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第28話 当事者の俺だけ置いて世界は勝手に回る

「兄ちゃん、ビールおかわり」


「あー。了解っす」


厨房へ行き、ちょうど皿洗いしているハビエル店長に伝票を渡す。簡単に「4番の卓ビールの追加です。残り洗いますよ」って状況を説明して業務を交代する。


本格的な調理とかできないから店長が厨房入ってた方がいいってのはめちゃくちゃわかるんだけど……

俺、高校生だから酒類の提供ができないんだよ……


カリフォルニア州の法律により、21歳未満の…高校生の俺がアルコールを直接客に提供することはできない。っていうか…した時点でアウト。

常連客には大学生って思われてるし、店長から「未成年?って聞かれたら黙ってろ」って年齢について厳しく釘を刺されている。


あと、17歳は平日学校があるとき最大4時間の22時までしか働けない。16時からバイトに入って22時まで…5時間働こうとしている俺は完全にアウトだ。休憩1時間貰ってるけど完全にアウトだ。

まぁ…これに関してはバレないだろうし、店長も黙認してくれてるからいいんだけどさ。


父が死んでから貧乏とまでは言わないけれど、貯金を切り崩しながら生活をしている…うん。そう、俺の家は、中流階級の崩れ落ちギリギリ家庭みたいなものなんだ。

母さんは市役所職員だから、俺の今の状況が完璧にグレー…いやブラック寄りのアウトだということを知っている。でも、家計的に不安も大きいし…店長が黙認もしてくれているし、バイト終わりに必ず連絡を入れることをルールに母さんも目を瞑ってくれている。


時間は20時を少し過ぎたところ、このくらいの時間になると酒類の提供が非常に多くなってくる。アルコールを運べない俺は、ホールで使い物にならなくなるから…この時間帯ぐらいから徐々に厨房へ引き下がっていく。


警察…はともかく、学校の先生に出会ったら終わりだ。

だからもう、この時間からは隠れる様に静かに厨房で裏方作業に徹してる。


皿洗いと、ソーダ等の補充が終わった頃、店長が「なぁ。自警団って知ってるか?今、そいつらの話題出ててよぉ。面白いからちょっと混ざりに来いよ」って声をかけて来た。


断りたい…だって、聞きたくない。半ば俺のせいでできてしまった集団みたいなものなんだろ??でも、情報だけは聞いておきたい…。


丁度、急いでやる仕事もないから断るに断りきれなかった。

なんかあったら、逃げる様に厨房へ行こう…と決心して、手の水分を拭き取り、ついていくことにした。


__________


「つーかさぁ。警察、役に立たねーんだよ。だから俺らがやるしかねぇって話でしょ?」


奥の4人掛け席に工事現場っぽい雰囲気の中年男性3人組が大量のタコスとナチョスを囲みながら会話してた。完全に酔ってる。1番若そうなやつとか耳まで真っ赤じゃねぇか……


客数は先ほどまでと比べるとかなり少なく、カウンター席に2人。あとテーブル席にもう食べ終わってくつろいでいる客がいるぐらいだった。


厨房端の作業台みたいなところで、簡易作業しながら聞き耳を立てる。


「そうそう。“自警団”って言うと物騒だけどよ、ただの地域のボランティアだから。懐中電灯とトランシーバーだけだしな?」


「聞いたか?…なぁ、トランシーバーってやばいだろw」

ニヤニヤしながら店長が小声で呟く。俺は適当に返事を返し会話に集中し直す。


「でも昨日、ナショナルシティのガススタの裏でナイフ持ったやつ取り押さえたって聞いたぜ?普通にヤバくね?」


「まぁぶっちゃけ、警察より動き早ぇしな。俺ら通報する前に捕まえてっから」


「そうそう。怪しいやつヤバいやつやんちゃなやつだけじゃなく最近は不買運動のやつらも居るしなw俺らが目を見張っとかねぇとな。治安が悪くなっちまう」


「ってか“魔弾の射手”のやつ、まだ捕まってねーだろ?だったら俺らで探そうぜ!」


一瞬肩がぴくりと揺れた。俺はゆっくりと店長を見る…店長は変わらず面白おかしそうにニヤついていた。


「ネットに写真上がってたじゃん、“それっぽい背格好のやつ”って。あれマジだと思うんだよな。」「マジかよ…ああいうの、全員チェックしてくのかよw」


「な?ウケんだろ?」

店長が目配せしながら伝えてくる…


(笑えねぇよ…)

