第27話 イチゴミルクソーダ
「…FBIが動いたんですか」
「まぁ。そりゃなぁ…大企業の社長さんがライブ配信中に公開殺害されたんだぜ?それも殺害方法がわからないときたもんだ…地方警察じゃ手に負えないだろww」
「……っっ!!」
「おいおい大丈夫か?」
「…え?? ああ。はい。。。いや、FBIとかドラマとか映画でしか聞いたことないから…実感なくて…あの事件そんなやばいことになってたんだ…って今ちょっと現実感…ない」
「ああ。はははw わかる。ホント参っちまうよなw FBIの捜査も早々に打ち切られたって話だし、政府が何かの情報を隠しているとかの噂も出てくるし、新型ドローン兵器での殺害らしいし、オルティス・グループの奨学金による学生囲い込みの件も事実らしいし……人1人死んだ事実に見合わないほど情報がごった返してるよなw」
「ま。俺としては、政府が企業のクソどもに脅しをかけただけの事件だと思うけどな。」
「ま。俺としては、メニューからオルティスソーダを無くすかどうかの問題だけだしな。」
(…え?嘘だろ??やだ。嫌だ。やだ。やだ。)
時間が止まった気がする。脳内で「NO」という単語だけが強く出て来て俺の視界を埋め尽くす……気づいた時には言葉を発していた。
「無くさないでください!!!!」
自分でも驚いた…そんなに、いきなり声が出るなんて……いや、3人とも驚いていた。
「…そう言えば、エイデン。お前……。。。お前、そんなイチゴミルクソーダ好きなの?」
店長が…驚いた表情のまま、何かを言いかけては、飲み込んで。辿々しく確認してきた。
そんな辿々しく確認しないで欲しい。やめろよ。マジでやめろよ。。。
耳が熱い…。恥ずかしくて頬が高揚しているのもわかる。もう、やだ。やめてくれ!
そんなにマジマジと見ないでくれ!!
俺は、ただコクっと頷くしかできなかった。。。
「うわぁ。お子ちゃまw」
「うわぁ。魔弾ソーダオーダー入りましたw」
え?魔弾ソーダ???
その言葉に、俺の心臓は握りつぶされた。
驚いて、顔を上げる。発汗していた分冷たい空気が俺の心まで冷やしてくる……つーか本当ノリ良いってか仲良いな…このラテン系の兄ちゃん……
「え?ああ。知らないのも無理ないか。今オルティスソーダ魔弾ソーダって言われてるんだよ。ネットの影響か、若い子の間で…だから影響考えてメニューから取り下げようってのはマジの悩み」
「俺、これから…店前いつもより丁寧に掃くし……今後も、馬車馬の様に働くので…無くさないでください。。。」
「……そんなに好きなの?」
「……はい」
「んー。。。じゃぁ、まぁ仕入れが続く限りは現状維持って事にしとくわ」
「ありがとうございまッッす!!!」
それから俺は、ラテン系の兄ちゃん(客)を見送り、店前を履き、机を拭き、夜からの営業の仕込み準備を手伝った。
仕事モードに入ったからか、店長との雑談は先ほどに比べて少なかった…というかほとんどなかった。俺は、この時間が一番安心できた……
___________
「“魔弾の射手”って名前がさぁ〜厨二っぽくてウケるよな。魔弾ソーダ2つと、クラシックとチポトレ1つずつで」
「…っ。イチゴミルクソーダ2つと、クラシック・カルネアサダ・タコス、チポトレ・チキン・タコス…ですね。お持ちしますので、お好きな席へどうぞ!」
「厨二」「魔弾」という言葉に引きづられながら、客からの注文を確認する。皮肉なことに、俺の好きなイチゴミルク味だけ魔弾ソーダと呼ばれていた…なんで?
