第11話 つまり、ノアは……
ノアの姉ちゃん…ソフィアさんがホットココアをコクコク飲んでる。ギュッと抱えたクマさんを手放して、白地の丸みを帯びた大きめのマグカップを両手で持ってちょっと口に含んでは離してふーふーしながらゆっくりコクコク飲んでる。猫舌かよ。可愛い。本当可愛い。俺の作ったホットココアをそんな大事そうに抱えてゆっくり味わうかの様に飲んでホッとして……やばいどうしようなんか恥ずかしい…っていうか、何故か暑くなってきた。俺のカフェオレはアイスにしたハズなのに、全然熱が冷めない。俺の目線に気づいたのかソフィアさんがこっちを見る。俺と目が合う。待って!?その嬉しそうな顔こっちに向けないで!?俺このまま硬直しちゃう。本当どうして良いのかわからない。目線だけが泳ぐ。
パクパク動く唇に俺の目線が惹きつけられた。……「美味しいありがとう」???
え?「美味しいありがとう」ですって???……何この可愛い年上ねぇちゃん。俺、今日ミラの情報といい、ソフィアさんの部屋の匂いといい、今の可愛い状況といい……俺、色々パニックを起こしそう。この可愛い姉ちゃんと一緒に暮らしてるとかノアが本当羨ましい。いや本当可愛いな何だよちくしょう。その嬉しそうな顔こっちに向けて再びココアを飲み始めないでくれ。……………ハァ。どうしよう。俺もココアにすればよかった。
俺が俺に耐えきれなくなって、すかさず俺は目線を逸らす。横を向いたらノアと目が合った。これ以上の追い打ちはよしてくれノア!俺は今俺がやばいんだ!!!そんな俺の状況を知らないクレイン弟は、姉の様に口をパクパクさせてこう答えた。
「ああ。コーヒー?美味しいよ。人の淹れたコーヒー以上に美味しいものはないからね!」
ああ… 可愛い……くねぇな。弟の方。姉はあんなに可愛かったのに、弟の方は全然可愛くねぇ……。
冷静さを取り戻した俺は、スンッ…ってなって手元にある紙に目線を戻した。
手元にある紙は、俺たちが飲み物を作ってる間にソフィアさんが手に入れた情報を箇条書きにしまとめてくれたものだ。文字の方が各自のペースで読めるから…って。本当にありがたい。
形式もミラからの情報の様になってるし、こういうところ見るとちゃんとノアの姉ちゃんなんだなぁ……って思わずにはいられない。ノアもそうなんだけど、よくわかんないところで用意周到なんだよ。
PCからの出力っぽい文字で良かった。手描き文字だったら俺、今の心境じゃ冷静に読めてなかったと思う。
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《業界人脈&OB情報からの取材で分かったこと》
・オルティス・グループは「教育支援財団」を子会社として設立しており、アメリカ中に奨学金制度を展開。
・教育格差を埋める建前のもと、貧困層や移民家庭を中心に囲い込みを行っている。
・一部提携校では、生徒の同意なしにデータ共有が行われている(プライバシー侵害の疑い)。
・奨学生の中には「会社からの指示」でSNS投稿を促されたり、製品レビューを依頼された例もある。
・財団理事の一部が元広告代理店・データ分析企業出身であり、社会実験に近い構造が裏で走っている疑惑。
《私の見解》
・奨学金制度を通して、オルティスは“優秀な子どもたち”にブランド信仰と忠誠心を植え付けている。
→ 将来の「優秀な消費者」「忠実な社員」を育てるマーケティング戦略と見ている。
・「飲料会社が教育に関与する異常さ」に警鐘を鳴らしているorいたが、大手メディアはスポンサーの関係上、黙殺している。
→身内がこの問題に巻き込まれるまで、私自身こんな問題があるなんて全く知らなかった。
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俺も、ゲータレードの次に嗜む飲料メーカーがこんなことになってるなんて知らなかったよ。
色々、とんでもないことが書かれている気がして、俺はこの内容がちゃんと頭に入れることができなかった。これ以上紙を眺めても俺の頭には入ってこないだろうし、一通り目線で読み終えたため、俺は恐る恐るノアの方を見た。
ノアは俯いて、まだ下を見ていた。表情は読み取れなかったが、沈黙が妙に重々しく、俺までつらい気持ちになった。
そんな状況の中、姉のソフィアさんが話し始める。
「2人とも読み終えたみたいだね。ノア、お姉ちゃんの予想聞く?」
「…いや、いい。思い当たる節が、、、あるんだ。……ごめん。やっぱり聞く」
「ん。わかった。私が思うにノアは……炭酸が飲めないしSNSもやってないから奨学金切られたんだと思うんだ」
「は?」
「はい??」
俺もノアも同じ反応だった。これ、俺知ってる。俺たちは豆鉄砲くらった鳩だ。
ソフィアは続ける。
「ほら、友人のミラ…ちゃん?だっけ?? が調べてくれた情報に、奨学生はスマホアプリで監視されているって情報があったじゃん?これは、他の奨学金打ち切られた子の話なんだけれど、その子もノアと同様不可解なタイミングで理由も不明瞭なまま打ち切られてて……」
ソフィアは話そうか話すまいか少し悩んでいるように、降ろした髪の毛先を弄り倒してる。言ってなかったけど、今日ソフィアさんの髪ポニーテルじゃないんだ!!これもこれでいい。ポニテの時よりえろい気がしてめちゃくちゃ良い。この目の前の光景により一瞬気が緩むってか、和みそうになる俺を俺が制して、真剣に聞く。俺は背筋を伸ばした。
「打ち切られたタイミングが、友人とコンビニでオルティスソーダを買った後、「うっわ。イチゴミルクまっず。初めて飲んだけどまっず。こんなん商品化する気がしれねぇ…味覚狂ってるんやない?」「ははは。ちげぇねぃ。このクランベリーもなかなかやで?」って友人とオルティスソーダをボロクソに酷評した後、グレーチングに流して捨てた翌日だったの。だから、ノアも炭酸苦手なのがオルティスにバレたんじゃないのかなぁ…って」
いや!イチゴミルクうまいやろ!!!
