第一 『神に祈る』
雨に濡れ、泥で汚れ、血で汚れるその姿。打撲傷があるが彼女自身から出血をしている様子ではない。つまりこの血は他の人の血。
魔族であり血に汚れている。その姿の彼女を抱きかかえている自分。早く教会内に入れてあげ風邪を引かないように看病をしなければいけない状況。しかし躊躇し脚はその場から動かない。
新聖書の様にすべての魔族が敵だとは思わない。しかし彼女の身を汚す血は雨でも拭いきれない程に沁みつき、特有の匂いを放ち続ける。
恐れているのは両親の二の舞となる事。真っ白な教会に似つかない赤い血が辺りに飛び散り、独特の匂いの中心に倒れ込む姿が思い起こされる。あの時も旧聖書の教えと慈愛による救いだった。それが死という仇で返すような族。
血の臭いが鼻を通り抜けるたびにこの手から手放してしまおうかと思ってしまう。その人の血を被った身なりの彼女を良い魔族とは到底思えない。関わらない事、いっその事ここで弔う事が最善の選択なのかもしれない。だが、頭の中に残る良心と両親の言葉がいつまでも絡みつきこの手を放す事をしない。
魔族を助ける事は悪だ。だが、ここで見放すのはさらに悪だ。分かっているそれでもこの世のルールが縛り付ける。私の言い分など聞いても貰えずに裁かれるだろう。
葉が雨に打たれる音が微かに聞こえ始め決断を急かす。グッと目を閉じ気持ちを整理し、受け入れる。彼女が凶悪な魔族で命を落とす事があってもこの死は神に報いることが出来るのだ。と、
ゆっくりと彼女を抱きかかえたまま立ち上がり、暖かな教会内へと運ぶ。廊下を挟んだ所にある部屋で寝かせようと思ったが、濡れた服から濁った水滴がぽたぽたと教会を汚す。服も髪も汚れている中で布団に入れるのはいささか汚い。進路を変え風呂場へと向かう。
仕立ての良い服だが破けて汚れてしまっている。これをもう一度着させるわけにもいかない。魔族とはいえども女性には変わりない。服を脱がせることに抵抗がありつつも丁寧に、そしてあまり見ないように服を脱がせていき肌着だけの姿にする。脱がせるのに手間取ったせいで結果的にお湯が温まったタイミングと重なる。
ゆっくりとお湯を髪にかけると汚れが流れていく。赤い汚れが落ち元々の綺麗な白髪が水に流れる。きめ細かく光沢のある髪の毛、肌触りの良い白い肌、長いまつげ、綺麗な歯。その立派な角が無ければどこかの令嬢と言われても信じてしまうだろう。初めて触れる魔族の角は思った通りの硬さで思っていた以上にごつごつとしていた。
タオルを濡らし身体の汚れを拭いていく。真っ赤に染まった小さな掌を綺麗に拭い、泥の飛んだ脚を拭く。垂れている尻尾の手入れの仕方が分からず、戸惑いながらも全身を拭き終え、綺麗な少女の姿になる。
小柄で筋肉があるという感じでもない。だが、魔族は筋肉だけで力を測る事は出来ない。魔力量などにもよって地位は決まる。それでもこのか弱い見た目をした彼女を見れば見る程血で汚れていた理由が分からなくなる。
そろそろ服を着せたげなければと思い立ち、髪の水気を取ったところで部屋に連れて行く。六畳間ほどの広さの部屋には基本的な家具と綺麗に整えられたベッドが一つ。服が見つかるまでの間とりあえず寝かせておく。
自室には女性ものの服は置いていないのでその隣の部屋に入る。この部屋だけは少し物が散乱し物置の様になっている。しかしその部屋には誰かが使っていた形跡が今でも残されている。片付けることも出来ずに放ったままの両親の部屋だ。その中から母が着ていた少し古いロング丈のワンピースを一枚取り出す。
早速着せてみるも丈が長い。ちょうどの丈に印を付け縫い、着ていた服に習い尻尾が出てくる穴をつける。踏まない程度の丈の長さ、自由に動かせる尻尾、奇麗な白髪に似合う綺麗な服となった。
身なりを整えるために色々動かしたが目を覚ましそうな気配が無いためそのまま布団で寝かせることにした。数時間おきに様子を見るも一向に目を覚まさない。太陽が沈み、月が沈み、教会が日の光に照らされ始める。ステンドガラスを通して七色に光る光を受けながら神像に手を合わせ、神に祈る。




