第10話 炭酸と学校の関係が紐解かれた
明日、日曜日は1日バイトしてた。
働かなきゃ…ってか動いてなきゃどうにかなりそうだったから。
バイト中に、ノアから連絡が来た。問題集作れたって。レビューシートと前回のテストの出題範囲、それとノア様の勘をふんだんに詰め込んだ問題集らしい。もう俺勝ったも当然やん!
幾何学だけでも下さい!って頭下げたのに、ノアは3教科全て送ってくれた。さすがノア様!
本当、ありがたく使わせていただきますぜノア様!!わからなかったら質問させてくださいませノア様!!!
……ま。俺に見せる為じゃなく、多分ミラに送れってことだろうけれどさ。
俺は、ミラにその問題集をairdropで送っといた。
ミラもミラで、奨学金制度についてや、学校側の対応。それに、オルティス・グループについての大まかな調べ物とかは終わったらしい。はやっ。
明日が楽しみだ。
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俺はミラから貰ったパスワードを間違えないように慎重に入力する。
前回もそうなんだけど、ミラ。よくわかんないサイト?に情報圧縮して載せるんだよなぁ……サイトはいるのにもパスワードいるし、ダウンロードするのにもパスワードいるし、ZIPを解凍するのにもパスワードがいる……至る所にパスワードだらけだ!!
その上、ミラは数個あるパスワードを簡単に教えてくれないんだ。大抵謎解きとか探索させて来やがる。パスワードも15桁とか普通に長いし……イラつくよな。俺はそろそろキレそう。
貧乏ゆすりしそうになる足を宥めながら、慎重に俺はパスワードを入力していった。
今の時間は16時。学校終わったからノアの家に集まった。案の定スマホは取り上げられ、今俺らは…その。また、ソフィアさんのお部屋にいる。ワニさんの上に座りつつ、借りたPCにパスワードを打ってるところだ。ほんといい匂い。俺ここにずっと居てぇ……
「あ。開けた」
そこには、表向きの情報と、裏向きの情報が書かれていた。なんだよ裏向きの情報って!裏情報かよ…!? 何したんだよミラ!!
落として来たデータをクレイン姉弟に向ける。
ノアの姉ちゃんが読み上げる。
「へぇ。なになに?」
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《表向きの情報》
・学校とオルティス・グループの間に公式提携はナシ。学校HPや教育委員会資料では一切触れられていない。
・奨学金制度は「教頭」など特定の職員から“選抜者”に個別で提示される。
・受給条件には「学力基準(定期試験成績上位○%)」があるが、実際の選抜基準は不透明。
・申請は不要で、「選ばれた者だけが呼ばれる」
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「……つまり、学校側が…ってわけじゃなく教頭ら先生の問題なのか?」
読み上げられた情報を静かに聞いているつもりだったが、一旦頭を整理させたく俺は口を開いてしまった。わけがわからない。受給条件…学力関係なかったのか?ノアあんなに勉強もテストも頑張ってたのに……?
それに、俺が、何度聞いても答えてくれずたらい回しにあったのは先生らがグルで俺は選ばれた者じゃなかったから…か?
