五人の演劇部
「文化祭公演の台本どうする?」部長のヒナが不機嫌そうに腕を組みながら言う。
副部長であるユウキは笑顔で「いつもなら夏大の台本そのままだからね」と服の埃を払いながらヒナとは対象的に飄々と言う。
「三年がどれだけ居たと思ってんのよ、七人よ?夏大の台本は四人台本だし」
「そんなに慌てることかな?」
「大慌てよ!なんでこんなに人いないのよ!」
「責任感じすぎ、結局やるんだから何とかなるよ」
「あんたが気にしなさ過ぎなのよ!」
演劇部の部室からいつから置いてあるのか分からない埃の被った戯曲集や、過去の大会の台本などをまとめたものが舞台袖のピアノの上にまとめられていた。
先程、ヒナに怒鳴られながらユウキと二人で引っ張り出してきたものである。
「そもそも五人なんだから考えなきゃいけないわよ」
「照明と音響で確実に二人持ってかれるね」
「役者が一人だと間違いなく事故るわよ」
「それに演出と役者も分けた方がいいね、間違いなく好き放題するよ」
「五人使い切ったじゃない!」
「逆に言えばもう決まったじゃん安心安心」
「何が安心よ!それに!私達主軸でやるんじゃダメよ」
腕を組みながらヒナは口を尖らせる。
それを見てユウキも少し真面目な顔をした。
「裏方回るってこと?」
「そうよ!可愛い後輩たちがやってけるようにね!」
「ふーん、そっか」
ヒナが過去の大会の台本を手に取りペラペラとめくる。それに合わせるようにユウキも一つ手に取りめくり始める。
「すいませーん!遅れました!」
舞台横からドタドタと走る音が聞こえる。
「集会で先生の話が長くて長くて」
一年のサエコがシューズが脱ぎかかった状態で舞台まで駆け上がってきた。
「誰々?鬼セン?瓶底?」とユウキがニヤニヤしながら聞く。
「瓶底です」
「だよね、アイツ一年の学年主任になって気合い入ってんの」
「そうなんですか?」
「俺らの授業の時なんて一年に負けんなよとか毎授業言ってるよ」
「しんどすぎません?」笑いながら荷物を下ろす。
ユウキの頭を台本で軽く叩きながら「サエコちゃん、台本選ぶよ」とヒナは真面目な顔で続ける。
「ああ、文化祭公演のやつですかヒナ先輩?」
「そっ、役は二人」
「大道具も大掛かりなのは作らないやつね」別の台本を手に取りながらユウキはヒナの言葉に補足する。
「なかなか厳しい条件ですね」
「でもやる気湧くでしょ」
「どこがよ、客が入る以上マジにやらないといけないのよ?」
ヒナがまた怖い顔をユウキに向ける。その時、
「変……!身……!とうっ!」と低い声が入口の方から響いた。
素早い動きで側転、バク転の流れで一人の男が入ってきた。さながら特撮のようである。
「ヒーローは遅れてやってくる……!リュウト!見参!」手を天に掲げ大袈裟な決めポーズを決めた。
それが終わると同時にサエコがスタスタとリュウトの方へと歩いていき頭目掛けて台本をキレよく叩きつけた。中々に大きな音が体育館に響く。
「すみませんヒナ先輩、教育がまだ行き届いてなくて」
「いいのよいつもの事だし」
「相変わらず無駄な運動神経だねえ」
「先輩達厳しいっすよ!集会中ずっと考えてたんですから!」口を尖らせながらブーブーと言う。
「というかナナミちゃんは?リュウト一緒のクラスでしょ?」
「え?後ろにいるじゃないですか」
「は?」ヒナとユウキが振り返ると、舞台袖で小さくなっているナナミを見つけた。
「ナナミちゃん!?いつから居たの!?上がっておいで」
「あの……、リュウトくんが入っていった時にはもう……」
「ナナミちゃん大人しいからリュウトの後だとね」
「リュウト、反省しろ」サエコがもう一度頭を叩く。
「分かった次からはポーズを変える」
「そういうこと言ってんじゃないの」
「あの……今日は何するのか教えてくれませんか……?」
「ああごめん、ナナミちゃん」いくつかの台本の埃を払いヒナは手渡す。「文化祭公演の台本決め、条件はサエコちゃんに聞いてね」
「はい……わかりました」
「じゃあリュウト、ナナミちゃん集合!一年で候補決めるよ!」その掛け声で三人は舞台の中心へと移動する。小さい丸になって台本を読み込み始めた。
肘で小突きながら「……ユウキ」とヒナが小声で呼びかける。
「何?」
「これ、上手くいくと思う?」
「真面目でちょっと怖いサエコちゃん、運動神経と癖が凄いリュウト、すんごい静かなナナミちゃん」指を折りながら数える。
「まあこのまま行けば軌道に乗らないまま本番当日って感じになるんじゃない?」
「まずすぎるわよ……!やっぱりアタシかユウキどっちかが演出もしくは役者かなあ……」
ヒナがうーんと悩んでいる顔を見て、ユウキは顔を近づける。
「いいんじゃない?だって本来役者は勝ち取るもんでしょ?」
「……そうだけど」
「譲られた立場と勝ち取った立場、どっちがアイツらのタメになるのか」
ヒナは一年の方を見ながら口をつぐむ。
「それに、俺はアイツらの壁になるつもりだしお前と二人で役者やるつもりだよ」
「……なら私もやる気出さないとね」
「その調子、裏方やるなんてつまんないこと言うなよ」
「ふふん!先輩の凄さ!思い知らせてやるわ!」
張り切った二年二人。決意を新たにした時
「おいおい!めっちゃカッコイイ題名あるぜ!?」とリュウトの大きな声が舞台上に響く。
「は?まさかそれ候補に出すつもり?」
「リュウト君……絶対考え直した方が良いですよ……」
「てか!あんたそれ七人台本じゃないの!二人までって伝えたでしょ?部員の数より多いのってどういうことよ!」
「いや!やらせてくれ!」
「リュウトくん……叩かれて普通に考えられなくなっちゃったんですか?」
「もう何がいや!なのよ!ねえヒナ先輩聞いてくださいよ!」
サエコが小走りでヒナ達の方へと向かってくる。
ユウキは苦笑いで「前途多難だね」とヒナに同意をするように言う。
「結局やるんだから、なんとかなるんでしょ?」ヒナは笑いかけた。ユウキは面食らった表情だがすぐに笑い出して二年二人も一年の方へと歩き出す。
「この公演何としても成功させるわよ!」




