TKB
ふざけんなクソ野郎!!!!何が勝手に決められていましただよ!!!絶対にお前が勝手に決めたんじゃねえか!!勘弁してくれよ。今さっき最強のギルド名を存分に貶したばかりだったのに、一瞬にしてフラグを回収してしまったらしい。やっぱり乳首は期待を裏切らない。というか裏切って欲しかったんだけど……。
「もういいよ. それで、今日は本当に疲れた。一回ぐっすり寝たい」
俺は涙を流しながら乳首に訴えた。もう俺の体はボロボロだ。
「わかったよ、寝れるところへ移動しよう。」
そういうと、乳首は俺を肩に担いで一瞬でセーフティーゾーンに移動したのだった。相変わらずの化け物っぷりだ。
こうして俺の長い長い狩街での1日目が終わった。明日は朝早くから凩と合流して、自己紹介がてらに散歩でもしようか。いや、これは明日考えればいいだけの話。今はただ、凩がどんな顔をして「TKB」に2人目のメンバーとして加入してくるのかが不安で仕方がない。不可抗力とはいえ本当に申し訳ないことをしてしまったと詫びるほかないだろう。いや、考えてられない。
今日のところは寝て、全てを忘れることにした。
私の名前は凩衛。私の両親は、裕福で品のある、結界術の道場主だ。私は両親の言う通りに相伝の結界術を学び、道場を卒業。修行の一環として、自らこの街に入った。そして、ギルドに入って間もなく、七色と出会う。そして彼をリーダーとする極楽鳥花を作り、結界師として全力で戦った。しかし、私が入って一年ほど、ある二つの悲劇が起こる。
「なんだこいつは、強すぎる!」
少し前に、私たちは玉魂特戦隊という、現最強ギルドの隊員一人に瀕死にまで追い込まれたことがあった。
ハァ、ハァ…
奴の速さを前に、私たちは手も足も出なかった。その時一緒にいた残りの仲間二人は倒れ、結界は奴の攻撃に何度も破られている。結界を作り出している右手も限界だ。私は七色さんに、逃げるよう提案した。
「こいつは無理です、七色さん!このままやっても勝ち目はありません!!」
しかし、七色さんは何も答えず、俯いたまま奴の攻撃を属性で弾いていた。ただひたすらに、属性をチェンジ。まるで、正気を失っているように。
「聞こえてないんですか?ここは一度、仲間を連れて撤退するべきです!」
「大丈夫だ、俺たちはまだ戦える。」
「あなたが戦えても、勝てるわけが、、」
私はその言葉がいかに失礼か、すぐに知ることになった。
「そうだ、勝てるわけはない。でもな、かすり傷くらい作ってやらないと、僕を信じて囮になってくれたあいつらが骨折り損になってしまうだろう!さあ、もう一度結界で奴の動きを鈍らせてくれ、僕は奴の懐に突っ込む!僕たちは全員合わせて、ストレチアだ!」
私はハッとした。
「リーダーの、、いう通りですよ…」
「全く…何回無茶させる気だよ。」
「江戸間に、久留米!立ち上がれるのか!」
「俺らだって、奴の攻撃を一割防ぐことならできる。少しでも、リーダーに道を開けるぞ。」
佐原と山村は迷いなく飛び出し、七色の斜め前で剣を構えた。ならば私もその覚悟に応えなければ。敵の魂力を弱らせる結界を張ろうと右手を地面にかざした、その時だった。
「ここで殺すには、惜しいな…」
特戦隊の男がそう呟いて、攻撃が止まった。次の瞬間、やつはこちらに片手をかざして、
「魂霊歯車、壱廻」
と呟いた。次の瞬間、魂が霊を雇ったかのように、棘に包まれた、異質な面のようなものが宙に現れ、回転しながら猛スピードで飛んできた。
「リーダー、危ない!」
予想外の攻撃に、私は咄嗟に広範囲の防御結界を張った。そのつもりだった。
防御結界の内側にいたのが私だけだと気づいたのは、リーダーの嘆きが聞こえてからだ。
「おい、しっかりしろ、江戸間、久留米!!あ、あぁぁ...!畜生がぁぁぁ‼︎‼︎」
江戸間と久留米は、顔がなくなっていた。きっとあの石の面に削り取られたのだろう。
すると、特戦隊の男が失望した声で言った。
「お前、仲間を見捨てたか。お前たちは、やつの魂を理解するいい手がかりになると思ったが、思い違いのようだ。お前らに用は無くなった…。それで、…まだ続けるか?」
特戦隊の男は石の面をさらに増やし、再び構えた。私たちは本当に死を感じ取り、防御結界を後ろに張りながら、二人の亡骸を担いで必死に逃げた。
仲間を二人失ったその日から、私のギルドの中では不穏な空気が漂っていた。七色は生気がなくなり、その日から二週間ほどは口も聞いてくれなかった。
私は、自分のせいで二人が死んだという事実から目を背けるため、心の中で七色を敵にしてしまった。
私だって見捨てたくて見捨てたんじゃない。防御結界は張れる場所が限られてるんだ。なのに俺の近くにいなかったあいつらが、、あいつらのせいだ。
そう思うようにしつつ、私は気づいていたのかもしれない。リーダーを庇った二人は、結界がどれだけ近くにあっても、七色が入っていない限り、きっと同じ行動をとるということを。
極楽鳥花の花言葉は万能だ。七色の極楽鳥花、一人一人の個性を合わせれば成せないものはない。そんな意味を込めて作ったこのチームは、私にとって世界一のギルドだったのだ。私は、第二の家族としてたまらなくこの場所を好んでいた。しかし、どれだけ愛していても、壊れる時はほんの一瞬だ。残酷で美しくない。
今はバラバラになってしまった私たちだが、いずれまた会える日がくるならば、最後に感謝の気持ちを伝える。
「七色さん!!」
凩が飛び起きた。
「うわっ、驚いた。いやほんと、さっきはすまんかった!命がかかってたんだ!」
最初の最初から仲間を売る。TKBはそういうギルドだと思われてしまう。
「いや、悪く思わないでください。その気持ちは痛いほどわかります」
「そっ…か。いやでも、ほんと、悪かった。」
「君は七色さんと戦ったんでしたね?彼はどんな人でしたか?」
変な事を聞く。
「いや、凩はずっと七色のギルドにいたんだろう?あんたの方がよっぽどあいつのことを知ってるんじゃないのか?」
凩は少し悲しそうな顔で、
「それはあくまで少し前までの話ですよ。彼はもう私の知っている七色さんじゃありません。いや、私が変えてしまったのです。」
と言った。
「そうか、でもきっとあいつは変わってない。あんな絵に描いたようなナルシスト口調だぜ?生まれつきじゃなきゃ逆におかしいだろw」
「そうですか、それならよかったです。なら、きっと今もどこかで元気にしているでしょう。」
凩は知っていた。七色の極楽鳥花なんていうギルドは、既に存在しないということを。そして、七色が自らの手で、ギルドメンバー全員を皆殺しにしたことを。
真実を伝えてくれなかったのは、凩の優しさなのかもしれない、と。