少しの沈黙の後、ノアがゆっくりと話し始める。
「わからない。まだ何とも言えない……。それに、裏向きの情報って項目もあるし、姉さんの方でも何か…掴んでるんだよね?僕は一旦全ての情報が知りたい。……だから」
自分の姉ちゃんに質問しつつも、顔を見ずにずっと指先をいじっていた……っていうか、俺がさっき質問した時もずっと下を向いていたノアが真っ直ぐに前を見て芯のある声で俺たちに催促した。
「続き。読み上げて欲しい」
俺らは顔を見合わせ頷いた。
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《裏向きの情報》
・奨学金受給にはボランティア活動(例:オルティス製品試飲会等)への参加が義務化されている。
・活動記録は専用のスマホアプリで管理されており、通知内容に「活動実績が報告されました」などの文言がある。
・アプリはOS非公開のプロプライエタリ(専用設計)で、裏で端末データを収集している痕跡あり(監視機能)。
・一部受給者は「異常なタイミングで奨学金を打ち切られた」痕跡あり。
・メール内容から、選抜・打ち切りに「好感度」や「ブランド印象」など非学力的評価が関与している可能性。
・奨学生たちのSNS発信内容と支給の関係を分析したところ、“ポジティブ発信”と支給額に相関があった。
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「……僕が、学校に着くなりスマホ取り上げられて、放課後までミラさんが僕のスマホ触り続けてたのって…」
え?ごめん。初耳なんだけどそれ。ミラ何してんだよってか…
「マジ…かよ……」
俺は、ちょっと何も考えられなかった。
俺たち2人が呆然としている中、ノアの姉ちゃん…ソフィアさんだけは「やっぱり…」と何かを確信したかのように呟いた。それをノアは逃さなかった。
「え。あ…「やっぱり」ってどういうこと?」
「え?もう話して良いの? 大丈夫??」
「大丈夫」
そうノアは間髪入れずに答えやがった。大丈夫じゃない。俺が大丈夫じゃない。
俺はたまらずストップをかけた。
「ちょっとタンマ。ごめん。俺がタンマ。ノアの方がショック大きいはずなのに本当ごめんな。色々衝撃的すぎて…その、頭うまく回ってない」
「問題ないよ。エイデンの知能には期待していないから…って言いたいところだけどそうだね。僕も少し焦ってる…かも。少し休憩入れようか」
「「…って言いたいところだけど」ってなんだよw俺の知能にも少しは期待してくれ。定期試験赤点スレスレだった俺の憤りを…お前も俺に投げつけてくんな!」
そう言い放ち俺はスッと立ち上がる。休憩はありがたいけれど、じっとしていられなかったからだ。
「ちょっと歩きたいし、交差点突き当たりの自販機まで行って飲み物でも買ってくるよ。10分ぐらい席外しても良いか?」
俺は、クレイン姉弟2人見ながら質問した。
弟の方が、少しした後、スッと手を上げてきた。
「はい。僕はコーヒーが飲みたいです。温かいやつがいいです。ドリップの袋まだ家にあるのでお湯を沸かして欲しいです。この家には電気ケトルがあります。よろしくお願いします」
便乗して姉も手を挙げる。
「はい。私はココアが飲みたいです。冷蔵庫にミルク入ってるし台所の戸棚の上の赤い缶にココアパウダー入ってるのでそれで作ってください。もちろんホットで!」
何やねん、お前ら……ここ俺の家じゃねぇよ。お前ん家だろ?
どうやら俺を外に出さない気らしい。俺は、ハァ…と自然にため息が出てきてしまった。
「ノア。スタンドアッププリーズ」
手のひらを天に向け、指先を自分の方に曲げる動作を2、3回行いながら俺はノアを呼んだ。
「えぇ…」
「えぇ…じゃない。ここ俺の家じゃねぇんだよ。立ち上がって俺に付いて来い。リクエストしだしたのはお前だろ?」
渋々立ち上がったノアを引き連れ、俺はキッチンへ向かった。
適当に湯を沸かし、適当にミルクも温め、適当に粉バァって入れたりダァーって注いだりして作った。
俺は、クレイン姉弟のリクエスト素材から少しずつ拝借しカフェオレ作ることにした。
もちろんミルクをコーヒーより多めに入れて作った。俺、コーヒー苦くてあまり好きじゃないんだよね。ノアが砂糖入れなかったのに少し驚いた。いつの間にブラックコーヒー決め込むようになったんだノア!!ちくしょう大人ぶりやがって!
内心動揺した。俺は先程のミラから貰った情報を聞いた時ぐらい動揺した。
高校生でもうブラックコーヒーが飲めるなんて、もうそれは一大ニュースだぞ!?
「ありがとう」とか何とか言って俺から成果物を取り上げたノアは……いや、成果物って言ってもノア自分のマグカップしか持ってねぇな。まぁいいや。俺たちはソフィアさんの部屋に戻ることにした。