表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第一部

第一章:告発者は沈黙しない

灰色の空に、ビル風が鋭く吹き抜けた。

東京・赤坂の一角、国連人権高等弁務官事務所の入る地味なビルの前で、青木亮吾は携帯電話を耳に押し当てていた。


「……だから言ってるだろう。そっちの外務省が口を挟んでも、俺は止めない」


電話の相手は、古巣の上司だった。

官僚時代から何かと目をかけてくれた人物だが、今はただの牽制にしか聞こえない。


「亮吾。お前、弁務官事務所なんて穏やかな職場だと思ったかもしれないがな……そいつは甘いぞ」


「お言葉ですけど、穏やかな職場なら僕は来てません」


ピッと通話を切ると、背後から誰かが青木の背中を小突いた。


「……あのさ、いつまで外でウダウダしてんの?」


振り返ると、短めのジャケットに身を包んだ若い女性が立っていた。

パトリシア・エルナンデス。弁務官事務所の調査官で、彼の補佐役だ。


「一応、古巣に挨拶をな」


「古巣よりも現場でしょ。来たわよ、例の告発者」


青木の目の色が変わる。


「どこだ?」


「地下の面談室。いきなり大声で『殺される!』とか騒ぐから、警備がびっくりしてさ」


パトリシアが鼻で笑ったが、青木はすぐに歩き出した。


面談室のドアを開けると、壁際でうずくまる男がいた。

作業着姿の中年男性。土埃と油のにおいがまだ残っている。


「……あなたが、匿名の告発メールを送った方ですね?」


青木の声は淡々としていた。だが、その視線は一度も男から外さない。


男は怯えた目を上げた。


「お、お願いです!あいつらに言わないでください……でも……でも、黙ってたら……」


言葉が詰まった瞬間、男のポケットの中でスマートフォンが震えた。

男の顔が青ざめる。


青木はパトリシアに目配せすると、素早く男のスマホを取り上げた。

画面には『非通知』の着信が何度も続いていた。


「――パトリシア、電波を遮断。あと、ここに監視カメラは?」


「ついてるけど、オフにした。録画も消しておく」


パトリシアはすでにスマホを取り出し、内部システムにアクセスしていた。


青木は男の前に腰を落とすと、声を潜めた。


「大丈夫。ここから先は俺の責任だ。話してください。あなたの告発が止まったら――誰が得をしますか?」


男の喉がゴクリと鳴った。

しばしの沈黙の後、搾り出すような声が漏れる。


「……大手の……繊維の工場です。俺は下請けの現場監督でした……。閉じ込められた外国人が、逃げようとして……死んだんです……」


パトリシアが息をのむ。


青木は、男の肩にそっと手を置いた。


「わかりました。……あなたの声は、絶対に無駄にしない。ここからは私が動く」


言葉とは裏腹に、青木の頭の中ではすでに幾つもの算段が回り始めていた。


法律、マスコミ、国際ルート、株価への影響、企業の顧問弁護士の面子……

使える手はすべて使う。

相手が資本を盾にして逃げ切れると思っているなら――


「パトリシア。告発内容を極秘でまとめろ。あと三時間で役員会の裏ルートに流す」


「はやっ……わかった!で、私は?」


青木は一瞬だけ笑った。


「君は現場に行け。証拠を押さえる前に全部燃やされる。何があっても撮ってこい」


パトリシアが笑みを返す。


「了解。面白くなってきたじゃない」


こうして、青木亮吾の最初の闘いが始まった。

告発者の声を武器に、企業の闇に切り込む――

この街の空が、少しだけ灰色でなくなる日を信じて。



第二章:沈黙する取締役会

東京・丸の内の超高層ビル群の一角。

その最上階にあるのが、問題の大手繊維メーカー――日東ファブリック株式会社の取締役会議室だった。


