閑話休題 その壱 小話詰め合わせ
★1★
我が家で突発的な事件が起こった場合、大抵の事は母である私が対応する。電球の取り替えから、水漏れ、配線等など。伴侶の単身赴任が長い為、私の方が工具の使い方が上手かったりもするのだ。
その日、何の前触れもなくそれは起こった。突然Bが叫んだのである。
「母~! トイレから出られない!」
「?」
当然ながら、トイレは内鍵である。鍵は捻り式の物で、その構造は内側からも外側からも分からないのだ。こうなったらドア自体を外そうと思ったのだが、蝶番もトイレの内部にあり、ドライバーを渡そうにも隙間がない。後々見てわかったが、蝶番自体もドアが閉まっていると見えないので、ドア自体も外せない事が判明。
仕方なく、ドアの隙間に金定規を突っ込んでみるが、びくともしない。格闘すること30分。諦めて電話帳で鍵屋さんを探して救出依頼をかける。鍵屋さんが来たのは更に30分後。そして鍵屋さんもそこから悪戦苦闘すること30分。ドアノブ自体を分解し、ようやく救出が完了した。
ようやく脱出に成功したBは、ものすごくグッタリしていたが、救出による思わぬ出費で、私もものすごくガックリした。
おまけに、金属疲労で鍵の内部が折れて動かなくなったらしいドアノブの復活はならず、新しい物が取り付けられるまでに二週間を要した。その間は使用中の札を厚紙で作って鍵部分を取り外したドアノブに掛けておいた。
だが、鍵の構造自体は分かったから、今度閉じ込められても工具さえあれば大丈夫だろう……多分。
それにしても、家人がいる時で良かったねえ、B! 一人暮らしだったらトイレで衰弱してたよね。というか、命の危険すらあったかも?
そんな事を思った私だが、事件はこれで終わらなかった。
新しい取手になって、しばらく経ったある日の事である。久しぶりに一人の時間をウキウキと過ごしながら、コーヒー片手に執筆し、さて御不浄へと、コンロ前からトイレに行ったら何故かトイレは使用中の赤い印しが出ている。誰か入っているのかな? と思いコンロ前に戻ってみたが、一向に誰も出て来る気配がないのだ。……おかしいな。再度トイレの前へ。やはり中から鍵がかかっている。
コンコンとノックしてみるが、返事もない。……考えてみたら、しもべ達は学校に行って帰って来ていないではないか。
恐々と外からドライバーで鍵部分を回してみたら、あっさりとそれは回転し、鍵が開いた。壊れていなくて良かったと拍子抜けしながら、ドアを開けたそこには……当然の事ながら誰もいなかった。
一体何だったのだろう。何となく薄気味悪い気分で用を足した私だが、何故誰もいないトイレの鍵が閉まっていたのかは、今だ原因不明のままである。
★2★
6月2日は、横浜開港記念日である。横浜市の学校では、開校記念日には休みにならなくても、開港記念日は休みだったりする。
以前活動報告にも書いたが、校歌は忘れても、横浜市歌は歌える横浜市民であるから、開港記念日というのが、市にとって如何に大事にされているか分かるというものだ。
小学校、中学校とゆとり教育撤廃の余波を受けたBの学校は、残念ながら開港記念日も登校日であった。それでもこの日は給食が横浜にちなんだ献立だったりして、楽しみにしていたものだ。だがそれも中学生になってからは弁当になり、開港記念日を意識することもなくなっていた。
ところが今年、五月末に、とある市立高校に練習試合に行ったBが、やけにウキウキと帰ってきて、
「ねえ、ねえ、6月2日って開港記念日だよねえ。超嬉しいんだけど!」
と、宣った。どうやら対戦相手だった市立高校の生徒との雑談で、高校も休みになるのを聞いてきたらしい。
「Bよ。年間予定表を見てないんだろう。お前さんはしっかり登校です」
「なんでだよ?」
「だってBの高校って、県立じゃん?」
こうして開港記念日の朝、朝練もあったBは午前6時過ぎに家を出て、どんよりと学校へと向かったのであった。
BやAが登校してから、やけに外が静かな事に気がついた。窓を全開にしているのに、いつもは聞こえる小学校のチャイムや子供達の歓声が聞こえてこない。どうやら今年から開港記念日のお休みが復活したらしい。
静かで平和な一日を心置きなく満喫した私である。
横浜開港記念日万歳!!
余談ではあるが、Bのクラスメートの中に、休みだと思って欠席した生徒がいたらしい。入学早々の無断欠席に、担任からお叱りの電話があったとか。
Bよ。母を敬いたまえ。
ご来館ありがとうございました!
*次回更新予定*
6月26日(金)夜10時