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そうして私は、神様の子分になった

作者: 冬は冷え性にとって地獄


(やっぱり、主人公は貴方だったのね。)


日の光が当たると虹色にも見える綺麗な銀髪と、サファイアのように蒼く輝く大きな目。

それらを併せ持つ天使のような顔立ちと、普通ではない両親を持つ従姉妹を目にし、私は内心そうかそうかとウンウン頷いて、導いた結論に納得していた。


――お互い特殊な生まれ育ちゆえに、従姉妹同士といえど生まれて初めて顔を合わせる場ではあったがしかし、残念ながらその場の空気は和やかとは程遠い。

突然の乱入者に大人たちは訝しみ、従姉妹はひとり、きょとりとしている。初めて見る上に不作法な私に驚いているのだろうが、その動作は歳の割に幼く見えた。

生まれてからこれまで、妖精界で過ごしていたからだろうか?

そんなところも主人公としての魅力なのだろうなと、また独り頷く。


煌びやかにアフタヌーンティーを楽しむその部屋には、現侯爵家当主である私の父と、その弟であり勇者である叔父夫婦とその娘、更には前侯爵家当主である祖父母が揃っていた。

ちなみにその家族の団欒に、私は呼ばれていない。参加者リストに載っていないのに勝手に乱入した部外者である。

歓迎されていない空気はさもありなん、だ。


───とはいえ、正確には部外者ではないはずなのだが。


父は普段交流のない私の登場に慌てていた。

叔父夫婦は、突然のことに目を見開いたあと、初めて見る私を警戒してか睨むように目を細めた。

祖父母は私の無礼な振舞いに御立腹だ。

でも不興を買ってでも、私はそうせざるを得なかった。

どうしても知りたかったのだ。

今後どんな物語がはじまるのか。主人公は誰なのか。ハッキリさせたかった。

私か、噂話でしか知らなかった彼女か。


別に子供のおままごとで物語だの主人公などと言っている訳では無い。

イタイ妄想でもない。

そう思う理由がある。


何を隠そう。

お察しの通り、私は転生者だった。





二度目の人生に生まれた世界には、妖精やドラゴンなどが実在していた。

身につけるものも食べ物も、街並みも、中世の西洋を思わせる。

異世界に転生。本当にあるんだなと、自我が芽生えた当初は軽くそう思うだけで、何の心構えもせずに過ごしていた。

ごく普通の街に住む、ごくごく普通の平民として。


せっかくの異世界だからと、冒険しようとは思わなかった。日本の料理を再現するスキルや戦闘に使えるチートスキルなんかを持っているわけでもない。

井戸で水を汲むときや火を起こすとき、生活のあちこちで不便さを感じるものの、お金も地位もツテもないのに、前世の知恵を駆使して生活をより良くしようなんて出来るはずもなく。

それ以前に、世界に革命を起こそうなんて気概は私には湧かなかった。

前世の記憶のことはおくびにも出さず、暫くはわりかし平凡に暮らしていたのだ。


男のところに入浸り殆ど家に帰ってこなかった母と、その日の食べ物を自分で調達しなければならなかった生活を、平凡というかはさておいて。



そんな生活に一石を投じられたのは5歳のときだった。

これまで一度も母から口にされたこともなかったために、勝手に死んでいるのだろうと思っていた私の父親は、何処ぞの貴族であることを知ってしまったのだ。

病に臥した母親と呼ぶべき女が「あんたの父親はこの国の貴族よ。私に手を出しといて、屋敷から放り出した陸でもない男!」と恨みの籠った声で漏らしたのである。

周りはそれを死を前に気が触れたのだと相手にしなかったが、私は不安になった。

頭の片隅で違和感は感じていたのだ。創造神だか女神だか犯人は知らないが、果たして理由もなくわざわざ転生なんてさせるものなのか…?と。


これは陸でもない父親と共倒れの悪役ルートかと、当時私はもしもに備え、あれこれ考えを巡らせていた。

あぁ、本当に母親の妄言であったならどんなにいいか。

そうして「お前を産んだんだから、あの人は私を迎えに来てくれるはず!」と叫び狂ったように笑っていた翌朝、こときれていた女は、まわりの大人の手を借りて供用墓地に埋葬した。

