ミッションA オークとの戦い2
「火攻めですか? ダンジョン内のお宝はどうするんですか? あいつら、かなり溜め込んでいると言う噂ですぜ。食料物資、武器弾薬、金銀財宝がザックザック。灰にするにはあまりにも惜しい。いや、国家的損害にあたりますな…」
老獪なペッパー中佐がマリー将軍の作戦に異議を唱えた。ペッパー中佐は曲者でロマンスグレーに口髭が特徴的な人物だ。さりげなく他人の武功を奪い、自分の失態は他人になすりつけて現在の地位にのし上った。敵に回したくない人物であるが、味方にいても厄介だ。
「ダンジョンのお宝より戦費のほうが高くつくわよ! ダンジョンの中は至るところ罠だらけ、兵士のオークは完全武装の強敵。奥にいる首領のオーガキングまで辿り着くまでにどれだけの損害が出ると思っているの! あなたは自分がダンジョン内に入らないで外の安全な場所で指揮するだけだと思っているからそんな事が言えるのよ! 少しは戦う兵士の身にもなりなさい。そんなふざけたことは言えないはずよ!」
マリー将軍はペッパー中佐の人命よりも財宝を優先する意見に不快感をあらわにした。別にヒューマニストを気取りたいわけではない。軍人である以上、非情な命令を下すこともある。しかし、馬鹿げた無謀な作戦でかけがえのない人命を失うわけにはいかない。
「マリー将軍閣下は、さすがに心優しきうら若き乙女なことはありますな。そのまま、お花畑にレンゲでも摘みに行った方が良いかもしれませんぞ。その方がお似合いですしな。はっはっは!」
ペッパー中佐の皮肉は人の神経を逆なですること、大である。それでいて、恨みを抱かれやすいはずなのに、讒言・密告で失脚されず、昇進を重ねるところがこの人物の恐ろしいところだ。人身掌握術に長けていると言うべきか。
「言われなくとも、この戦いが終わったら、童心に返ってお花畑に行くつもりよ。そして、放心状態で走り回りながら、お花キレイ、空ってどうして青いのかしらって大声で叫ぶんだから!」
マリー将軍は片田舎の出身で、お花が大好きである。幼い頃は無邪気に野原を駆け巡る女の子だった。今も昔も天真爛漫なところは変わらない。いや、変えたくても変えられないのかもしれない。
「マリー将軍、それはさすがにまずいです。いろんな意味で危ない人です。と言うか、話が逸れ過ぎです。作戦の詳細について全く語られていません。本題に戻りましょう」
バジル中尉が冷静に突っ込みを入れる。こんな役回りを買って出る人は不遇である。
「そうだったわね。誰かさんのせいで話が全然、前に進んでないわ。これから、詳細について説明するわ。話が終わるまで異議申し立ては認めないわよ」
マリー将軍は立ち上がって作戦会議の仕切り直しを宣言した。