろう。


「他の聖域、楽しい場所だったらいいね」

「そうですね……」


 私は無理やり勇者をやらされているだけだし、本来ならこの旅もその一環でしかなかった。

 だから姫がいなかったら、私は今頃暗い気持ちで、この森の中を歩いていたのだと思う。

 けれど姫の話を聞いていると、なんだか私まで、他の聖域に行くのが楽しみになってきた。

 私はそんな気持ちを抱きながら、改めて、やっぱり姫が付いて来てくれて良かったなと思っていた。


 そして私はまた、姫へと、学校で他に教えてもらった事の話とかを聞く。

 私達はそんな他愛もない話をしながら、引き続き、雪が降る森の中を進んでいくのだった。



----



 それから、1ヶ月以上歩き続けた。

 オネストからストラハまで歩くのは苦痛だったが、この旅はずっと姫と一緒だったので、どれだけ歩いても全然苦にならなかった。


(見えてきましたよ)


 頭の中にそんな声が響く。

 私は、落葉した木々の枝の間から、遠くの方を見てみる。

 すると、そこには確かに、張り巡らされた城壁が見えていた。


「姫、あと少しだよ、頑張って」

「はいっ」


 ここまでかなりの距離を歩いたので、姫はもうすっかり疲れてしまっている。

 けれどあと少しで到着なので、頑張って貰う。



 そして、もう少し歩いた後。

 私達は、ルルストの城壁の前へと着いた。


「やっと着きました……」

「とりあえず、早く宿に行って休もっか」

「はい……」


 姫と一緒に門を潜る。

 城壁の内側には、辺り一面に畑が広がっていた。

 畑を見るのも久しぶりだ。


(まずあh、その道を真っ直ぐ進んで下さい)

「はーい」


 知らない土地なので、宿がどこにあるかとかも分からない。

 なので私達は、スピカ様に案内して貰いながら進んでいく。


「何かみんな、私たちの方見てますね……」


 居心地が悪そうに、姫がそう呟く。

 姫の言うとおり、さっきからすれ違う人たちは、みんな私たちを見てくる。


「まあ、目立つよね……」


 私は、自分の体が完全に収まってしまうくらいの大盾を背負っている。まずそれだけで目立つだろう。

 その上でこの聖域には、1000人くらいしか人口がいない。だから私と姫がよそ者だっていう事も、たぶんみんな一目で分かっている。

 だから、だぶんみんな私達を見て、勇者がいるとか思ってるのだろうなぁ……。

 スピカ様曰く、最近女の子が勇者として頑張っているという事は、もう世界中の人にとって周知の事実らしいし。


「うう……」


 私は、あんまり他人が得意ではないので、じろじろ視線を向けられると気分が萎縮してしまう。

 そして他人が苦手なのは姫も同じなので、姫も私と同じように、萎縮してしまっていた。

 周りから注目されるのは気分が悪いけれど、同じものを同じように怖がってくれる人が近くにいたら、少しだけ安心出来る気がする。


「とりあえず、宿に盾下ろしに行こ」

「そうですね……」


 とりえずそれだけで、大分目立たなくなると思う。

 私はスピカ様の案内に従いながら、姫と一緒に、少しだけ早足で宿へと向かった。



 しばらく歩くと、やがて畑の地帯を抜けて、海と港が見えてきた。

 海があって、木や帆などで出来た船があって、その周りには中世風の建物が並んでいる。


「なんか、凄いね……」


 ストラハに初めて付いた時もそうだったが、こうやって他の聖域に来ると、改めて自分がファンタジーな世界に生まれ変わっているのだと自覚する。


「海、初めて見ました……」


 姫も私と同じように、そんな景色に感動していた。


 私達は、そんな街の中を歩いて行く。

 そして少し歩いた後、宿へと着いた。


 私達は、やっと腰を下ろせて一安心する。

 そして宿の中で、久しぶりのお風呂にまったり浸かったり、海で採れたらしい新鮮な魚料理を食べたりして、ゆったりとくつろいだのだった。



 夜になって、姫とベットで休みながら話をする。


「姫ー、明日は一緒に観光しようね」


 ルルストに着いた私達は、スピカ様に1日だけ休日を貰えた。

 だから私は、明日は姫と一緒に、のんびりルルストを観光して回るつもりだ。


「はい、リューリュさん」


 明日を楽しみにしてくれているのは、姫も同じならしい。

 私はそんな姫に癒されながら、その日も眠りに付いた。



----



 次の日は1日、姫と一緒に遊んだ。

 街を観光して回ったり、料理店で変な魚を食べたり、船で暇潰しをする為の娯楽用品を買って回ったり、そんな事をして過ごした。

 そんな風に姫と過ごした1日は、とても楽しかった。



 そして、翌日の朝。

 船で出発する時間がやってきた。


 私は姫と、船に乗り込む。

 木で作られた、かなり大きな船だ。


「大きいねー」

「大きいですね……」


 船に乗り込んだ後は、早速2人で探索をして回った。

 船の中には、台所や図書館など色んな設備があった。

 また、この船は商船でもあるらしく、鉱石とか調味料とかが既に一杯積み込まれていた。



 船の中で少し待っていたら、やがて出航の時間になった。

 船が帆を下ろして、錨をあげる。

 そして船は、風に揺られながら陸地を離れていく。


「これでもう、本当に引き返せませんね……」


 離れていく陸地を眺めながら、姫はそんな事を呟く。

 私は姫のそんな言葉に、今更、少しだけ不安になる。


「姫、やっぱり後悔してたりする……?」


 私は姫を、勢いだけで連れ出してしまった。

 あの時はこうするのが最善だと思ったが、今思うと、無理やり姫を連れてきてしまったのではないかと思ってしまう事がある。


「あのお城から離れられて、自分の知らない景色を見れて、リューリュさんと一緒に過ごせて……。私は今、凄く楽しいです。

 だから、後悔なんてしてる訳ないですよ」

「そっか……」


 そんな心配をする私に、姫は笑顔を返してくれる。

 そんな姫の様子に、自分の些細な不安が解消されていくのが分かる。


「むしろ、改めてお礼が言いたいです。リューリュさん、私を連れ出してくれてありがとうございます」


 姫は嬉しそうにしながら、私へとそんな事を話してくれる。


「私も姫がいてくれると、それだけで楽しいよ。付いて来てくれてありがとね、姫」


 私も、姫へと笑顔を返す。


「ポポラハに付いた後も、一緒に遊びましょうね、リューリュさん」

「うんっ」


 私、姫と会えてよかったなぁ……。

 離れていく陸の景色を眺めながら、私は改めて、そんな事を思っていたのだった。

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