悲しくはない。

私にとっての母親は、愛情深く育ててくれた前世の母だけだったから。


半分貴族の血が流れているかもしれないという疑惑が上ったところで、目立たずひっそり暮らせば何事もなく過ごせるのでは、と考えた私は、母の死後、孤児院にてシスターと私と同じく身寄りのない子供達と、協力して慎ましく暮らしていた。


しかしそれも、馬車に跳ねられた瀕死の子供を治したことで、魔力を保有していることが発覚するまでだった。

10歳になったばかりの頃だった。




ところで生前の私は、悪役令嬢に転生する小説をよく読んでいた。その中でお馴染みなのが「元平民の男爵令嬢」という設定のキャラである。つまりは乙女ゲームだの恋愛小説だののヒロインに位置する人物だ。

平民なのに魔力──しかも希少な癒しの力──を持ち、父親は実は貴族だった、なんてよくあるテンプレート設定。私は嫌な予感を拭えなかった。


「ヒロイン」が主人公ならば、別に問題はない。この先貴族に引き取られるだのして、入学した学園で見目麗しい男子たちに囲まれ、魔王の復活だの戦争だののに巻き込まれ、誰かと結ばれてハッピーエンド。まぁそんな展開は心の底から望んでいないので、そうならないよう動きたいものだが。

争い事は御免である。


それはさておき、問題なのは「悪役令嬢」が主人公の場合である。本来なら意地の悪い令嬢が、実は真っ当な人格者で。

見目麗しい高貴な生まれ。婚約者は王太子。物語のヒロインに怯えつつも、結末を言えばそのまま婚約者と、或いは颯爽と現れた力の強い他国の王族とゴールイン。

つまりマトモな感性を持ち、努力と成功を収めた女の子が勝ち残るのだ。

そしてこの場合のヒロインとは、前世の記憶によって自分は勝ち組だと驕り、「私が王妃になるんだからー!」と自爆するイタイ女である。

絶対になりたくない。絶対に。なりたくない。

なりたくないが、この世界の仕組みも分からない為、強制力やらが働くのかどうかも分からなかった。

あぁ、読んでいた小説の主人公のように、ここがどんな物語の世界なのか分かればいいのに。

前世の私は転生ものの小説は読んでいても、元ネタとなるような乙女ゲームなんかはしたことがなかった。


だから私は、父親のお迎えが来るまで、戦々恐々としていた。

来なければそれでいい。寧ろそれが一番いい。何事にも巻き込まれず、私は「前世の記憶と魔力があるちょっと変わったただの平民」のままで、平和で気楽な二度目の人生を終えられる。


しかしまぁ、それは楽観視し過ぎというものだろう。

父親のことを知った時も思ったが、そんな「ただの平民」が無意味に生まれるわけがない。

魔力持ちだったことが発覚してから、私は隠れるように過ごすのを辞めた。

どのみち魔力持ちがバレた時点で、平民としては生きていけないのだ。


さて、まずは迎えに来るお貴族様とやらが鍵だ。

良い貴族ならまだセーフ。私を出世の道具にするような貴族ならアウト。

いや、私が悪事をリークすれば巻き込まれ処刑は免れるか…?


