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AGC-Anti Guilt Children-  作者: 桜庭かなめ
Short Story-The Christmas's Eve Night in 2013-
31/33

前編『プレゼント交換』

 十二月二十四日、火曜日。

 高校の二学期の授業も終わって、通知票も渡された。俺、成瀬篤人は特待生として入学しているので高い成績を維持しなければならないが、今学期も学年で第三位の成績なので特待生の資格が剥奪されることはないだろう。

 クラスメイトであり、同居人でもある栗橋まどかもなかなかの成績だったらしい。一緒に期末試験とか頑張った甲斐があったかな。

 さて、十二月二十四日といえばクリスマスイブだ。

 堤先輩と宮永先輩の発案により、AGC五人でクリスマスパーティを行うことになった。場所は俺とまどかの家だ。

 ここ数年間は防衛本能のせいで孤独だったため、恋人はおろか友人ともクリスマスを過ごすことができなかった。去年に至っては一人で寂しくほろ苦いチョコレートケーキを頬張ったっけ。文字通り、苦い思い出だ。

 あまり顔には出さないけど、誰かとクリスマスを過ごせるのはわくわくするな。



 同日、午後八時。

 俺達AGCのメンバーは全員サンタの服を着ている。まどか、堤先輩、宮永紗希先輩までは下がスカートなのは納得だが、なぜ男である上杉香織先輩までスカートを履いているんだ? 上杉先輩は童顔で女子よりも可愛らしいのでとても似合っているが。もちろん、俺はズボンを履いている。

 俺とまどかはAGCの先輩方に料理とケーキを振る舞った。どれも絶賛してもらって作った方としてはとても嬉しい気分になった。

 その後、紅茶やコーヒー、シャンパンなどを飲んで少し食休みをする。

 AGCのリーダーである堤奏先輩曰く、ここからがパーティの本番らしい。

 まあ、それもそのはずだろう。堤先輩から「各人プレゼントを一つ用意せよ」と言われたのに、プレゼントについてここまで全く触れていないからだ。

「じゃあ、そろそろプレゼント交換でも始めようか」

 堤先輩のそんな号令と共に、俺達五人はそれぞれ用意したプレゼントをテーブルの上に出していく。全てのプレゼントにラッピングされているのは、堤先輩からプレゼントが何なのかが分からないようにしろと言われたからである。

 こうしてみるとみんなバラバラだな。俺は十センチくらいの立方体の箱で、まどかと堤先輩は袋状。宮永先輩のプレゼントはまるで紙切れのように薄っぺらく、上杉先輩のプレゼントはかなり薄めの直方体の箱になっている。

「奏先輩、どうやってプレゼント交換をするんです?」

 宮永先輩の質問はまさに俺も訊きたいことだ。どうやってプレゼント交換をするのか。

「くじ引きで一気に決めるつもりよ」

 と言って、堤先輩は丸い穴付きの白い箱を取り出した。何か割り箸のような木の棒が五本出ている。というか、何時の間にこんなのを作ったんだ?

