表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/27

嗚呼! 薔薇色の高校生活?

 前作「怪しい母の怪しいひとり言」において、不動のお笑い担当を勤めてくれた、我が家のしもべBの念願の学ラン生活がスタートしたのは、前回書いた通りである。


 冷たい雨の中始まった入学式。その日私はとんでもないものを見ることになる。


 例の黒歴史に繋がる某国語教師の事ではない。いやまあ、あれはあれで見たくなかったのであるが、その前の新入生入場の時に目撃したのだ。


 そろそろBのクラスが入って来るなあ~と、カメラがわりにスマホを構えていた私だが、Bの姿はすぐに見つけた。珍しく目立っていたのだ。


 クラスに同じ中学校出身の生徒がいなかったと、心持ち落ち込んでいたはずのBが、こういう式典では、ニコリともせず緊張気味の顔を晒すのがお決まりだったはずのあのBが、今にもニマニマとにやけそうになっているのに、必死で真面目な顔を作っているのがバレバレの締まりのない表情で入場してきたのである。


 何故Bが珍しくも目立っていたのか……なんとBの前後三人ずつが女子だったのだ。背の低い女子に囲まれ、たいそうご満悦な様子のBだったのだが、入学式後に待ち合わせていた正門では、更に顔を崩し、ニヘラニヘラと笑っているではないか。


 これには、私もドン引いた。なんて不気味な顔をしているのだ。雨の中、寒さに震えていた私は、寒さとは別の妙な寒気を感じたのである。


「ねえ、ねえ、聞いて~」


 上機嫌なBが宣う。


「クラスの席順も出席番号順でさあ、前も後ろも隣も全部女子なんだよねえ~」


 ねえ~の後ろに音符が10個位付いているだろう口調で報告してくれたのだが、Bよ。入学式前の不安げな憂いを帯びた少年はどこ行った? 同じ学校の生徒の事など、ドコカに飛んで行ったらしいBに、思い切り脱力した私であった。



 こうして桃色の高校生活をスタートさせたBであるが、翌日から中学時代の部活の先輩達による、怒涛の部活の勧誘が始まったらしい。


 休み時間はもちろん、下校時にも熱心に勧誘に来た先輩達に押され、流されるまま仮入部をし、三年間頑張ろうと決めた部活は弓道部である。春休み中、弓道は良いぞ~と唆し続けた甲斐があったというものだ。


 Bは入部するに当たり、やれ精神的に強くなるだの、武道ってやっぱり良いよねだの、先輩が離してくれないからさあだのとほざいていたが、母はごまかされないのだよ、B。お前は先輩のこの一言で背中を押されたに違いない。


「弓道部の男子にはみんな彼女がいるんだよねえ」


 ……どこまでも桃色なBであった。


 とは言え、根っこは堅物のBである。弓道の基本となる射法八節(弓道の型)を暇さえあれば練習し、久しぶりの正座にプルプルしながらも、真面目に部活に勤しんでいる様だ。


 一年生は、夏まで本格的な弓は持てないらしい。現在はゴムの弦をつけた小さな弓で型の練習をしているそうだ。矢を抜いたり、弓道場の掃除や整備をしたりと、武道らしい下積みも楽しくこなしている。


 弓道はその珍しさから、入部する人数も多いが、下積み期間の長さに耐え切れず、辞めていく人数もまた多いらしい。その点、三年間とはいえ、剣道で武道における基本の心構えを経験していたのは、とてもプラスに働いているみたいである。


 いつの日にか、試合会場で弓を引くBが見られる日が来るのだろうか。B曰く、剣道の試合会場とはまた違う雰囲気があるらしい。それは是非とも見てみたい。Bに見つからない様に、こっそりと覗くその日を私も心待ちにしている。


 その日の為に、まずは試合会場の場所取り係を仰せつかったBが、始発電車で出掛けるのに間に合う様に、四時起きだろうとせっせと協力している今日この頃なのだ。



 部活も決まり、初めての中間テストも終わり、クラスでも部活でも友人も増え、見ている限りにおいては、どうやら順調な出だしを切ったようである。やれやれ、ホッと一安心だ。



 ところで、Bの高校には売店と購買がある。売店では学用品、購買では、お菓子やパン、弁当等も売っているらしい。なんだ弁当があるなら、たまには母を休ませてくれよ。30分は睡眠時間が増えるではないか。たかが30分されど貴重な朝の30分。明日はのんびり起きられるかなあ~と、ワクワクして問い掛かけた私に、四階からじゃ完売に間に合わねえよと、速攻で却下したBである。


 がっかりした私に、Bが売店のおもしろ話を聞かせてくれた。多様な学用品を売っているらしい売店だが、それを一人で賄っているのは、なんと御歳90歳を超える御婦人だそうなのだ。


「え? 今90歳って言った?」

「そう、正確には97歳って言ってた。元気だよなあ」


 Bの高校はバス停からも遠く、おまけに坂道の頂上にある。それに学用品というと、品物もバラバラ値段もバラバラであるし、何よりも十代後半の無駄に熱いエネルギーが押し寄せているに違いない。それをお一人で捌いておられるとは……。


 凄いなあ。世の中広しといえども、そうそういないに違いない。何やら敬謙な気持ちになった私は、がっかりを返上。売店の御婦人もそうだが、食べ物関係を扱っている方々もご高齢らしい。私のような若輩者がへたれる訳にはいかないではないか。眠い目を擦りつつ、今日も弁当作りに励んでいる私である。



 さて、パラダイスで始まった高校生活も早二ヶ月。中間テストが終わったBの環境が大きく変化した。


 桃色だった教室内でのBの周囲が一転、それは見事に男子に囲まれているらしい。なんでもテスト後、席替えがあったそうである。


「まあね、あんまり会話もなかったんだけどさ。いや、気楽っちゃあ気楽なんだけど。はああ~」


 おまけに妙な期待をしていたらしい部活内でも、一年男女間の会話は必要事項だけで、親睦を深められる様な交流が一切なく、先輩方からも「お前らの代って、変わってるな」と言われているそうだ。


 それでも毎日朝練と放課後練習に精を出し、たまの休日も新しく出来た友人(もちろん男子)達と遊びに出掛けて行っているBは、ほんの少し逞しくなった様な気がしないでもない。


 まだまだ始まったばかりの高校生活。自分を振り返れば、一番中身の濃い時間だった。Bはこれからどんな顔を見せてくれるのだろう。そして、どんなネタを提供してくれる事やら。ワクワクしている母なのだ。

 

ご来館ありがとうございました!


御歳97歳の売店の御婦人ですが、最近、暑いせいか売店が閉まっている日が多いのだとか。どうかお元気であります様に。


*次回更新予定*

6月19日(金)夜10時

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