6. 禁忌破りの誘惑
捜査が進むにつれ、九条家の「裏事情」が次々と露呈し始める。
つむぎが「粉の跡」を追ってキッチン(竃のある土間)へ向かうと、そこには長女の珠江が、隠すように何かを背負っていた。
「珠江さん、背中のそれは何ですか?」
「あら、これはただの防寒用の布団よ。三が日は火が使えないから、寒くて……」
「布団にしては、形が不自然に『丸い』ですね。失礼します!」
つむぎが布団を剥ぎ取ると、そこから出てきたのは鏡餅……ではなく、大量の「カップ麺」の容器だった。
「姉さん! 三が日は火を使わないはずじゃ……!」道成が絶叫する。
「しっ! お父さんには内緒よ。おせちだけじゃお腹が空くんですもの。電気ケトルは文明の利器だから、神様も許してくれるわよ」
「……民俗学的には、禁忌の形骸化が進んでいる証拠ですね」
つむぎは冷静にメモを取る。
結局、正成の部屋からも、珠江の隠し場所からも、本物の巨大鏡餅は見つからなかった。
餅は、物理的に「そこにあるはず」なのに、見つからない。
包丁が使えない以上、食べて隠すこともできない。 火が使えない以上、溶かすこともできない。 掃除ができない以上、粉を隠すこともできない。
「(……待って。もし、餅を隠す場所が『目に見える場所』だとしたら?)」
つむぎの脳裏に、ある民俗学的な仮説が浮かび上がった。
それは、九条家の伝統そのものを逆手に取った、あまりにも大胆でまぬけなトリックだった。




