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 返り討ちです。

 意気込んで問い詰めようとした所、見事に返り討ちにされました。

 

 カワイイ、カナって聞こえたんですが……可愛い?カナとはもしかしなくても私の事でしょうか。下の名前で呼ばれるほど親しくはないというか関わりも無いというか。

 茫然としたまま、ぐるぐると思いを巡らせる。

 

 ぼけっと見つめる先、のっそりと荒川君が上半身を起こし、手を動かす。そのままお弁当の上に乗っている私の手を丁寧な仕草で外し……って!

 

「な、な、な」

 

 なに自然な感じで盗っていってるんですか!それは私のですよっ。大体あなた、自分のお弁当があるじゃないですか、なに人のまで欲しがってるんですかっ。

 

 いそいそと(……うん、目の錯覚かな)蓋を開けようとする(……うきうきオーラが出ているような)荒川君の腕を掴んで止める。

 

「……?」

 

 何故止めるのか分からないとでも言いたげに見つめられ、思わずたじろぐ。

 で、でもでもっそれは私のですからっ、この場合おかしいのは荒川君の方っ。

 

 ひるまず腕を掴んだままでいると、不意に荒川君が頷いた。

 分かってくれたのかと涙が出そうにな

 

「半分」

「……え?」

「半分こ」

 

 いやいやいやいやそういう事じゃないんだよ。おかしいでしょう、明らかに。誰かこの人に常識を教えてあげてください。私の手にはおえません。

 助けを求めて振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 真っ直ぐお弁当を見つめ、黙々と箸を口に運ぶ美紀。

 

 ミニトマト片手にモゴモゴと口を動かすさくら。

 目線が合ってなぁに?と傾げられたお顔が可愛いです。

 

 紙パックコーヒー牛乳のストローを銜えたまま、生温かい目でこちらを見ている松本君。

 

 

 

「……もう半分こでもなんでもいいから、はやく食べなさいよ」

 こちらを見もせず投げやりに言う美紀に、なんだか泣きたくなりました。

 暫し黄昏ている内に、荒川君は勝手に蓋を開け終えていた。しかも気付けば私の右手は荒川君の左手と繋がれている……あれ?

 

 しかもなんか指、絡まってるんですけど。これは俗に言う恋人繋ぎってやつなんじゃ……もう言葉もありません。

 

 荒川君はそのまま、私のお弁当を凝視していた。

 ナ、ナニ?気になり私も覗き込む。

 

 えーと今日のお弁当の中身は

 ご飯

 卵焼き

 鳥の唐揚げ

 ほうれん草のお浸し

 冷凍食品のヒジキ

 変わらず美味しそうです、ありがとうお母さん。

 でも、どうみても一人分しかないよね。半分こってどうするつもりなんだろ。

 

「加奈の?」

「え?」

「加奈の手作り?」

「え、いやお母さん、だけど」

 

 朝に弱い私にそんな時間はありません。

 

「……そう」

 心なし残念そうに呟いた荒川君。

 だが次には、深く頷くと

 

「でも、加奈の」

 なにやら自信満々に断言し、右手の箸で卵焼きを掴も……ってちょっと待てぃ!

 

「そのお箸っ……私の、だよね」

 それは私のでしょ!荒川君はこの取り換えた割りばしを使ってよっ。

 

「……だめ?」

 ……だめって何ですか。

 

「……だめです」

 当然じゃないですか。なに勝手な事言ってるんですか。

 さぁ返せと左手をつき出す。

 

「……」

 

 なんか、むうぅぅ理不尽なって顔してますけど駄目ですよ?こんな勝手が通ると思、ってちょっ……!?

 

 ひょい、パク、もぐもぐ。

 ……食べたっ。人のお箸で卵焼き食べたよこの人っ。

 

「ん」

 

 はぁっ!?いやいやいや、なに「はい返す」みたいに差し出してるんですか。むりムリ無理、本気で無理。あなた使ったじゃないですかっ!

 

「……もぅいいです。割りばしで食べるんで、手、離してください……」

 なんか疲れちゃったな、ほんと……左手に割りばしを持ち、ぼんやりしてると

 

「松本」

 荒川君が一言、松本君の名前を読んだ。

 

 すると、向かいの席の松本君が、ちょっとごめんね〜桑原さん、なんて言いながら手を伸ばしてきて……あっという間に割りばしを割った。

 

「はい、ど〜ぞ」

「……」

 

 ……これはお礼を言うべき、なの?

 もはや何が正しいのか分からなくなる。深く考えたら負けのような気もするし。

 

「……ドウモ」

「いえいえドイタマシテ」

 

 とにかくこのままじゃ昼抜きになってしまう。午後を空きっ腹で過ごすのは嫌だ。

 

「荒川君、手」

 唐揚げを口に運ぶ荒川君を呼ぶ。

 

「私、右利きだから」

 それに、荒川君はあぁと頷き私の右手を離す。そして当たり前のように私の左手を握った。

 ……うん。とりあえず今はご飯だ。ご、は……ん

 

「ん、うまい」

「……」

「うまい」

「……」

「んまい」

「……」

 

 あのぅ半分こという話は、どうなったんでしょうか。

 みるみる減っていく中身を、割りばし片手に呆然と見つめる。あ、あ、ぁ、ご飯が唐揚げが卵焼きがぁ……。

 

 ムグムグ……ゴクン

 ふぅと満足そうに一息ついた荒川君が

 

「ん」

 半分、と私の方にお弁当箱を差し出してきた。

 

「……」

 ほうれん草とヒジキが僅かに残っている。

 

「……」

 頬を引きつらせながら、チラッと横目で確認してみる。

 

「……?」

 食べないの?みたいな顔してる。

 無言の私を見かねたのか

 

「荒川ぁ、いくら桑原さんが小柄だからってさぁ、それじゃどう見ても足りないって」

 美味しそうな焼きそばパンにかぶりついている松本君が、呆れたように告げる。

 すると荒川君は不思議そうに私を見つめ、問いかけてきた。

 

「……足りない?」

「……っっっ、足りないに決まってるでしょっ!!」

 

 瞬間、私の中の何かがキレた。その綺麗な顔を、強く睨みつける。

 私のお弁当なのに……っ

 空腹と、訳の分からない事ばかりする荒川君への苛立ちが爆発し、ジワリと瞳の奥が熱くなる。

 沸き上がる衝動のままに、繋がれたままだった左手をぶんっと振り払う。

 

 そんな私に、心底驚きましたみたいな顔で固まった荒川君は、硬直後、わたわたと自分のお弁当に手を伸ばしパカッと開けると、ずいっと差し出してきた。

 

 大きな体に比例した大きなお弁当。

 ご飯

 肉、肉、肉!!

 隅っこに申し訳程度にキャベツの千切り

 

「……」

 無言でお弁当を見つめる私に

 

「全部、やる」

「……」

「だ、から……っ」

「……」

「……っぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 …………え?

 

 

 

 

 


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