磨き抜かれた一枚板の長テーブルを挟んで、取締役たちは沈黙していた。

青木亮吾が弁務官事務所の名刺を置いた時から、部屋の空気は張り詰めたままだ。


「……我が社が人権侵害に関わっているとは、どのようなご冗談でしょうか?」


背広の襟を正すのは、経営企画担当の専務取締役・広瀬だ。

表情は冷たいが、額には小さな汗が滲んでいる。


青木は、まるで退屈そうに会議室の窓の外を眺めていた。


「冗談なら、わざわざ国連の名前を使いません。広瀬専務、告発内容はお渡しした通りです。閉鎖された現場、監禁された外国人労働者、脱出を試みた者の死亡――」


テーブルの上に並んだ書類の束。

青木が持ち込んだのは、告発者の証言だけではない。

工場の防犯カメラ映像、労働者名簿の偽造痕、送金記録。

全てを一晩で洗い出し、揃えた。


「……これがもし外部に漏れたら、御社の株価はおそらく……三割は落ちますね」


「脅迫ですか!?」


経理部門の取締役が声を荒らげる。


青木は微笑んだ。


「いえ、現実をお伝えしているだけです。

御社に求めているのは、是正策と責任の所在を明らかにする意思表示です。

こちらとしては、労働者の安全を確保することが最優先ですので」


沈黙が落ちた。


無言のまま互いの顔を窺い合う取締役たち。

いつもなら彼らの背後には、与党議員の後援や、巨大商社の仲介が存在する。

だが、目の前の青木亮吾は、その全てをまとめて黙らせる「国連」の肩書を持つ。


そして何より、交渉の切り札を全て握っている。


青木はふと、座り直した。


「……先に申し上げておきますが、御社が誠意を示さない場合、私はこの事実を公表します。

労働者の解放は外部NGOと協力して強制的に行います。

同時に株主総会でも取り上げますし、関連銀行にも情報は共有済みです」


パチン、と部屋の片隅でカメラのシャッター音がした。


取締役の一人が、怒りで声を震わせる。


「何をしている!撮影は禁止だ!」


「おや、申し遅れました。私の補佐官です」

青木が振り返ると、そこにはパトリシアが小型カメラを構えて立っていた。


「現場の映像と、役員の責任発言を合わせて報告書にするんで。ご協力感謝します!」


パトリシアの笑顔は、まるで子供の悪戯のように無邪気だった。


しばしの沈黙の後、広瀬専務が低く言った。


「……是正策の詳細を提示してください。我々も協議します。

ただし、株主には即時の説明を行わねばなりません。時間をいただけますか」


青木は立ち上がり、ゆっくりと名刺を拾った。


「もちろん。お急ぎください。

お互い、時間を浪費する余裕はないはずですから」


取締役室を後にした青木に、パトリシアが追いついた。


「……やるじゃん。株主にも銀行にも先に手を回してたの?」


青木は無言で笑った。


「企業が一番怖がるのは、法でもメディアでもない。

金の出どころが揺らぐことだ」


「……亮吾、あんたやっぱ悪い顔してるわ」


パトリシアが小さく肩をすくめた。


廊下の向こう、窓の外には、まだ灰色の空が広がっている。




第三章:灰色の雲の向こう側

パトリシア・エルナンデスは、ヘルメットを深くかぶったまま、廃工場の奥へ奥へと歩いていた。

かつて繊維工場として賑わったこの建物は、いまは粗末な鉄扉で仕切られ、外部からの目を完全に遮断している。


しかし、機械の音はまだ続いていた。

夜勤だというのに、通りかかった人影は皆、どこか怯えた目をしている。


パトリシアは背中の小型カメラを指で叩いて確認した。


「……録れてるわね」


薄暗い通路を抜けた先に、彼女の目に飛び込んだのは、小さな仮設の寝台が並ぶ一角だった。