普通に名前を呼ばれるより気持ち悪い。何かしらの感情が顔に出てないか不安になる。
「でも見た?マジで喉撃ち抜かれてたよね?編集じゃないの?」
「ドローン兵器だの、エイリアンだの。あんな派手に撃つバカが本当にいるかっての」
「そもそも社長死んだの?あれってやらせじゃねぇの?演出でしょ、ライブ用の!」
「でもアイツ、黒い噂あったじゃん。不正だっけ?お前知ってる?」
「あの紙、おれの車にもついてたんだよ!こっっわって思って速攻ゴミ箱投げたけど!今思えばヤバすぎねぇ!?」
店内にいる…もしくはいた客の半数以上は俺のことを語った…とても楽しそうに……頭から彼らの雑音が離れられない……事件が消費されている気がして、耳を塞ぎたかった。
「…っ。あ。いらっしゃいませ!!」
「ねぇ。リリ!もう5件目じゃん!!もうオルティスソーダ諦めて帰ろうよ!今飲むのやばいって。社長派だって思われるって!!!」
「不正してようがしてなかろうがオルティス大好きだから世間からの目なんか別にいいって言ってんじゃん。。。もう!!さっきのスーパーとか買い占めか撤去でアンズもクランベリーもなかったじゃん!?ほんっっっとう無理!!魔弾の射手むかつく!!」
ひっ。やばい。このギャルやばい…怖い。ごめん。ごめんなさい。
日焼けした金髪と日焼けした黒髪が入って来た。
目も合わせられない。無理。怖い。。。机の上からメニューをピッと取り、2人で見ている。
金髪がパッと明るい声を出す。「オルティスソーダ全種ある!!ここ全種売ってる!!!」って……側から見たら若い子2人が好きなジュースについて語り合う和やかな光景が繰り広げられているハズなのに……腕が勝手に震えて、もう。怖くてどうしようもなかった。。。
注文しにカウンターに来ないで欲しい。やめろ。頼む…そのままっ。そのまま帰ってくれっ……!!!
俺の願いは虚しく、トコトコと注文しに来やがった。それも2人同時に!!!
「っ…あっ。。。ご注文はお決まりですか?」
「イチゴミルクソーダが3?4??」「…え?リリ2杯も飲むの??…私1でいい」
「じゃぁ3で…あと、アボカドのタコスとナチョス。そっちは?」
「クラシック・カルネアサダ・タコス」
「ってか。どうでもういいけど聞いてよお兄さん!!!……オルティスのイチゴミルクソーダ味。社長も好きなフレーバーだからってどこでも撤廃されててさ!ひどくない?やっと見つけてリリめっちゃ嬉しいんだけど!!!」
彼女の言葉が理解できない。ギャルだからかもしれない。
でも、理解できなかったけど、1語1句しっかりと言葉が体に刻み込まれた。
何秒か確実にフリーズした後、ようやく読み取れた。
俺の好きな味……俺が撃った…ヴィクター・オルティスも好きだった……なんて、嘘だろ。誰か冗談だと言ってくれよ……そんな。無理だ。なんでそんな……
言葉が出てこない。心臓が重く、喉が詰まる。
でも、話さなきゃ……まったく思考が整理できてなかったから、ただ、魔弾の射手じゃない。俺としての本心が漏れ出した様だった。
「……あっ。そう……わかる。わかるよ。。。俺も、イチゴミルクソーダが1番好きだから」
「ガチ泣きしてんじゃんwうける。今買い占めとか撤廃とかで前よか全然手に入れられなくなってるから、今の内にたくさん飲んどきな。」
「うん……」
「あと、不買運動もヤバいし、自警団もヤバいから気を付けた方がいいよ。」
「……自警団?」
「そそっ。魔弾の射手の事件FBIも調査諦めたって聞くし警察も機能してないじゃん?だから今地域安全ボランティアの連中が自警団になってガチ武装してる。不買運動の連中はオルティス飲んでるとこ見つかるとお前は社長派か!!って絡んできてガチでヤバいんだけど、それを助けてくれる自警団もガチでヤバいの。だから、お兄さんもソーダ飲むときは安全な場所で飲むんだよ」
「うん。わかった……ありがと……あ。飲み物…先に、お持ちしますか?」
「そうだね。お願いしよっかな!」
冷蔵庫から、何度もジュースを取り出したけど、今回が1番時間かかった気がする。。。俺のせいで…店頭にソーダが並ばなくて、治安が悪くなってるなんて、思いたくなどなかった。
それに、イチゴミルクソーダ…社長も好きな味だったなんて……
BGMとして流れている、巻き舌の特徴的なイントネーションと楽器による変則リズムが特徴的な……ラテン系ミュージックだけがこの場を支配していた。
いつもは気にならないのに、むしろこのラップっぽい感じ嫌いでもないのに…今日だけは耳障りで、心底腹立たしかった。
次回更新:2025年7月9日(水) 18時頃予定!
「ねぇリリ!もう5件目だよ、マジで!オルティスソーダ諦めたほうがいいってば。今飲んだらさ、超パワームーブって感じで、まるで社長みたいじゃん(笑)」
「怪しくても気にしないし、私オルティス大好きなんだよね。でもマジで、あの『魔弾の射手』ってやつ?超ムカつく〜!さっきの店は完全に売り切れで、アンズもクランベリーも全然なかったの!ホントありえない。」
って感じで、サンディエゴの海風とか日差しとか想像しながらアメリカ特有のスラング混じりのカジュアルギャル描こうとしたらあれ?あんまギャルっぽくなくね?ってなったw ねぇ。お嬢様やばくない?
もう口調ジャパニーズギャルでいくわ。超意味わかんないんだけどぉ〜!!




