他人
遅くなりました。一週間に一回は更新出来るよう頑張ります
「ちょっとーいつまで寝てんのさ! 一緒にお祭り行くって言ったじゃん。起きろー」
「うるせーな。なんだよ」
本当にうるさかった。せっかく気持ちよく眠っている時に頭上で大きな声を出されたらたまったもんじゃない。
「祭りに行くって言ったのにいつまでも寝てるあんたが悪いんでしょ。ほら、天誠も待ってるから、さっさと準備して行くよ」
「あん? 俺そんな約束したか? つかお前誰だ?」
「は? 何寝ぼけた事言ってんの? 幼馴染のあたしを忘れるとはいい度胸だね」
ん? そうだ、俺は何を言ってるんだ。まさか幼馴染の凜音を忘れるとは。凜音の言う通り寝ぼけているようだ。
「悪い悪い。ちょっと夢見が悪かったみたいで頭がぼーっとしてた」
「質の悪い冗談はやめてよね。さっさとシャワー入っちゃって、その間に昼ごはん作っちゃうから。後夕方には家を出るよ。夜の花火大会は絶対見るんだから」
「わかった。わかったからそんなまくしたてないでくれ」
「わかったんならさっさとシャワー浴びてきなさい」
「はいはい」
凜音に起こされるまで長い夢を見てた気がするんだが、なんだったのかまったく思い出せない。おまけに無理やり起こされたせいで体がだるい。シャワーで眠気を打ち払うしかなさそうだ。
「ふいー。さっぱりさっぱり」
シャワーから戻ると食卓におかずが並んでいた。しかしよく見ると肝心のご飯が盛られていなかった。ひょっとすると二人共俺を待っていてくれたのか。
「遅せーぞ。凜音のやつがお前を待つってきかないから俺は飢えて死にそうなんだ。ああ、そうそう、凜音から凪紗に言付けだ。凪紗は美味しいって言ってくれるかなーだとよ」
「あんたはどうしてそう余計な事を言うんだ!」
「なんだよ、なんかまずい事言ったか?」
「なんでもいいから早く食べようや、俺も腹減った」
「その通り。凪紗は良いことを言った」
「……」
「んな、ムスっとすんなよ。飯は美味しく食べようぜ?」
「誰のせいでこんなんなってると思ってるの」
「はいどうもすいませんでしたーっと」
いつもの言い争いだ。昔からずっと変わらずこんな風に二人は口喧嘩をしてた。そして最後は必ずこう言う。
「凪紗はどう思う?」
見事なまでにシンクロして言う二人に苦笑してしまう。この光景も見慣れてしまった。
「どうでもいい。祭り夕方から行くんだろ? まだ時間あるしトランプでもしよーや」
「ダウトやろうぜ」
「オッケー」
「じゃああたしから。1」
「2」
天誠が中指でカードを掴んで場に出した。こいつは嘘をつく時中指でカードを掴む癖がある。つまり、今のはダウトだ。
「ダウト」
「おいおいまじかよ。凪紗さんよお、まだ序盤なんだから勘弁してくれよ」
「んなもん知るか。ダウトはダウトだ。そーいや俺らっていつから一緒にいるんだったっけ?」
言いながら1のカードを場に出す。
「んーと、あたしと凪紗が幼稚園の頃からで、天誠が小学生の頃からだっけ? 2ね」
「お前らは知らんが俺はお前に喧嘩を売られたのが始まりだな。3」
「ああ、そうだそうだ。たしか机で本読んでる天誠にいきなり根暗野郎って掴みかかってったんだ 4な」
「それはあれよ。転校して来て友達がいなくて机で寂しく本読んでる天誠が可哀想だったから。5」
「ありがた迷惑この上ねーよ。俺は普通に本を読むのが好きなんだよ。6」
「いいじゃねえか。凜音のおかげでこうして仲良くやってんだから。7」
「ほんとさ。感謝してよね、根暗君。8」
「どうもありがとうございました。凶暴女さん。9」
またどうでもいい喧嘩が始まりそうだったので話題を変える事にした。
「ほらほら、トランプぐらい落ち着いてやろうぜ。今日は3人で行くのか? 10」
「んーそれなんだけどさ、エリスちゃんも呼んであげない? 11」
「そりゃ名案だ。んなら自動的にひたぎちゃんも呼ぶ事になるな。12」
「エリス? ひたぎ? そんなやついたか? 13」
手元に13が無かったので8を出した。
「あんたほんとに大丈夫? エリスちゃんともひたぎちゃんとも仲良かったじゃない。疲れてるの? 体調良くないならお祭りは延期にするけど」
あれ? そうだ。エリスもひたぎも同じクラスじゃないか。こいつら程では無いけど結構な頻度で遊んでいたはずだ。なんで忘れてた?
「いや……大丈夫だ、問題無い。冗談だ冗談」
「本当に大丈夫?」
「心配しすぎだ。凜音の言う通りちょっと調子が悪いのかもしれないな」
「うん、わかった。それじゃ凪紗も嘘ついた事だし、お祭りまでちょっと休憩しよっか」
「バレてたのか」
「だってあんた数えてたもん」
「まじかよ」
「無意識かもしれないね。あんたには賭け事負ける気がしない。あたし一回帰るね。いろいろと準備があるから。エリスちゃん達はあたしが誘っておくから」
「頼んだわ」
「天誠はどうすんのさ?」
「俺はもうちょいだけ残るわ。男二人でちょい話したいしな」
「俺は話す事無いけどな」
「つれないこと言うなよー凪紗さん」
そう言って俺の肩にしなだれかかってきた。気持ち悪い事この上なかった。
「あっそ。したら男二人で仲良くやってなさい」
そう言って凜音が帰った。凜音が家を出たのを確認した天誠が口を開いた。
「さて、だ。お前ホントに大丈夫なのか?」
「さあな。誰にでもあるだろ? 寝ぼけてただけだ」
「ふーん。ま、なんかあったら俺に言えよ? 男同士じゃないと話せない事もあるしな」
「なんかあったらな」
「んじゃ俺も帰るわ。遅れんなよ」
天誠が家を出て、家の中が静寂に包まれた。