寝台の上には外国人労働者たちが雑魚寝している。

体は痩せこけ、顔色は青白い。

看板の裏の密室に押し込められ、劣悪な労働環境に縛られている――告発者の言っていた通りだった。


「――何だ、お前」


背後から低い声が響いた。


振り返ると、黒い作業着を着た二人組の男が立っていた。

一人は明らかに酔っている。手には木製のバットが握られていた。


パトリシアは一瞬で笑顔を作った。


「見学です。新しい監督さんに頼まれて」


「はあ?誰がそんなこと……!」


言い終わる前に、パトリシアの膝蹴りが男の腹にめり込んだ。

短い悲鳴と共に、バットが床に転がる。


もう一人が慌てて飛びかかるが、彼女は軽く身をかわし、壁際に叩きつけた。


「……はい、潜入終了っと」


倒れた男のポケットからカードキーを抜き取ると、彼女は寝台の労働者たちに近づいた。


「静かに。いま出すから」


労働者の一人が泣きそうな声で呟く。


「ダメだ……見つかれば、国に帰される……家族が……!」


パトリシアはその肩を強く握った。


「安心しな。私は国連の犬だ。悪いけど、家族を人質に取る奴らより、こっちの方が厄介だよ」


一方その頃――


青木亮吾は、港区の小さな喫茶店の奥に座っていた。

目の前に座るのは、取引銀行の危機管理部門の課長代理。

日東ファブリックの取引先であり、最大の融資元だ。


「……つまり、内部の誰かが告発者の居場所を漏らした、と?」


課長代理は顔色を変えずに、カップをテーブルに置いた。


「さあ。うちは何も……ただ、社内調査を手伝ってくれと言われただけで……」


青木は指先で机を叩いた。


――告発者はすでに一時保護施設に移したはずだ。

だが、工場側の監視網は予想以上に深い。

内部に情報を流す者がいる……取締役会の誰かか、それとも――


青木の脳裏に、取締役会での広瀬専務の冷たい目がよぎる。


その時、青木の携帯が鳴った。


パトリシアからの動画通信だ。


画面の向こうで、彼女は息を切らして笑っていた。


『よっ、親分!証拠の山を生で回収中!ついでに監禁部屋を開けて労働者を脱走させたとこ!』


『……何人だ?』


『十五人。トラック手配済み。NGOに引き渡す』


青木の口元がわずかに緩む。


「上出来だ。すぐ合流する」


通信が切れた直後、課長代理が声を低くした。


「青木補佐官……余計なことは……本当にやめた方がいい」


青木は無言のまま立ち上がった。


「脅しは銀行の仕事じゃないでしょう。……忠告はありがたくいただきます」


扉を押し開けると、外の空はほんのわずかに雲が切れ、青い空が顔を出していた。



第四章:裏切りの専務

都心の高層ホテルの一室。

スーツを脱ぎ捨て、ワイシャツの袖をまくった広瀬専務は、低く鳴るスマートフォンに眉をひそめていた。


「……もう一度言え。現場の連中が、外国人労働者を逃がしただと?」


通話の向こうで、雇われガードマンの男が震え声で答える。


《は、はい……女の外人が殴り込んで、監禁部屋の鍵を……!》


「役立たずめ……」


広瀬は深く溜め息をついた。

会議室では低姿勢を演じながら、その裏で証拠隠滅と証人潰しを進める――

それが彼の常套手段だった。


だが、青木亮吾という男は、予想以上にやっかいだった。


机の上には、青木の報告書と、広瀬が裏で手を回して改ざんさせた社内監査書類が並んでいる。

一見すると無関係に見えるこれらの紙束が、何かの拍子に繋がれば――

全てが水泡に帰す。


「……銀行は口を閉じさせた。監査法人にも手は打った。

残るのは、青木本人と……あの女か」


広瀬はスマートフォンを握り直し、別の番号を押した。


