夜の海
続きは書けているんですが、今回は短めにここまでの投稿とさせて頂きます。
一度毎日更新というものをやってみたいからです。
内容が内容なので、矛盾が発生しないように何度も読み直して書いているのでどこまで毎日更新が続くかわかりませんが、どうぞお付き合いください
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「よっしゃー! バーベキューじゃああ!」
天誠の叫びを皮切りに、串に刺した肉と野菜が網の上に並べられていく。時刻は午後五時。暑かった昼に比べ、今は幾分か過ごしやすくなっていた。
夕陽が照らす海は、昼の海とはまた違った表情を見せていた。きっと夜は夜で、またガラッと違った表情を見せてくれるんだろう。海っていうのはおもしろいものだな。
炭のパチパチという音と共にじゅうじゅうと肉が焼ける。野菜はいい具合に柔らかくなり、肉からは脂が出ていた。どうして肉というのはここまで人の心を掴んで離さないのだろうか。知らず、僕の視線は肉に固定されていた。
「そろそろ食べ頃じゃない?」
誰かがそう言った。最早我慢の限界に近かった僕は誰よりも先に肉を手に取り頬張った。
「うまい! うますぎる」
心からの叫びだった。
「やっぱり記憶を失ってもお前が肉好きなのは変わらねーのな」肉を口に含みながら天誠が言った。
「前の僕も肉が好きだったの?」
「そうだよ。あんたはいつも肉肉言ってた。そして」言いながら凜音は程よい焦げ目のついた椎茸を僕の口に突っ込んだ。
瞬間、僕の顏は恐らく二十年は老けた。恐ろしい程の気持ち悪さが僕に襲いかかった。
口の中にいる物体の感触を例えるならば鳥もちの山に飛び込んだ時のようなニチャニチャ感だ。最も、僕が鳥もちに飛び込んだ事があるかどうかは知らないけど。少なくとも今の僕には無い。
「うわぁ」
僕の顏を見た凜音と天誠はカラカラと笑い、ひたぎはオロオロとしていた。エリスは動じずに黙々と玉ねぎを食べていた。
「やっぱりあんたは椎茸ダメなんだね。反応が前と全然変わらなくて安心したよ」
そのまま飲み込むのは不可能と判断し、その辺に置いてあったジュースで流し込む。誰の物だかなんて構うものか。
「まだ残ってる?」
ひたぎが僕が手にしているジュースの残りを尋ねてきた。どうやらこれはひたぎのやつだったらしい。
「残ってるよ」
「そしたら凪紗のと交換しよ? 私も凪紗のやつ飲んでみたかったんだ」
「いいよ」
「そろそろ豚を投入するぞー」
言って天誠が肉を網に並べていく。鍋奉行ならぬ焼き肉奉行がそこにいた。
先に焼いた牛串と野菜の串が無くなり、一息ついてつけるかと思いきや、豚の脂が原因でキャンプファイヤー並の火柱が立ち、それを見たひたぎのテンションが異様なまでに高くなり、酔っぱらいのように僕に絡んできた。
その後も天誠はジュースの一気飲みをしたり、エリスと肉の食べさせ合いをしたりしてた。食べさせ合いを堺にエリスと天誠は完全に二人だけの世界に入っていった。
それを見た僕達の間になんとも言えない空気が流れたのは言うまでも無く、凜音はいじけたように炭を弄りはじめ、ひたぎは黙々とピーマンを食べはじめていた。僕もひたぎに習い、豚串を黙々と食べた。
お読みいただきありがとうございます。
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