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夏祭り2

夏祭り編終了

「楽しいね。凪紗(なぎさ)と二人っきりなんて夢みたい」


「そこまで言うか。まあ楽しいんならいいけど。いい加減行き先を教えてくれよ」


 進めば進むほど人気が少なくなっていく。この村は大通りを外れると途端に電灯が少なくなる。つまりは人気が少ない方に向かうという事は暗がりに向かっている事と同義だ。


「そうだなあ。ただ単に凪紗(なぎさ)と二人っきりになりたかったって言ったらどうする?」


 その言葉を聞いてほんの少し、悪戯心が芽生えた。


「狼さんが赤ずきんちゃんを食べちゃうかもな」


「まあ嬉しい! それじゃもっと暗い所へ行こうかな」


 屈託ない笑顔で言っているが目が笑っていなかった。怖すぎる。


「あの、冗談だぞ?」


「わかってるよ」


 ひたぎは明らかに肩を落としていた。全く言動と行動が一致していなかった。こいつ相手にこの手の冗談は危険ようだ。覚えておかないとこの先困った事が起こりそうだ。


「おちおち冗談も言えないじゃねーか」


「そんなことないよ? 私はとっても冗談の通じる女だよ?」


「嘘つけ」


「ほんとだって。試してみる?」


 ひたぎはそう言って覗き込むような姿勢を取りながら俺の前に移動した。


「いや、遠慮しておく」


「ざーんねん」


「それはさておき後どれくらいで着くんだ?」


 エリスに別れを告げてからそれなりの時間が経っていた。その間止まること無く歩き続けたが、ひたぎは一向に歩みを止める素振りを見せなかった。今や茂みが目立つ程大通りから離れてしまっていた。


「んー、もうちょっとかな? そんなに急がないで、もっと私との会話を楽しも? それとも私とお話するのはお嫌いなのかな?」


「いや、そんな事は無い……と思う」


「もっとはっきり言って欲しかったな。まあいいけどさー」


 拗ねたフリをするひたぎの顏を見てふと思った。俺はひたぎとこんなにも仲が良かったか? ひたぎが少なからず俺の事を好いているのは間違い無いと思う。だが俺はどうだ? こいつと学校で一緒に過ごしていたという記憶すら曖昧だ。いやそもそも学校に行っていた事すら曖昧だ。なぜ思い出せない? そんな疑問が頭の中を支配していく。


 目覚めてからの違和感にいい加減苛立ちを感じ始めていた俺は、ついひたぎに声をかけてしまった。


「なあ」


「ん? なに?」


「俺とお前はいつ出会って、どう仲良くなったんだっけ?」


「忘れちゃったの?」


「どうもそうみたいでさ。最近忘れっぽいみたいでさ、どうもうまく思い出せないんだよ」


「うーん。そればっかりはどうにもならないなあ。でも私の事まで忘れてるのはいただけないな。私は覚えてるのに。しっかりと」


「悪いな。でも気になるんだ。教えてくれないか?」


「やだ。自分で思い出しなさい。あ、もうすぐだよ。何か聞こえてこない?」


 言われて耳を澄ますと、水の流れる音が聴こえた。


「この音は……川か?」


「正解!」


 それから少しも歩かない内に、雑草の生い茂る緩やかな坂に囲まれた川に着いた。水面に映る月は怪しく揺れ動き、時折聞こえる葉鳴りの音は心を撫でた。この空間だけ周囲とは切り離されているように感じた。


「連れて来たかったのってここか」


「そうだよ。不思議な魅力のある所でしょ」


「そうだな。ここでなら素直になれる気がするよ」


「そんな凪紗(なぎさ)君に質問です」


 ひたぎは川に向けられていた体を俺の方に向け直し、手を握ってきた。その顔は真剣そのものだった。


「どうしたんだよ。改まって」


 ひたぎの真剣さに耐えかね俺は少し冗談めかして言った。


「茶化さないで。あなたのお父さんはどこで何をしている人なの?」


「知らねーよ。うちの親父は一体どこで何をしてんだか」


「誤魔化さないで。凪紗(なぎさ)は知ってるはずだよ」


「俺の、父親は……民俗学者で、火炊(ほとぎ)村でマヨイガ? を調べて……る? あれ?」


 なんだ? 思考にモヤがかかる。


「本当にそれは凪紗(なぎさ)のお父さんなの?」


「そう……だ。いや? 違う……のか? わからない」


「わからない? あなたのお母さんは?」


「母さんは交通事故で死んだ」


「いつ?」


「俺が子供の時だ。少なくとも俺はそう教えられた」 


「誰にそう教えられたの?」


「親父」


「そう。可哀想だね。今までずっとお父さんと二人で過ごしてきたの?」


「親父はある時急にいなくなった」


「それじゃあ凪紗(なぎさ)は家の中では一人だったの?」


「違う。一緒にいた人がいる」


「それは誰?」


「わからない。わからないんだ!」


「そっか。ごめんね変な質問しちゃって」


 ひたぎが手を離した。それと同時に思考にかかっていたモヤが晴れた。俺は何を話した? 思い出せない。何故だ。何故忘れる。


「あ、ああ。いや、大丈夫だ」


「そろそろ戻ろっか。あんまり遅くなると皆心配するしね。凜音ちゃんも怒っちゃう」


「そうだな。少し急ごう。皆マドヤで待ってるはずだ」


 俺は何を悩んでいた? 大丈夫だ。俺は自分にそう言い聞かせた。


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