2. カイは少女に出会う
カイは街に戻るとスキル屋で『攻撃力アップ』を2つ購入する。
プレイヤーによって獲得され、売却されたスキルは、在庫のような状態となってスキル屋に並ぶ。この並んでいる状態と、そのスキルの需要によって売却時のゴールド、マナ及び、購入時のゴールドが決定される。
例えば、物理攻撃で同じモンスターを連続10体狩ると獲得できるスキル『攻撃力アップ』はその獲得しやすさから、大量に売却され、今では10ゴールドほどで買うことができる。
購入するとカイは路地裏に向かった。固有スキルはあまり他の人に見られない方がよいからだ。
先ほどと同様に『攻撃力アップ』と『攻撃力アップ』を合成する。すると、『攻撃力アップⅡ』を取得したという通知が来た。
「やはり『攻撃力アップ』2つで『攻撃力アップⅡ』にできるのか。マナの消費も考えると、たった20ゴールドだけでランクを上げられるのはかなり優秀じゃないかこれ」
ならばと続けて作成した『攻撃力アップⅡ』とすでに持っていた『攻撃力アップ』を合成する。すると、この2つのスキルが失われたという通知とともに、
『攻撃力アップⅡ』を手に入れたという通知が来た。
「……あれ? ってことは指数関数的に『攻撃力アップ』がいるってことかな」
カイはさらに追加で『攻撃力アップ』を2つ買ってきて、合成する。そして、『攻撃力アップⅡ』を2つ合成すると、やっと『攻撃力アップⅢ』を手に入れたと通知が来た。
「つまり、あと必要な『攻撃力アップ』は60個か」
現在、『攻撃力アップ』のランク上限は7である。とはいえ、『攻撃力アップ』を7にしているのは上位層のさらに上位層だけである。取得してもステータスが上昇する幅があまり大きくないため、他のスキルで代用されがちなのである。
カイは『攻撃力アップ』を60個買ってくると、一つ一つ、合成を始めた。
そして、日が暮れ、『攻撃力アップⅤ』を4つ手に入れたところで、これを2つ合成できないことに気付く。カイの目の前にはMP不足ですとメッセージウィンドウが表示されていた。
「あー。そうか一応技スキルだもんな」
MPは自動回復する。町の中ならその速度はさらに早い。カイは自分のMPを確認する。すでにほとんど回復していて、あと少しで最大MPまで回復するところだった。そしてそこから数秒後、MPがマックスになったのを確認すると、再び合成をしようとする。
しかし、やはりまだMP不足ですとメッセージが出た。
「ってことは合成するスキルによって使用するMPが変わるってことか。そう簡単に最高ランクは作らせてくれないみたいだな」
カイは攻撃力アップの合成を行うためには最大MPを増やさなければと思案する。
『MPアップ』は『攻撃力アップ』ほど容易に獲得できるスキルではない。MPを10%以下にした状態で、町の外で30分間経過することが条件である。どの職業でも必須級のスキルであり、みな優先的にとるスキルだが、2個目以降取ることはほとんどない。好き好んで獲得に30分かかるスキルを大量にとろうとはしないからだ。また、MPが減ったらポーションで回復させるため、『攻撃力アップ』のように偶然取得するということもほとんどない。そのため、市場にほとんど出回らない地味にレアなスキルなのだ。
カイは『MPアップⅢ』を持っている。ステータスアップ系の基本的なスキルはすべて取得しているがランクを上げているのはこれと『HPアップ』だけである。ともにランクは3である。
そして、スキルのランクは売ったときにリセットされる。つまり、『攻撃力アップⅤ』を売っても『攻撃力アップ』と同等のゴールドとマナしか貰えないのだ。
「直接取引するしかないか」
スキルはアイテムと同様、譲渡や交換が可能である。そのため同じギルドに入った初心者にはある程度、育ったスキルを渡すことが慣習となっている。
