籠鳥恋雲
「ピヨちゃーん。ご飯よー」
ご主人様の声だ。そして、ピヨちゃんと言うのは僕の名前。ピヨピヨと鳴くからピヨちゃんなんだそう。
僕は、人間で言うところのインコだ。小さな頃からこの家で飼われていて、この家に来る前の記憶はない。
朝目を覚ますと、ご飯がある。ご主人様はお金持ちだから、ご飯も美味しくて、あまり不満はない。不満があるとすれば、僕を籠の外に出してくれないことと、日の当たる所に中々連れて行ってくれないこと。
僕はここを出たい。理由は…もちろん外の世界を見たいこともある。けど、それよりも明るくて、確かな理由がある。恋をしたからだ。
―あれは、よく晴れた日だった。
その日、ご主人様は、僕の部屋を掃除していた。だから、僕は―僕の籠は―その間、リビングの窓際にいたんだ。
僕は、生まれて初めて空を見たんだ。今までにも掃除のために窓際にいたことはあったけど、いつの日も空は曇っていて、青い空を見ることはなかった。
でも、今回初めて空を見れた。そして、僕は恋をしたんだ。彼女は、白くて、大っきくて、不思議な形をして、大きな空を自由に飛んでるんだ。いつも形が違くて、ふわふわしてて、触れたらきっと気持ちがいい。だから、いつか彼女に会ってみたい。だから、いつかこの籠から出るんだ。
その日は、突然に訪れた。
いつも通りご主人様が部屋を掃除している時だった。僕はいつも通り窓際にいたけど、その日は僕の入っている籠も一緒に洗ったんだ。その後、ご主人様は籠の鍵を締め忘れたんだ。僕は今がチャンスだと思って、籠の扉を開けて、小さく開いた窓から逃げ出した。
「やったー!」
僕ははやる気持ちを抑えつつ、一目散に彼女のもとへと飛んでいった。
彼女の白い姿が見えてきた。僕は思い切って話しかけてみた。
「あ、あの!」
『どうしたの?』
彼女は、大きくて、優しくて、包み込むような声で言った。
「ぼ、僕…あ、あなたのことが…その…」
「ふふ…一緒に行きたいのかしら?」
「は、はい!」
僕は、彼女と旅をした。ずーっと長い旅をした。風に揺られて、羽ばたいて。疲れた時は、彼女の背中で休んだ。
彼女の背はフワフワで、とても気持ち良かった。
色んなところにも行った。1人じゃいけないところ。海外にも行った。見たことのない景色ばかりで、とてもワクワクした。
でも、そんな彼女とも、もうお別れ。
彼女は今からアメになって、地上へ行くんだって。でも大丈夫。もう一度空へ戻ってその時には、また会えたら良いな。そして、また一緒に旅をしたいな。だから、その時まで元気でいるよ。