secret present
何気ないふりをして渡そう。
そうは決めていたものの、いざとなると緊張してしまう。
もし、いらないって言われたら?
もしかすると、すでに手に入れているかもしれない。
考えれば考えるほどいろんな不安が渦巻いてきてしまうので、
慌ててえいやっと眼を瞑った。
余計なことを考えないように、しばらくこのままでいよう。
1、2、3秒…
「なにやってるの?」
聞きな慣れた、その呆れたような声音に思わず反射的に顔をあげると、
やっぱりそこには竹井さんがいた。
片手にはいつもの黄色いマブカップを持って、
もう片方の手をパテーションにかけて、いつものスタイル。
ぽかんと見上げた顔が相当まぬけづらだったのか、竹井さんは面白そうに口をゆがめ、
私の顔をみつめる。
「あ、えっと。」
チャンス!惚けている場合じゃない!
今日はずっとこの瞬間を待っていたんだから。
そう気持ちを切り替えて、慌てて引き出しから準備していたものを取り出す。
「この前話してた、森本ホルンの新刊。買っちゃいました!」
「うわ、まじで!?」
森本ホルンは私の大好きな人気の推理小説家で、つい最近竹井さんも好きな作家であることが分かった。
予想通り、子供のように目を輝かせて本を見つめる竹井さんを見ることができて、
思わずにんまりと顔がにやける。
「もう読んだから、竹井さんにあげようと思って。」
「え!いいの?買おうか迷ってたんだよね。」
「いいんです、いいんです。この前のティッシュのお礼もあるし。それに私、本って一回読むと何度も読まないから。」
「嬉しいな~。早速帰り電車で読むよ。」
そう言うと、竹井さんは嬉しそうに本を小脇に抱えて、
マグカップに注いだ珈琲をこぼさないようにしながら、自分のデスクに戻っていく。
その後ろ姿を見ながらしばらくぼーっと突っ立っていたが、
やがてその姿も見えなくなると、やっと呼吸をすることを思いだした。
長い息を吐き出すと、顔に上った血がゆっくりと下がっていくのがわかる。
ほんの数分のやりとりなのに、反芻するだけで頬がだらしなく緩んでしまうから
情けない。
単なる職場の先輩への憧れなのか、それとも「恋」なんていう大したものなのか、
今はまだわからなくて良い気がするけれど、
確かなことは、竹井さんの笑顔がみれれば満足っていうこと。
お気に入りのアッサムティーを飲みながら、ほっと一息ついて心を落ち着かせると、
私は気持ちよく午後の仕事に取りかかった。
竹井さん、この人大好きなんです(笑)