「『攻撃力アップⅥ』を作るのでされ、MPが足りないんだ。『攻撃力アップⅦ』は今じゃどうあがいても作成できないだろうな。それなら『攻撃力アップⅤ』を2つ別のものと交換してもらおう」
狙うは中級者の戦士系。上級者なら『攻撃力アップⅤ』くらい持っているだろうし、初心者ではこれに釣り合うものはもらえないだろう。
町の掲示板を利用して、交換してくれる人を探す。欲しいのはMPアップ系のアイテムまたはスキルだ。
広場でうろうろしているとメッセージが届いた。同じく盗賊職の人のようだった。
どうやら、『移動速度アップ』を育てていたらしく、『攻撃力アップ』のランクは2だった。しかし、パーティメンバーにもう少し火力が欲しいといわれたため、少しでも基礎火力を増やせるスキルを探していたらしい。交換条件としてMP関連の装備やスキルがないかと尋ねるが、それらのスキルはランクが低く、アイテムや装備も持っていないそうだった。
ただ、いらないレアドロップスキルがあるらしく、それと交換ということで落ち着いた。
こうして、カイはレアドロップスキル『雀の涙』を手に入れた。
「これ、意外にみんな持ってるのかなあ」
カイは乾いた笑いを浮かべながら『雀の涙』を売りに行く。そして売ったマナで、『MPアップ』のランクを4に増やした。
ステータスアップのスキルはランク1の時、一律で5%アップである。そしてランクが上がるごとに1%増えていく。ただし、HPとMPに関してはランクが上がるごとに5%上がる。これが必須級と言われている理由の一つである。また、そのためカイも『HPアップ』と『MPアップ』のランクを優先的に上げていたのである。
「うーんこれで少しはMPが増えたとはいえ、それこそ雀の涙なんだよなあ。装備で上げるのが手っ取り早いんだけど」
と、その時またメッセージが届く。今度は戦士職のようだった。カイは指定された場所へ向かう。
そこには、1人の小柄な少女が立っていた。鎧ではなくただの服、それに武器は戦士系にもかかわらず短剣を装備していた。
「わっ。早いですね。ありがとうございます」
少女は深々と礼をする。
「『攻撃力アップⅤ』を交換してくれるって本当ですか!?」
少女は食い気味に尋ねてくる。
「う、うん。代わりにMPアップ系のアイテムが欲しいんだけど何か持っていない?」
「うーん、それでしたら、MPリングでいかがでしょうか」
MPリングは純粋にMPを30増やしてくれる装飾品である。ダンジョンのボスモンスターの通常ドロップアイテムだが、カイはボスモンスターに挑んだことがないため、持っていない。
「ありがたいけど、いいの?貰っちゃって」
「まだまだたくさんありますから」
そういうと、その少女はアイテムのインベントリを開く。そこにはMPリング×57と書いてあった。
「レアドロップアイテムが欲しくてこのモンスターの周回をしているんです。売ってもあまり高くないですし、どうぞあげます」
話を聞くと、欲しいアイテムが全然ドロップしないため、気分転換にスキル獲得のクエストに挑戦するそうだ。そのクエストを受ける条件が『攻撃力アップⅤ』以上を所持してることだったため、探していたそうだ。
「アイテムは売ってもマナを獲得できませんからね……」
そういうと少女は再び深々とお辞儀をしてその場から去っていった。
カイはMPリングを装備すると再び路地裏にやってきた。
「よし、今度こそ」
カイは残った『攻撃力アップⅤ』を2つ選択する。すると、MP不足メッセージに阻まれることなく、新たなスキル『攻撃力アップⅥ』を獲得した通知が来た。MPを確認すると5しか残っていなかった。
「よしよし、上手くいったみたいだな」
特性スキル『攻撃力アップⅥ』
・『攻撃力アップⅤ』をランクアップさせる。
《攻撃力が10%増加する》
「これだけやって10%じゃ、確かに獲得する人は少ないだろうなあ」