あの、甘酸っぱさがいいやろ!クランベリーも甘酸っぱくていいやろ!!!
そう突っ込みたいけれど、突っ込む場面ではないのは重々承知だ。スマホが監視されているなんて知ってたらそんなことしなかっただろうに……もしかして、これがオルティスの狙いなのか?この酷評をSNSに流してたならまだしも、理由も不明瞭って言ってたからさ。
質問しようかどうしようかと悩んでいるとノアが話し出した。
「………僕。学校で飲み物買う時に、わざわざ体育館裏の自販機まで買いに行ってたんだ。そこの自販機は、無糖のアイスティーとかミネラルウォーターが売ってるから」
ああ。うちの学校の大体の自販機、横1列縦3列ぐらいオルティスソーダだもんな。オルティスソーダじゃなくても、大抵がフレーバー付きの無糖炭酸水だもんな。
「そこで、「わざわざ階段下って外に出て、こんなところまで買いに行く人。私以外にも居たのですね」って上級生かな?に声掛けられた事あったんだ。そこで炭酸痛いし美味しくないって話と、この学校の自販機のラインナップ異常だよねって話……した。タイミング的にも定期試験明けぐらいだから…その、さっき姉さんが話した奨学金打ち切られた人と同じような行動……僕もしている」
「いや。お前は別にオルティス叩いてないだろ!!」
流石にこれは突っ込まずにはいられなかった。
「なんだよそれ。炭酸飲めないから奨学金打ち切りって…なんだよそれ!!」
怒りと悲しみが込み上げてくる。本当になんだよ…そんなくだらない理由で打ち切りとか。。。なんでそうなるんだよ……。
「驚くのはまだ早いよエイデン!僕が、進路希望相談の際に医学部目指したい旨を先生に相談した時、先生の顔色が変わって、「君の学力なら、オルティスの提携大学の経営学部や法学部の方がいいんじゃないか?」って勧められたんだ。たぶん、自社の有利になる職業「弁護士、政治家、企業幹部」辺りに就かせたかったんじゃない?」
嘲笑うかのように口角を歪めてノアは話出す。
それを補足するかのように姉が続ける。
「確かにね。ノアの性格上、医者になったところでオルティスの炭酸を「健康にいいです!」って宣伝しなさそうだし…それに、医療系の職種は、製薬会社や公的機関と繋がる可能性があるから炭酸水の支配から逃れやすそうだしね……」
「そう、なんだかんだ理由をでっちあげられているけれど、本質としては企業の都合による切り捨てをされたんだ…僕が、オルティスにとって都合の良い人間じゃないから。学校側…っていうか教員側も資金提供されているから、理不尽な打ち切りでも問題視してくれないんだ。きっと…それが僕の現状なんだ……!」
聡明な友人は、全て分かった上でそれを吐き出すかのように呟いた。
「夢とか努力とかって世間では大切に言われているけれど、全く意味ないじゃないか……」と。
俺は……何も言えなかった。
次回更新:2025年5月14日(水) 22時頃更新
すみませんお嬢様。詳細とかこれからの展開についてエイデンたちと相談したいので1週間ほどお休み頂きます。
長い時間となりますが、待っていてくれますよね?うん。待っていてください。お嬢様のことこれからも満足させられるように、設定とか展開しっかり詰めますので!!
いつも読んでくれてありがとうございます。ではまた!