1. カイはスキル作成を取得する
「やった。レアドロップスキル『雀の涙』を手に入れた!」
カイはいつもの日課である、モンスターのレアドロップスキルをひたすら回収していた。
ここは、VRMMORPGである「skill infinity」と呼ばれる仮想世界の中である。このゲームは大手ゲーム会社から発表されたわけではないのだが、徐々に人気を集めていた。その理由は、無限に存在するスキルである。
このゲームはモンスターや武器などの調整は運営側で行っているが、スキルだけは違っていた。スキルはこの会社独自で開発し、作りだした特殊なAIがスキルを際限なく増やしているのである。当然、その中には1人しか入手することのできない固有スキルも含まれており、このゲームは簡単に唯一無二のキャラメイクができるということで発売前から話題になっていた。開始二週間ですでに固有スキルを含め1000を超える数が確認されており、上位プレイヤーはすでに10を超える固有スキルを持っているのではないかとも噂されている。
カイはゲーム配信が行われた瞬間からこのゲームをプレイしているプレイヤーである。
カイはそれなりに様々なゲームをプレイしてきた。そのため、キャラメイクの際に職業は盗賊を選択した。発売前から環境職と言われていた戦士や魔法使いと言ったメジャーな職業には就きたくなかったのだ。自称ゲーマーにありがちな選択だ。
しかし、この選択は大きな間違いであった。
盗賊の初期スキルが『ゴールド獲得量アップ』であり、全く役に立たなかった。
このゲーム、ステータスアップは自分で割り振るのではなく、所有スキルで勝手に決まる。
カイは事前情報をあまり入れたくなかったので、そのことについて知らずに1日中レベル上げをしていたのである。
すると、ゴールド獲得アップしかないカイはまあ、とてもきれいなバランスタイプのステータスになってしまっていた。
だが、ここで再度キャラを作り直すのは、負けた気がしてカイはそのままプレイを続けた。
1週間が経過したころには引き返せないほどにレベリングしてしまっていたのである。
もちろん、盗賊職でもトッププレイヤーは数人いる。彼らは早々に必要なスキルを集め、いらないスキルは売ってステータスの調整を行っている上級プレイヤーだ。
獲得したスキルはスキル屋で売買できる。スキルを売ると、そのスキルに応じた、ゴールドとマナを獲得することができる。スキルを買うのはゴールドだけでも行える。上位のスキルはマナも必要になってくるが。
マナはスキルのランクアップにも使うため、いらないスキルは積極的に売って、マナにするのが定石だ。
カイは獲得したスキルは売ることなく、ただひたすら集めていた。どうせスタートダッシュに失敗したのならのんびりとスキルを集めてみるのも面白いだろうと思ったからだ。
モンスターを狩って、ドロップスキル、ドロップアイテムを回収。ダブったドロップスキルやドロップアイテムは売って、今のカイでは獲得が難しいけど安いスキルを購入する。これを繰り返して、ひたすらにスキルを集める。毎日そんな作業だ。
「これでこの付近のモンスターのレアドロップスキルは全部回収したな」
カイは『雀の涙』を手に取る。
特性スキル『雀の涙』
・スモールスパロウを100匹以上狩った状態の時、スモールスパロウからレアドロップ
《獲得するゴールドが0.03%アップする》
「まったく、こんなゴミスキルでもこんなに苦労しないといけないなんてね」
カイが別の場所に立ち去ろうとしたとき、スキル獲得のファンファーレが頭に鳴り響く。
カイは疑問に思った。行動系、つまり、モンスターを○○体討伐、とか特定のモンスターを特定のスキルで倒す、なんかは簡単なものはすべて取っていたはずだ。
カイはスキル欄をチェックする。そこには新たに獲得したスキルとして、『スキルシンセサイズ』が刻まれていた。
固有技スキル『スキルシンセサイズ』
・ほかの固有スキルを獲得していない状態で、固有スキルを除く現在存在するスキルを半分以上所持する。
《所持しているスキルを組み合わせて別のスキルにする》
カイは運がよかった。数日後、来たる第一回イベントに備えて、運営がスキルAIを強化する予定だった。それによって存在するスキルは爆発的に増加する。このタイミングを逃せば二度と獲得できなかっただろう。
「へー、面白そうなスキルだな」
カイはスキルの説明を読みながら心躍らせる。他のゲームに比べて獲得しやすいとはいえ固有スキルは唯一無二の個性だからである。
「このスキルを使うために必要な武器は……魔道書か」
低ランクの武器であれば、職業に応じて装備できる武器の種類には違いがない。高ランクの魔導書になると盗賊職であるカイは装備できないが、スキルを試す分には低ランクでも問題ないだろう。
カイは魔導書を装備する。特定の種類の武器を初めて装備したときに獲得できるスキルがあるため、武器は全種類購入してある。
「えーと……『スキルシンセサイズ』」
するとカイの前に、スキル欄と2つの空のスロットが出現する。カイは適当にスキルを2つ入れてみる。どうやらこの状態で決定を押すと、スキルが合成されるらしい。
「合成したら何のスキルができるかはわからないのか。なら、まずはいらないスキルで試してみるかな」
カイは『ゴールド獲得量アップ』と先ほど手に入れた『雀の涙』を合成材料に選ぶ。
似ているスキル同士のほうがやりやすいだろうと考えたからだ。
特性スキル『ゴールド獲得量アップ』
・盗賊職の初期スキル。スキル屋で常時、購入可能。
《獲得するゴールドが5%アップする》
カイは2つのスキルをスロットに入れて、決定ボタンを押す。数秒後、『ゴールド獲得量アップ』と『雀の涙』が失われたという通知が届いたのち、新たなスキル、『ゴールド獲得量アップⅡ』を手に入れたと通知が来た。
特性スキル『ゴールド獲得量アップⅡ』
・『ゴールド獲得量アップ』をランクアップさせる。
《獲得するゴールドが6%アップする》
「はあー。なるほど。こんな風に合成されるのか。……って、これだったら『雀の涙』を売ったマナでランク上げたほうが得してるじゃん!」
ゴミスキルである『雀の涙』であっても、レアドロップスキルであり市場に出回っている数は少ない。そのため売却したときにもらえるマナとゴールドはそこそこ多く、『ゴールド獲得量アップ』をランク3にするくらいは貰えるだろう。
カイは苦労して取得したレアドロップスキルがゴミと化したことにショックを受けたが、このスキルの面白さと取得した喜びが勝った。そして、試してみたいことができたため街に帰ることした。