数コールの後、くぐもった声が応じた。


《……何の用だ》


「話は簡単だ。人権屋の補佐官と、その小娘を、少し黙らせてくれ。報酬は倍出す」


《……ふん。人権屋か。面倒な奴を敵に回したな》


「……それだけの価値はある。後の処理はどうとでもする」


通話が切れた。

窓の外では、夜の街の明かりが煌めいていた。


広瀬は、口元だけで笑った。


一方――


夜更けの弁務官事務所。

パトリシアは缶コーヒーを手に、青木のデスクに足を投げ出していた。


「さーて、これで証拠は山盛り。あとはマスコミと株主総会にぶちまけるだけだな」


彼女の目の下にはクマができていたが、満足そうだ。


青木はデスクに座り、パソコンの画面を睨んでいる。


「……そう簡単にはいかない。広瀬専務は、取締役会で保身を演じる一方で、裏では証拠隠滅を進めていた。

恐らく銀行への口止めや監査法人への圧力も彼の仕業だ」


「つまり、まだ終わっちゃいないってことね」


パトリシアは缶コーヒーを煽った。


青木は深く息を吐く。


「……広瀬を追い詰めるには、裏取引の証拠が要る。

社外に金を流した形跡、圧力をかけたメモ、何でもいい。

現場の人間をもっと洗う。明日、お前は工場の元経理を探せ」


「はあ!?寝かせろよ、バカ補佐官!」


パトリシアが空の缶を青木に投げつける。

青木は無言でそれを受け止め、薄く笑った。


「……君の寝る時間は、専務を引きずり下ろしてからだ」


「鬼畜!」


二人の言い合いをよそに、事務所の外では黒塗りの車が一台、静かにエンジンを止めていた。

スモークガラスの奥で、電話の男が低く呟く。


「……青木亮吾。お前の時間は、ここまでだ」



第五章:夜の襲撃

明け方前の弁務官事務所。

蛍光灯の白い光の下、青木亮吾は一心にモニターを睨んでいた。


パトリシアは書類の山に埋もれ、頬杖をついたままうたた寝している。


青木の手元には、先ほどパトリシアが見つけてきた元経理担当の証言メモがあった。

『広瀬専務の指示で、裏金を迂回させた』

『監査報告は書き換えを指示された』

……すべてが決定打になるには、あと一歩、裏付けが要る。


「……銀行の不正送金の履歴さえ押さえれば……」


青木は疲れた目をこすり、立ち上がった。


その時――


「亮吾、伏せろ!」


半分眠っていたはずのパトリシアが、突如椅子を蹴飛ばして飛びかかってきた。


直後、窓ガラスが鈍い音を立てて粉々に砕け散る。


弁務官事務所の床に青木とパトリシアが転がった。

机の上の書類が、破片と一緒に舞った。


「……マジか……」


パトリシアは素早く懐から小型のスタンガンを取り出し、窓の外を睨んだ。


外には黒いフードを被った二人組の影。

一人は窓枠を乗り越えて室内に足をかけている。


青木は書類の山に手を伸ばした。


「証拠だけは……持ち出す」


「私はこいつらを黙らせる!」


パトリシアは床を蹴って襲撃者に飛びかかる。

スタンガンの青白い火花が夜気を裂いた。


狭い事務所での乱闘。


一人はパトリシアに組み伏せられ、呻き声をあげるが、もう一人が青木の背後に忍び寄っていた。


「……悪いな、人権屋……」


鉄パイプが振り下ろされる刹那、青木は振り向きざまに書類ケースを叩きつけた。


「その言葉、専務に返しておけ」


ケースが顔面に命中し、襲撃者は呻いて床に転がった。


乱闘が一段落し、パトリシアは髪を振り乱して立ち上がる。


「……生きてる?」


「……なんとか」


青木は肩で息をしながら、ぐしゃぐしゃになった書類を拾い集めていた。


「これを落としたら、襲撃した甲斐があったと笑われるからな」


「……ふっ……」


パトリシアの口元に笑みが浮かぶ。


