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AGC-Anti Guilt Children-  作者: 桜庭かなめ
Short Story-The Christmas's Eve Night in 2013-
33/33

後編『二人の夜』

 クリスマスパーティが終わり、先輩方は帰っていった。

 まだ片付けが残っていたが、まどかにはお風呂に入ってもらって、俺が一人で全てを片付けた。

 時間も午後十一時手前となっていた。

 色々とあったけど、楽しかったな。少なくとも一人で過ごした去年よりかは比べものにならないくらいに面白かった。良いクリスマスを迎えられそうだ。

「篤人さん、お風呂上がりました」

 まどかは桃色の寝間着を着て、バスタオルを首にかけていた。

「ゆっくり入れたか?」

「ええ、おかげさまで」

「……そうか、なら良かった。片付けは全部やっておいたから」

「ありがとうございます」

 実は最後の王様ゲームで俺を押し倒したとき、まどかは凄く眠たそうしていた。それもあって、俺は王様ゲームを終わらせることを提案したんだ。

「篤人さん!」

「ど、どうした?」

 急に叫んでどうしたんだろう?

「雪が降っていますよ!」

 まどかはそう言ってバルコニーの窓を開ける。

 すると、まどかの言うとおり外は雪が降っていた。結構本降りで、この勢いで降り続ければ明日の朝には銀世界が拝めそうだ。

「ホワイトクリスマスですね」

「……そうだな」

 ホワイトクリスマスになるのは人生初かもしれない。

「……あっ、そうだ。まどか、ちょっと待っていてくれないか」

「どうかしましたか?」

「いいからちょっと待ってて」

 そうだ、すっかり忘れていた。まどかに渡したいものがあったんだ。

 俺は自分の部屋に隠してあったものを持ってリビングに戻る。

「まどか、クリスマスプレゼントだ」

 そう言って、俺はピンク色の大きな袋を渡す。

「私にですか?」

「ああ、そうだよ」

「開けてもいいですか?」

「もちろん」

 まどかは何か興奮した表情で袋をゆっくりと開ける。そして、中に入っていた淡いピンク色のマフラーを取り出す。

「篤人さん、これ……」

「まどかにはちゃんとプレゼントをしたいと思って、ネックレスとは別に買っておいたんだよ。まどかにはいつもお世話になっているからね、その感謝の意味を込めて。まあ、マフラーなら多く持っててもいいんじゃないかと思ったんだ」

「そうですか……」

 まどかは嬉しそうにマフラーを抱きしめる。

「ありがとうございます、篤人さん。嬉しすぎて涙が出てしまいそうです」

「……大げさだな」

 でも、喜んでくれて良かった。

 実は堤先輩に感謝している。まどかとはいつも一緒にいるから、こっそりとプレゼントを買う機会が今まで殆ど無かった。他の誰にも中身がばれないようにプレゼントを買う機会を作ってくれたことは本当に有り難かった。

 まあ、サプライズは成功かな。

「……あの、篤人さん。マフラーを貰った身で大変恐縮なのですが……」

「どうした?」

「今日は雪が降るほど寒いですし、そ、その……特別な夜ですし、篤人さんさえ良ければ私と一緒に寝てくれませんか? いえ、一緒に寝たいです」

 まどかはじっと俺のことを見つめてくる。

 これが聖なる夜に抱くまどかの最大の願いなら、俺は……その願いを叶えさせてやりたい。

「分かった。今日は一緒に寝ようか」

「……ありがとうございます、篤人さん」

 まどかは本当に嬉しそうに微笑んだ。

 そして、俺は急いで風呂に入り……まどかの希望で彼女を俺の部屋に連れて行く。

 俺の部屋に付くと俺達はすぐにベッドの中に入る。そこで、再びまどかの希望でさっき俺がプレゼントしたマフラーを俺達二人の首に包むようにして巻く。それが故に互いに見合うようにして体を横にしている。

「暖かいですね、篤人さん」

「そうだな」

「……こういうことをするのって、やっぱり恋人同士だけなのでしょうか」

「どうだろうな?」

 クリスマスイブの夜を恋人と一緒に過ごす人もいるようだけど。

「あの、篤人さん」

「なんだ?」

「……私のこと、どう思ってますか?」

 まどかのことをどう思っているのか。

 まどかは俺のことをどう思っているのか分からないが、俺にとってまどかの印象は出会ったときからあまり変わってないんだよな。それを一言で言うなら、

「家族、かな。理由なしに守りたい存在というか」

「……家族ですか」

「まどかが俺の側にいると安心するんだ。だから、家族かなって」

「そういうことですか。私も同じようなことを考えていました。私も篤人さんのことを支えていきたいです」

「……そうか」

 まどかも同じことを考えていて何だか嬉しいな。

「それじゃ、そろそろ寝るか」

「そ、その前に! 篤人さん……一つ良いですか?」

「何かあるのか?」

 俺がそう言うと、まどかは頬を赤くしてはにかんだ。

「……頬にキスをしてもいいですか?」

「えっ……」

「え、ええと……親愛なる人には頬にキスをするというのが、その……世界標準なのでっ! だから、家族だって言ってくれた篤人さんの頬にキスがしたくて、できれば篤人さんからも頬にキスしてほしくて……」

「そ、そういうことか……」

 頬にキスをすることが世界標準という件は全然知らないが、頬にキスをするくらいならいいかな。二人きりだし、特別な夜だし。

「分かった。じゃあ、まどかからしてくれ」

「は、はい……」

 まどかは俺の頬にそっと唇を触れさせた。

 そして、お返しをするように俺もまどかの頬に唇を触れさせた。

「……篤人さん、メリークリスマスです」

「メリークリスマス、まどか」

 俺とまどかはしばし笑い合って、静かに眠りに入った。

 もしかしたら、俺へのクリスマスプレゼントはまどかだったのかな。去年の俺はきっと今の俺がこうしていることを想像できなかっただろう。

 聖なる夜はゆっくりと過ぎ去っていくのであった。

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