「みんなでそれぞれ棒を掴んで、一気に引くの。棒の先には一から五まで番号が書いてあるから、同じ番号の付いたプレゼントを貰うってこと」

「じゃあ、俺の用意したプレゼントが自分に当たるってこともあるわけですか」

「そうよ、篤人君。まあ、そういうのがあった方が楽しいんじゃない?」

 堤先輩は本当に楽しそうに笑っている。

 一つだけプレゼントを用意しろ、と聞いた瞬間に怪しいとは思っていたが、やっぱりこういうスタンスのプレゼント交換だったのか。

 まあ、上杉先輩もいるしどの人が当たっても大丈夫なプレゼントを選んだつもりだ。仮に俺が当たってもショックを受けるような代物ではない。

 堤先輩は俺、まどか、宮永先輩、上杉先輩、自分のプレゼントの順に一から五まで書かれた紙を貼っていく。

「こうして見ると、くじ引きもなかなか良さそうだね、紗希ちゃん」

「そうね。自分のものが当たっちゃったら全く意味ないけど……」

 パーティの雰囲気もあってか、上杉先輩と宮永先輩は結構わくわくしているようだ。俺もちょっとドキドキしてきたぞ。

「篤人さんからのプレゼント、どんなものかなぁ。欲しいなぁ……」

 そう呟いたのはまどか。

 一回家に帰ってから、別々にプレゼントを買いに行ったのでまどかが俺のプレゼントを気になるのも分かる。

「じゃあ、準備もできたからさっそくやろうか。みんな、一本ずつ棒を掴んで」

 俺達は箱から出ている棒を一本ずつ掴む。


『せーの!』


 そんな掛け声を言いながら、俺達はそれぞれ棒を引いた。

「どんなものが当たっても恨みっこなしだからね。じゃあ、篤人君から何番のプレゼントが当たったのか確認してみましょう」

「あっ、はい。俺は……三番ですね」

 良かった、自分のじゃなくて。

 でも、あれ……三番って宮永先輩のプレゼントじゃなかったか? 確か宮永先輩のプレゼントって紙切れのような薄っぺらいものだったような。

「ほら、さっさと開けなさいよ」

 俺は宮永先輩からプレゼントを受け取り、包装紙を丁寧に剥がしていく。

 すると、出てきたのは一枚のチケットだった。

「ええと、コミックマーケットのサークル入場券ですか」

 コミックマーケット……聞いたことがあるな。確かお盆の時期と年末の時期に行われる大規模な同人誌即売会だったか。

「このサークル入場券ってどういうことですか?」

「……う、売り子として出なさい。サークルの一員として」

「売り子ってことは、つまり宮永先輩の作った同人誌を売るってことですか。ていうか、宮永先輩って絵が描けたんですか」

「な、何よ! あたしに絵なんて似合わないってこと?」

「そういうわけではありませんよ。ただ、意外だなって……」

 見かけによらず芸術系なんだと感心していただけだ。

「でも、ちょうど良かったわ。あたし、女性向けの同人誌を描いてるから、成瀬が売り子でいればすぐに完売しそう。あんたは女性受けする顔だしね」

「そ、そうですか……」

 女性向けってことは少女漫画の同人誌を売るのかな。まあいいか、俺がいればすぐに売れるんなら協力しよう。

 ってあれ、堤先輩と上杉先輩がちょっと俺に同情するような目つきで見ているのは気のせいか? 知らぬが仏、と言わんばかりの表情もしているし。

 あっ、そういうことか。これ……プレゼントって言っておきながら、強制的にコミケへ参戦させられるからそれで同情していたのか。きっとコミケは大変なのだろう。

「分かりました。宮永先輩、一緒に売り切りましょう」

「……あんたがやる気になってくれると嬉しいわ。このままあたしの描く同人誌のモデルになってもらおうかしら……」

「えっ? 何か言いました?」

「な、何でもないわよ! 次はまどかの番ね!」

「は、はいっ! 私ですね!」

 宮永先輩に急に振られたのでまどかも驚いている。

 まどかの引いた番号は四番か。

「四番は香織先輩のプレゼントですね」

「僕のプレゼントは栗橋さんの手に渡るんだね。ちょっと安心した」

 と言いながら、上杉先輩は一瞬だが宮永先輩のことを見た。なるほど、そういうことか。

 まどかは上杉先輩からプレゼントを受け取り、ラッピングを外す。

 すると、黒いシックな箱が登場。その中に入っていたのは、

「立派なお財布ですね」

 革でできた茶色い長財布だった。

「どんな人にあげても大丈夫ってことを第一に考えたら、財布に辿り着いたんだ。茶色って言っても結構明るいしこれなら女性が使っても大丈夫かなって」

「私、そろそろお財布を買い換えようかなって思っていたので嬉しいです! ありがとうございます、香織先輩」

「栗橋さんがそう言って貰えると僕も嬉しいよ」

 笑い合う二人を見ていると、本当にガールズトークにしか見えない。そのくらいに上杉先輩が可愛らしい。

 でも、長財布は良い選択だ。俺もあのくらい立派な長財布は欲しい。

「じゃあ、次はあたしね」

 そう言う宮永先輩の引き当てた番号は二番。まどかからのプレゼントか。

 宮永先輩はまどかからプレゼントを受け取る。

「二人とも立派なので、ちょっと恐れ多いんですけど……」

「そんなことないって。どれどれ……」

 ラッピングを開けると、そこにはチョコチップクッキーが入っていた。

「手作りでも良かったんですけど、ばれないようにって言われたので……駅の近くにあるお菓子屋さんで買いました。美味しいって言って終われるプレゼントも良いかなと思って」