「こんなバカみたいな乱闘、国連のエリートがやる仕事じゃないよ」


青木もつられて笑う。


「だが結果的に、これで証拠の価値が跳ね上がった。

――広瀬専務、証拠を隠すために暴力沙汰を起こしたと報じれば、奴は終わりだ」


「だな……」


パトリシアは蹴り飛ばした襲撃者の携帯を拾い、録画モードを確認した。


「証拠の自動録画、バッチリ」


二人は顔を見合わせると、小さく拳を突き合わせた。


夜の空はまだ灰色だが、東の端にうっすらと朝焼けのオレンジが滲み始めていた。


この一夜の乱闘が、企業の嘘を暴き、人々を解放する一撃になる。


青木亮吾の目には、もう迷いはなかった。



第六章:告発の夜明け

朝焼けのオレンジが、赤坂の国連人権高等弁務官事務所をゆっくりと染めていく。

青木亮吾は、まだ血のついたシャツの袖をまくり上げ、窓辺でスマートフォンを耳に当てていた。


「……わかりました。報道各社には同時刻に。株主総会の緊急招集状も合わせて送ってください」


通話を切ると、振り返った先にパトリシアがいた。

顔を洗い、乱闘の埃を落としただけで、眠気のかけらも見せていない。


「お得意の根回し完了ってわけ?」


「広瀬専務は、今ごろ株価暴落と社内突撃取材の両方に頭を抱えている頃だろう」


青木は机の上の書類と、襲撃者の録画データを慎重にUSBにまとめ直した。


「――これで、あの男は逃げ切れない」


一方その頃――


日東ファブリック本社。

取締役会議室では、広瀬専務が顔を真っ赤にして秘書に怒鳴りつけていた。


「……なぜマスコミにバレた!?

緊急株主総会!?誰が勝手に……!」


秘書は震える声で答えた。


「……社内から一斉に内部告発が……清算部門の古株や下請け企業の社長まで……」


「チッ……」


広瀬の背中を、冷たい汗が伝った。


この一夜で、青木亮吾は単なる「人権屋」から、企業の天敵に変わっていた。


報道番組の速報テロップが、テレビ画面を覆う。


《大手繊維メーカー 日東ファブリック 不正労働と隠蔽疑惑 役員関与か》


カメラの前で報道キャスターが淡々と読み上げる。


『国連人権高等弁務官事務所からの告発情報をもとに、警察と監査機関が一斉調査を開始――』


広瀬の手元のスマホが鳴り響く。

見れば取引銀行の名前だ。

資金繰りの再調整を迫られるのは目に見えている。


「……クソッ……」


がくりと椅子にもたれかかった広瀬の表情から、余裕は消えていた。


その頃――


青木とパトリシアは事務所の会議室で、記者たちを前に静かに座っていた。

フラッシュが何度も焚かれる。


「……質問は後にしてください。

私たちが求めているのは、企業の処罰ではなく、人権の回復です。

搾取された人々を守ることが最優先ですので」


青木の言葉に、記者たちのシャッター音が止む。


パトリシアはマイクを引き寄せ、悪戯っぽく笑った。


「あと一つ。

もし、他にこういう汚いやり口で人を縛ってる会社があったら――

次は逃がさないから、覚悟しておいてね」


会見室が笑いと拍手に包まれた。


会見を終え、二人は事務所の廊下を並んで歩く。


「……これで、一件落着ってとこか」


パトリシアが伸びをする。


青木は小さく笑った。


「落着?

人権侵害は資本の陰にいつでも潜んでいる。

次はもっと巧妙に、もっと大きくなる」


「つまり……また寝られないってこと?」


「そういうことだ」


二人は吹き抜けの窓越しに、完全に晴れた青空を見上げた。


曇りのない空が、ほんのひとときだけ、街の上に広がっていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