10. 結末:偽りの大団円
「ふん……。徳平、お前の忠義は認めるが、これは許されん。だが……」
厳山は、見つかった巨大な餅をまじまじと見た。
「掃除もできん、火も使えん。今さらこれを元の位置に戻して儀式を続けるのは……さすがに儂も疲れた」
厳山は、部屋の隅でニヤニヤしているつむぎに視線を向けた。
「おい、民俗学の娘。何か『禁忌を破らずに』、この状況を収める方法はないのか」
つむぎは、待ってましたとばかりに胸を張った。
「ありますよ! 古来、神様は『隠れたもの』を好みます。この鏡餅が一度姿を隠したのは、歳神様がすでにこの屋敷を十分に祝福した証拠……つまり、『早期鏡開き』を推奨されているということです! 今すぐこの餅を千切って、皆で食べれば、すべての呪いは浄化されます!」
「……火も刃物も使えないんだぞ? どうやって食うんだ」
「それはほら、九条家の皆さんは『素手で餅を千切る』伝統があるじゃないですか!(今作った)」
その夜、九条家では、全員が巨大な餅を素手で千切り、ひたすら咀嚼するという、奇妙な「鏡開き」が行われた。
雪解けの春、つむぎの論文『九条家における鏡餅の集団ストライキと禁忌の変容』は、学会で「奇書」として大きな話題を呼ぶことになるのだが、それはまた別の話である。




