3. 巨大鏡餅の威容
九条家の広間の中央には、見たこともないほど巨大な祭壇が据えられていた。
そこに鎮座していたのは、直径一メートルはあろうかという、異様なまでに白い、巨大な鏡餅だった。
「これこそが九条家の魂、家宝の鏡餅だ」
厳山が誇らしげに言う。
「明日、元旦の日の出とともに、この餅を通して歳神様を迎え入れる。それまで、何人たりともこの餅に触れることは許されん。そして明日から三日間、この屋敷では火も刃物も掃除も禁ずる。もし一つでも禁忌を破れば、九条家は末代まで祟られるであろう」
つむぎは、その巨大な餅を見上げてゴクリと唾を呑んだ。
「(直径一メートル……質量にして数百キロ……。これを包丁も使わず、掃除もせずに管理するなんて、究極の縛りプレイ……。なんて魅力的な研究対象なの!)」
道成はつむぎの肩を掴み、小声で囁いた。
「いいか、つむぎ。頼むから明日の朝まで、静かにしていてくれ。餅を観察するのもほどほどにな」
「わかってますよ、道成さん。私はただ、見守るだけです」
しかし、その夜、つむぎの予感は的中する。
猛吹雪が屋敷の戸をガタガタと揺らす深夜、彼女は廊下を横切る「不自然な重い音」を耳にしたのだ。
そして、元旦の朝。
厳山の、屋敷全体を震わせるような絶叫が響き渡った。
「餅が……! 家宝の鏡餅が、消えているッ!!」
つむぎは、飛び起きると同時に枕元のノートとペンを掴んだ。
「事件だわ! 民俗学的にありえない事件が起きたわ!」
九条家の「長い正月」が、今、最悪の形で幕を開けた。




