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夜の海 花火

既に毎日更新不可能な気がしてきました。

釣りから戻った僕達と片付けを終えた三人で花火を始めた。


 蝋燭が導火線に火をつけ、火は火薬へと到達し、火花を散らす。ジューパチパチパチパチ。火花はその短い命の全てを今この瞬間に懸ける。


やがて火花は勢いを失い、寂しげな音を奏でながら燃え尽きる。一瞬、辺りを暗闇が包むけど、すぐに誰かが新しい命の火を灯す。


「綺麗」


 不意に凜音が呟いた。


 凜音の視線を追うと、エリスが両手に花火を持ってクルクルと廻っていた。微かな残光が円を描き出す。残光は残光を上塗りし、一定の形を持たない。


 水面に映る月のように。


「凜音もやればいいじゃないか」


「あたしは無理だよ。柄じゃない。あたしがやるとしたら花火持って天誠を追いかけ回す事くらいだもん。あんな風に綺麗にはならない」


 確かに凜音にはエリスやひたぎが持っているたおやかな気質とは正反対のものが備わっている。でも、だからと言っても似合わないという事は無いと思う。


「私もやった方がいい?」


 それまで黙って花火を楽しんでいたひたぎが、花火を手にしながら僕に訊いてきた。


「無理にやる必要はないよ。それに、ひたぎはどちらかというと落ち着いて花火を観賞している姿の方がイメージしやすいしね」


「そっか」


 そう言ってひたぎは元の位置に戻っていった。僕も落ち着いて花火を観賞する方が好きらしい。だけど、こうして黙って花火を見ていると感傷を抱く。


 僕は僕だ。それは事実としてここに存在する。今この瞬間を皆と楽しんでいるのも僕だ。だけど他の皆は? 


他の皆が今楽しんでいる凪紗は僕じゃなくて、皆の中に在る凪紗なんじゃないだろうか。皆の目に映る凪紗と、僕の中に在る凪紗はきっと別の存在だ。


 「自分とはなにか」その問いに答えは無い。過去多くの哲学者達がこぞって考えたけど結局明確な答えは出なかった。だってわからないんだ。


 そもそもが「自分とはなにか」と考える人自身が、自分がなにものなのかをわかっていないんだから。


 こんな言葉がある。「我思う、故に我あり」デカルトの言葉だ。自分を含めて世界の全てが嘘なんじゃないか。


そう考えた時、意識は自分を含む全てを疑う。嘘なんじゃないかって。だけど疑うという意識は確実にそこに存在している。


「どうして自分がここに存在しているのか」そう疑い、考える事自体が自分がここに存在している証明だ。


 逆の考え、別の視点からこの問題を考えていくと、疑う事を放棄した時「自分」つまりは「凪紗」は存在しない事になってしまうんじゃないだろうか。


 そこまで考えて頭を振って思考をクリアにする。記憶が無いはずなのにどうしてこう余計な事ばかり覚えているんだ。


意味が無いとは思わないけど、どうして皆と遊んでいる時にこんな考えが湧き出てくるんだ。


 花火を黙って見つめているのが原因だと考えた僕は視線を別の所に移す事にした。


 皆それぞれが花火を楽しんでいた。僕やひたぎは黙って花火を楽しんでいたけど、天誠は走り回りながら花火を楽しんでいた。


凜音は凜音で花火よりも天誠を追いかけ回す事を楽しんでいるように見える。


 時が止まればいいな。このままずっと、皆で遊んでいたい。今日の出来事は、確実に夏の思いでの一ページに刻まれる。そう、直感した。


作者に元気をください。

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