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第47話 削りに削らなきゃやってけねぇ会話

サラサラっと記入した書類をハロルド署長に無言で渡した。

この書類は、アル・モリス、エイデン・カーター、マーサー・クイン、リリ・メイの4名のここ数日で見えた行動と性格の観察報告書だ。


書類を受け取ると同時に質問が来る。


「清掃バイトの方はどうだ?」


ああ。聞かれてしまった……


「…そんな顔するなよ。そこまでの激務に就かせた覚えはないぞ?」


ああ。顔に出てしまっていたんですね……

私は正直に打ち明けた。


「精神摩耗で私が1週間持ちません……」


「は?」


「無理難題振って様子見る戦法やめて良いですか?胃薬持ちません」


「は?」


「……言葉を選ばずに言うとクソガキでした」


パラパラと紙を捲る音が止まる。


「……確かにクソガキだな」


ため息まじりの返答を聞く。

この心労に理解がある人でありがたい。


話が通じる相手だと思った為、確認と相談段階へ移った。


「魔弾の射手は思想犯との情報でしたよね?」


「ああ。上からの分析じゃぁそう言われている。」


「……これは私の見立てです。参考程度にお聞きください。」


そう言った瞬間に鋭い視線がこちらへ向いた。

想像以上に相手の言葉の意図を汲み取るのが上手くて面食らう。

最悪だ。この仕事、感情と思考が一致しなくて嫌になりそうだ……。


「職人気質なのかどうなのかは知りませんが、与えられた範囲を超えて勝手に手を出し、尚且つ重要セキュリティエリアの清掃まで気になっていたモリスさん。

自己防衛本能が高いのか、他人の動向を常に見て周囲への気配りが過剰で合ったクインさん。いずれも年配組の方が、言動に一貫性が見られる為、何かしらの信条や思想が伺えます……老人と主婦を疑うのは気が引けますがね」


「なるほど……言葉を選ばずに言うと、年配たちの方が怪しいのにクソガキ達がそれを阻む……と?」


ふふっ。つい笑ってしまった。

この人も冗談を言うのですね…


「……はい。メイ君は状況判断能力に長けているのですが、行動に全く予測がつかない為、信条や思想といった行動原理の様なものが伺えませんでしたし、カーター君も論理より直感で動くタイプ……といいますか、指示の裏を読むというより身体で埋めるタイプなので思想犯狙いの試験的観測が全く意味を持ちません」


「”年配組は人の指示より場の空気を読む方を優先する傾向が見られる為、感情的共振を行えばより明確に行動指針が見えるだろう。

しかしながら、若年組は行動パターンが現場的・直線的で、思想性の有無を即座に見抜きにくい。よって「思想犯狙い」の監視は年配・主婦にまず注目させ、若年は行動監視を別ラインで行うのが現実的”

……なるほどな。お前のこの報告書の総評はそういうことか。。。そんなに若者2人は思想犯としての読みが見えないのか?魔弾の射手のXアカウントはどう見てもネットに精通した若いやつっぽいだろ? 若者の方が怪しいんじゃないのか?」


「……メイ君はこちらの意図を組んだ上で指示以上のことはしませんし、カーター君は…その、あなた方警察官に向ける目線がすごくキラキラしているので、思想を伴った犯罪をそもそも起こしそうにないんですよね……まぁ。犯罪者に見えないのは4名共そうなのですが」




まぁそうだろうな…。人手が足りなさすぎてバイトリーダーという職を与えてしまった監査局員のやつれきった表情を見て溜飲が下がる。


……と。いうか、普段は行政や組織内部のチェックをしてくれる官僚機構様が現場の空気感や人間をここまで見れるのかと正直驚いた。渡された書類の細かさと先ほどの会話での空気感で人を見慣れている人物だということがわかったからだ。