引きつる頬を誤魔化しながら、軽く頷いておいた。


その後、いきなり真面目なトーンで俺の方をしっかり見てハビエル店長は語った。


「…さっき小耳に挟んだ話なんだけどさ、自警団…元々地域安全ボランティアだから学生も入れるんだとよ。お前の学校は…高校だし、そこまで荒れてるって話聞かないから大丈夫かも知れないが、”正義は死んだ”って変な落書きも、一部で思想犯扱いされ狂気的信者がいるらしい魔弾の射手って存在も、自警団の見回りも……なんか、どこも歯止めが効かなくなってってる様でさ……」


言葉を探す様にハビエル店長は瞬きを繰り返しながらゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

俺は、店長が何の意図を持って俺に話しかけているのか全くわからなくて、今この場から逃げ出したいぐらい恐怖に駆られてた。

真剣な話っぽいから、まともに聞くべきなんだろうけれど…頭が、動かない。


「ここ、ナショナルシティは…お前ん家、シヴィック・センターの方に比べて元々治安が良いとは言えない。元々治安が良いとは言えない場所なのに、今…魔弾の射手のせいで余計に治安が悪化してるんだ。俺としては、お前に遅くまで働いて貰えて助かってるから、こんなこと言いたくないんだけど…正直不安の方が勝る。」


「……ッ」


「魔弾の射手が捕まるまで…ってか治安が落ち着くまではこの時間以降のバイト…控えても良いと思う。母親と一度相談してみてくれ…お前の家庭の事情とか加味してもやっぱり心配や不安の方が勝るんだ…」


「…わ、かり…ました」


何とか言葉を捻り出す。酷い表情をしていたのか、ハビエル店長は眉尻を下げ気の毒そうな顔をして背中をさすったり、トントンとしてくれた。


行動も言葉も意味がわからなかったが、「お前が不要なわけじゃない。ただ子を持つ親の気持ちを考えると…どうしてもな」って声を掛けてくれた。

……それだけは少し響いた。


そのまま、今日は早上がりということで帰らされた。

帰り道…確かに先週に比べたら周りが騒がしい様な気もしたが、気のせいだとも思った。


すれ違ったOLが、ほんの少しこっちを見たような気がして、ドクン!と一瞬心臓が跳ねた。

もう何が錯覚で、何が現実かわかんねぇや……


……何も、頭が働かない。さっき跳ねた心臓が軋んだ気がして、咄嗟に左手で胸を抑えた。

抑えた瞬間に「プチっ」と小さな音がして、辺りにレモンの様なミントの様なみずみずしい香りが広がった……中庭でのザミエルとのやり取りを思い出す。


……あ、これ…キャットニップだ。

胸ポケットの中でいつの間にか萎んで、ヨレてぐちゃぐちゃになって潰れてた。


まだほのかに香るそれを摘んで思いっきり息を吸い込む。スゥーっと脳も視界もクリアになっていった。


(お守りか…確かに……俺、今この匂いに守られてるや…)


「ははっ…またキャットニップ摘んでやらなきゃな」


口角を上げ、少し唇を歪ませながら俺はそう呟いた。

泣きそうな時と同じぐらいくしゃくしゃな顔だったはずなのに…自然と涙は出てこなかった。

次回更新:2025年7月12日(土) 7時頃予定!


初めて…!!!初めて「good!」って!!!!

反応頂いたんですよ!お嬢様。私、反応頂いたんですよ!!!!第26話に!!!

……ッッめっちゃくちゃ嬉しい!!!


ありがとうございます!!!!

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