天誠
あの出来事から一週間。僕は度々家に来る天誠を追い返していた。その間僕はほとんど家を出なかったけど、ひたぎが家に来た時だけ外出して二人で話しをしていた。ひたぎは僕に何も訊かなかった。それが今の僕には有り難くて、最初は一回だけ義理で会うはずだったのに、気が付けばずるずると会っていた。けど、そんな日々もあっけなく終わる。
始業式。結局、僕の記憶が戻る事はなく、学校が始まってしまった。幸い登校する時には天誠や凜音に会わなかったけど、学校の中ではそうもいかないだろう。クラスだって一緒なはずだ。どうやっても顏をあわす事になる。その時僕はどんな顏をして凜音に会えばいい? 天誠に対してだってそうだ。僕が全部ブチ壊したんだ。人一倍気を使って関係を壊さないようにしてたみたいだし。
教室に入るために踏み出した一歩は信じられないほどの怯えを孕んでいた。どうか、凜音達と目が合わないように。そんな願いも虚しく教室に入った途端に凜音と目が合ってしまった。凜音は何かを言おうと口を開けては閉じていたが、最終的に気まずそうな顏をして顏を窓の方に向けた。
当然のごとく、授業内容なんて頭に入らない。頭にあるのは早く学校が終われ、休み時間になれ。そんな事ばかりだった。
ようやく文字通りの苦痛である学校が終わった。だけど、僕が一人になることは許されなかった。
「凪紗。ちょっと話そうや。もうそろそろ、いいだろ?」
逃げる事が出来ないと悟った僕は大人しく屋上に向かう天誠について行った。
○
「別に俺はお前が悪いとは思ってないよ。お前も記憶を失くしていろいろと混乱してたりするだろうしな」
殴られる事も覚悟していた僕にとってその一言は意外だった。
「でもな、ちょっとは凜音の事も考えてやってほしかった。凜音はお前が記憶喪失になる前日の夏祭りでやっと長年の想いをお前に伝えたんだ」
「本人から直接聞いたよ」
「なら話しは早いな。それなのに記憶喪失になって答えを聞く事もままならない状況になったんだ。俺は今まで我慢してた凜音を褒めてやりたいくらいだ」
「僕はどうすればよかったの? もう、わからないよ」
「お前はひたぎの方がいいのか?」
「前の僕はどうだったの?」
「今俺はお前に聞いてるんだ」
「僕は……。ひたぎといると安心するんだ。ひたぎは僕の事を僕として見てくれる」
「そうか。お前は俺達がお前をどんな目で見てると思ってるんだ?」
「前の僕と重ねて見てるんでしょ?」
天誠は僕の言葉を聞いて呆れたとばかりに、これみよがしに盛大なため息を吐いた。
「お前はバカか。そんなんだから凜音を泣かせるんだよ。いつ俺達がお前を否定したよ? そりゃ記憶が戻ったらいいなとは言ったけどさ、意味が違うだろ。お前はお前だよ。凪紗」
それはきっと僕がずっと聞きたかった言葉だ。だからこそわかりやすく僕だけを見てくれるひたぎといると安心したんだ。
「そっか。ありがとう」
「おう。わかりゃいいんだ。そこんとこしっかり考えて凜音と仲直りしてこい。告白云々はその後だ」
その後僕はすぐに凜音の元に向かった。お互いにしっかりと話し合った。凜音はまた泣いていたけれど、この間の涙とは意味が違った。