「なるほどね。一枚食べてみてもいい?」

「もちろんです、どうぞ」

 宮永先輩はチョコチップクッキーを一枚食べる。

「美味しい!」

「喜んで貰えて良かったです」

「あたし、甘いものは大好きだからね。明日までに全部食べちゃうかも」

 プレゼントにお菓子というのも良いよな。最後には無くなってしまうけど、逆にそれがいいのかもしれない。

 初っ端、コミケのサークル参加券で変な空気になったが、まどか以降はなかなか良い感じに進んでいるじゃないか。

 さて、次の番は上杉先輩かな。

「次は僕だね。僕が引いたのは五番か」

 五番、それは堤先輩からのプレゼントだ。正直、堤先輩からのプレゼントが一番何を持ってくるのかが謎である。

 上杉先輩が袋を開けると、中から水色の手袋が入っていた。

「冬の寒い季節だからね。ここは王道に行こうかなって思ったの」

「僕、もっと変なものだと思いました。だって、このスカートも先輩が強制的に履かしてきたじゃないですか……」

「あらあら失礼な言い方ね。誰の手に渡るか分からないもの。だから、誰でも使えるものがいいかなって思っただけよ」

 まあ、寒い季節に手袋は嬉しいよな。水色なら男でも女でも付けておかしくない。これもなかなか良いプレゼントだ。

 正直、俺も上杉先輩のようにもっと変なものだと思っていたけど、それは口にしないでおこう。

 さて、残るは堤先輩だけだ。そして、残ったプレゼントは、

「私が篤人君からのプレゼントを貰えるのね。結構嬉しいかも」

「まあ、俺からのプレゼントも王道だと思いますよ」

 男女問わず大丈夫だと思うが、どちらかと言えば女性向けかもしれないな。

 俺からのプレゼントなのか知らないが、堤先輩だけでなくまどかも宮永先輩も上杉先輩も食い入るようにしてプレゼントを見ている。ここまで注目されるとちょっと恥ずかしくなってくるな。

「こ、これって……」

 そう、俺からのプレゼントは、

「ネックレスじゃない」

「ええ、そうですよ」

 アクセサリー系には疎いが、銀色のネックレスが視界に入ったので気になったのだ。値段も四桁だし、誰かにあげるとしても女性ならもちろん合うし、可愛らしい上杉先輩にも会うと思って買った。最悪自分に来てもこれなら大丈夫だと思って。

「ど、どうですかね。気に入って貰えると嬉しいんですが」

「……ふ、ふえっ?」

 何か堤先輩が何時になく汐らしくなっているような。頬は真っ赤だし、今も物凄く子供っぽい声で反応していたし。

「成瀬、本気ね……」

「うううっ、私も欲しかった……」

 宮永先輩とまどかのそんな呟きが聞こえた。やっぱり、ネックレスは女性にとって魅力的なのかな。

「堤先輩ならきっと似合うと思いますよ。一度でも良いので、そのネックレスを付けた姿を見せてくれると嬉しいです」

「……う、うん……」

 何か、何時になくもごもごしているな。

「……え、ええと……気に入らなかったですか?」

「そ、そんなことないって! 私、男の人からこういうものを貰うのが初めてだから、ちょっと驚いちゃっただけ。凄く嬉しいよ」

 そう言って見せた堤先輩の笑顔はとても可愛らしかった。

 まあ、これでプレゼント交換は終わりか。誰も自分の用意したプレゼントが当たらなくて良かった。

 ケーキも食べてプレゼント交換もしたから、これでパーティはお開きかな。

 と、思った瞬間だった。


「プレゼント交換の後はゲーム! 王様ゲームをやるわよ!」


 どうやら、ここからが本当の本番のようだった。

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