4. 容疑者たちの元旦
「いいか、道成。家宝の鏡餅は九条家の魂だ。それが消えたということは、我が家の一族郎党、末代まで呪われるということだぞ!」
九条厳山の怒声が、火の気のない(禁忌のため)極寒の広間に響き渡る。
祭壇の上には、昨日まで鎮座していた巨大な餅の代わりに、場違いなほど真っ白な「空間」だけがぽっかりと空いていた。
「父さん、落ち着いてよ。盗まれたなら警察を……」
「馬鹿者が! 三が日は警察も役所も休みだ。それに、この吹雪で駐在の佐藤さんはパトカーごと雪に埋まったと連絡があった。今この屋敷にいる者の中に、犯人がいる!」
厳山の視線が、長男の正成、長女の珠江、妻の芳江、そして隅っこで震えている道成とつむぎを順番に射抜く。
つむぎはといえば、恐怖で震えている道成とは対照的に、祭壇の周囲を這いつくばるようにして観察していた。
「(……面白い。直径一メートルの餅を、足跡を残さず、かつ包丁で切り分けることもなく持ち去るなんて。まさに神隠しのシチュエーション……!)」
彼女のノートには、すでに「容疑者リスト」と「九条家・餅消失トリックの可能性」という不謹慎な見出しが躍っていた。