人の事を見慣れていたり、人を見る目があったとしても、同じ疑うことを主とする仕事でも、データと人とでは心理的負担が違うのだろうか。

哀愁漂う表情がそれを物語ってた。


同じ様な力を持っていて、同じ様な職についていてもここまで違うものなのか……私もお前の立場であったなら良心と労働倫理の責務でそうなってそうだな。



……人を疑い続けるのは疲れるからな。

ましてや、ただのバイト募集で応募してきた人を犯罪者として疑い続けるのは気が狂うだろう。


しかしながら、上が警戒する理由も良くわかる。


オルティスの社長をあれだけ目立つ形で殺したんだ。

魔弾の射手は1撃でサンディエゴの経済と治安を破綻させるテロを行った。


撃ったと言っても弾や熱反応や金属片などの痕跡も一切出てこなかったし、デジタル痕跡の特定もできていない。「国外サーバーを踏んだ高度な操作」との報告だ。


あー。。。クソ……。本当に厄介だ。

これらの事実から、国家への反逆・社会への反骨を見せつけるために次のターゲットを探していると仮定でも結論付け、次の事件が起きない様警戒をしなければならない。これ以上悪くならないように、現状を維持しなければならない。


自然にその思考にならざるを得ない。社会と組織の崩壊をこれ以上は見過ごせない。

だから上の判断はとても合理的で理解ができる。


だからこそ、そのために手当たり次第に疑っていくしか行動選択が残されていない事実が非常に悔しい。


……はぁ。納得も理解もあるが故に、無茶を押し付けなければならない立場が痛い。

恨むなら私の直属の指示系統に就かせたお前の上司を恨んでくれ。


監査局員へ目線を戻し、一端の現実を突きつける。

魔弾の射手とは関係なくともサンディエゴ警察署内の事を考えたら見過ごせない問題だからだ。


「犯罪者に見えなくても若手2人は要監視対象であることに変わり無いと思うが?特に片方は手放しで様子見を行った初日に25倍の希釈で受付フロアを一時的に封鎖した男だぞ?目を離したら組織が終わる」


「……ですよね」


「そういえば、お前のところから追加で応援が来るとのことだが、こいつらは対自警団問題の方の増援として使っていいか?思想犯という雑な情報しか上から出ていないが個人的に魔弾の射手は組織的な犯罪者集団だと思っている。情報収集要員はあればあるだけ欲しい」


「構いませんよ。どうせ私と同じように「現場指揮命令に準せよ」って命令されてきますからってハロルドさんに指揮権があるので床掃除でもゴミ出しでも好きなように使ってください」


「やはり相当ストレス……か?」


「ええ。」


「心情的には徒労であって欲しい…よな?」


「はい。思考的には成果があって欲しいですけれどね」


「わかってるなら良かった」


「ふふっ、私に無茶振りしているハロルドさんには言われたくないですよw」


「直属系統でいいと言ったお前の上司に文句言え。」


「無茶振りに応えなきゃいけない現場も、無茶振りしなきゃいけないトップも大変ですね…」


「ああ。」


「…あの、ちょっとした提案なのですが、これ。目の前で落とすのとかどうです?」


そう言って首から掛かった紐を持ち上げた。

「トントン」とハードケースを指先で叩く軽快な音が聞こえる。


「ICカードをか?セキュリティ事故起きないか?」


「そこは起きない様にハロルドさんが頑張って下さいよ。でも……これ、ログとってますよね?囮として使えるものを1枚頂けませんか?」


「目の前で落としてどう行動取るのか様子見る。返されなかったら使用ログを追う……そういうことか?」


「警官との立ち入りが不要で、セキュリティエリア入り放題の権限を得てしまったら本性が出てくる…そう思いませんか?」


「……そんなに見きれないのか?」


「また受付閉鎖されても知りませんよ?」


「チッ…わかった。調整し手配する。明日、明後日まで待て」


「……ありがとうございます」


「おいおいおい、そんな顔するなよ。提案聞き入れてやったじゃないか」


「そちらこそ……なかなかひどい顔つきではありませんか」


自然に目線が下に下がる。

机の上に置かれた書類を見つめる。


「……若いっていいな」


「いいですよね……」





次回更新:2025年11月10日(月) 10時頃目標!


ありがとう!!!お嬢様!!!!

おかげさまで書けました。いつも読んでくださってるから物語が進んだんです。本当ありがと!

投げやり47話(前話)は次回更新時辺りに消しますね。


無い経験を理解力と共感でどうにかこうにか書いたので「わかる!!」ってなっていただければ幸いです。

ではまたお会いしましょうお嬢様!

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