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反する魔族と牧師様  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第一話 『出会い』
3/5

第二 『帰る場所』

 彼女を救うと決めた選択が間違っていない事、彼女と私が生き永らえる事を。未だに消えることの無い、深い傷として彼に苦しみを与え続ける事件。そのトラウマから彼は一心に祈り続ける。そのトラウマさえ差し置き、神のお言葉に従った牧師として神の導きが欲しかった。


 目を瞑り光の感触だけを味わう静かな礼拝堂に扉を開ける音が響く。一般人の出入りする正面の扉ではない。居住部屋へ繋がる廊下の扉が少しだけ開き、ゆっくりとその隙間が広がっていく。角の先端が見え始めゆっくりと顔を覗かせる。


 黒い瞳と目が合うと彼女はおどおどとして顔を隠すが、まだ角の先端が隠れ切っていない。少ししてまた黒い瞳でこちらの様子を窺う。


「おはようございます。身体に異常はありませんか?」


 突然人間に話しかけられて怖がってしまったのか、また顔が隠れてしまう。魔族を本当に助ける人間など見た事が無いだろう。縛りも付けもせずに敵である魔族を警戒していない人間。裏があると考えて警戒するのも無理は無い。


「余を助けてくれたのはお前か? れ、礼を言おう」


 ドア越しに伝わる声は掠れたか細い声ではなく、陽気で張りのある声へと元気を取り戻していた。元々彼女の傷はほぼ無かったため元気なのも納得がいく。早ければ今日中にこの教会から姿を消すかもしれない。


「……別に私は何もしませんよ。助けを求める者を助けるのは当たり前ですし」


 顔を出したり引っ込めたりと忙しなくこちらの様子を窺い続ける。人間に対して警戒心を持っているのだろう。そして同時に人間への興味もあるのだろう。それが今の彼女の動きに直結してモグラ叩きのモグラ役の様になってしまっているのだ。


 その様子を微笑ましく見ていると段々見える面積が大きくなっていき、こちら側に一歩踏み出して来た。無駄に警戒されないようにその場に留まり続けたお陰だろうか。

 おろおろしながらも姿を見せてくれた彼女は持った時よりも意外と小柄な体系で尻尾がくねくねと止まる事を知らずに振り続けている。胸辺りとスカートを握りしめもじもじとするその姿が可愛らしい。だが、勝手に着替えさせた事が頭に浮かび殺されるかもしれないという思考が過る。


「あ、その……救済に必要な――」


「――トイレ……!! ど、どこにある……」


 無言で指をさしその場に立ち尽くす。その横をやや大回りに通り過ぎてゆく。姿が見えなくなってから大きな息を吐き、神像を見つめる。その目には不安や迷い、後悔などの色が薄れた誇らしげな目だった。


「神よ、私の行いは正しかったのですね?」


 一礼を終え、台所へ向かう。人間の作った食べ物を口にするか分からないがお腹がすいているのには変わらないだろう。具材を切っている最中に視線に気付いたが包丁で食材を切るたびにその姿を隠す。その光景が面白くいつもより多くの具材を切ってしまう。鍋に具材を入れ簡単なスープを作る。ぐつぐつと煮込まれ、美味しそうな匂いが漂う最中は包丁でパンを切っていようが片時も鍋から目を離さなかった。


「……食べますか? そんなに警戒しないでください」


 怖がってなんかないし、と言いたげな表情で姿を見せる。引きつった表情が心情の答えを教えてくれ、お腹の虫が今がお腹が空いたを教えてくれる。


「……ちゃんと貴方の分もありますよ。どうぞ座って下さい」


「そ、そうか。人間の作ったものがどれほどのものか教えてもらおうじゃないか」


 小柄な体系でわざわざ大股に歩き、魔族としての威厳を見せようとしているのだろう。座った脚は爪先しか地面に届いていない。ふんぞり返り大きく見せたいのだろうがその意思とは関係なくテーブルの上にある食べ物に引かれ、ゆるんだ本心が見え隠れしている。よだれが最たる証拠だ。


「いただきます」


 何を言っているのか理解していない様子の彼女に人間の文化を教える。予想通り魔族にそんな文化は存在せず、食事ですらゆっくりしていては他の者に取られてしまうらしい。意味も分かっていないだろうが彼女は私を真似して手を合わせる。


「い、いただきます?」


 そこからは普段通りであろうすごいスピードでスプーンを手に取りスープをすする。一口飲んだタイミングで大きく目を見開き手が止まる。目を輝かせながら時が止まったかのようにスプーン一杯のスープを見つめる。が、すぐに表情を変えて元の偉そうな顔に戻る。


「や、やるじゃないか人間」


「お口に合ってよかったです」


 その後も勢いは止まらずにパンとスープをどんどん食べていき、鍋は空になった。満足したのかお腹をさすりながら一息つく。


 これ程美味しそうに食べてもらえるとは思っておらず作った甲斐があったものだ。食器を洗い終え教会に戻るがその後ろをトコトコと付いてくる。掃き掃除など雑務をこなしている間も後ろにぴったりと付いてくる。気になり後ろを振り向くと顔を背け、また仕事に戻るとその様子をまじまじと観察される。


「えっと、傷も治ったのですし帰っても貰ってもいいですよ? 対価とか特に必要ないので」


「……たぶん、余の帰る場所は無くなっている」


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