前世で読んだ物語を思い返して、あらゆるパターンを想定して、抜け道を決めておかねばとあれこれ頭を悩ませていたが――……


結果は、どちらでも無かった。



魔力持ちが発覚して1年経つ頃、迎えに来た父親は成り上がりを目指す男爵ではなく、既に高貴な侯爵様だった。

しかも今代勇者を産出したという、知らぬ者はいない名家中の名家。

そんな父親を名乗る男は、爵位のわりに高圧的な態度ではなく―…かといって親身になることも無く、懇切丁寧に事情を話してくれた。母とのことも包み隠さず。


つまりは、私の母親と呼ぶべき女は侯爵家に仕えていたメイドで、まだ結婚もしていなかった長男様に媚薬を盛り、事に及び、勤め先―…お屋敷から、叩き出されたらしい。侯爵家の領地に近寄れなくなる呪縛をかけられて。


侯爵夫人の座でも狙っていたのだろう。証拠が突き出されるまで、酔った勢いで純潔を奪われたと嘆き悲しみ、責任を取らせようとしていた


……思うところはあるが、あの人の"私を捨てた"云々は、加害者側の逆恨みだったと判明したのでそこは安堵した。

父親と呼ぶべき侯爵様は理性を保てなかったことを悔やんでいたが、それは仕方ない。

聞けば酒も入っていたというし、作為的に増幅させられた性欲と、目の前の女の裸体を持て余しても仕方が無いと思う。

何より負けてもらわないと私は生まれてこなかったのだし、後悔されても私からはなんとも言いようがなかった。


まぁそれはさておいて。


ここでの問題は、狼藉者を追い出してはい終わり、とはいかなかったことだ。

その時の行為で女の腹に子が宿ってしまっていたのは、誰もが想定外のことであった。

何故10年以上も経ってそれが分かったのか。

それは、侯爵様が女性不信を克服して、一人の女性と結婚し、一人の子をもうけ──離縁したことから察せられる。


生まれた子──私の弟には、魔力が備わっていなかった。


長子相続。

この世界でも、長子が家の跡継ぎとされるのは義務である。

長男ではなく長子であるのは、血統云々の問題だけではないから。


その問題とは、この世界での魔力は長子から長子へ相続されるものだということ。


仕組みは分からないが、両親若しくは片親が魔力持ちの場合、その間に生まれる長子にのみ、魔力が受け継がれるらしい。


……魔力持ちが発覚して、私が色々と諦めてしまった理由を分かっていただけただろうか。


教会から国へ魔力持ちであることを伝えられてから約1年。どこの家の子かと騒がれ続けたものである。

このまま出自が分からなければ、次男三男の貴族夫婦に引き取られる話も出ていたくらいだ。


年々減り続ける魔力持ちの保護の意味も含めて、各国は当主若しくは家長に据えるのは魔力持ちの人間とすることを義務付けた。それが女であっても子供であっても須らく。

この世界での魔法は、魔力を精霊に与え、そのお返しとして力を貸してもらう形で発動する。

故に血の保護は最優先事項で行われることであり、その存在を脅かそうとした者は立場も関係なく―――例え王族だとしても、死刑に課せられるのだとか。


話は飛んだが、つまり長子を亡くすことはその家の魔力持ちを途絶えさせることになるのである。

こう聞くと存続させるのはハードすぎると思われるが、魔力持ちは身体が丈夫で寿命が長く、その減少傾向は極々ゆるやかなものらしい。

長子を家の長とし、その者を守護するのは国民の義務。

であるので、私の噂を聞きつけた国王が婚外子がいる可能性のある、長子が未婚の家や、まだ子がいないとされている家を中心に地道にこっそり捜査し――…可能性が低いとされ後回しにしていた栄光の侯爵家に到達して、迎えに来させたというのが一連の流れ。らしかった。


そう、侯爵家は、私の弟にあたる子に魔力がないことを、その時になってようやっと理解したのである。

いや、認めざるを得なかったと言うべきか。

幾度も妖精への呼び掛けを強要され、魔法が不発に終わる度に怒鳴られ鞭打たれた、とは後に幼い弟から聞いた話である。

祖父母は、あの時の使用人がと可能性が過ぎれど信じたく無かったのだろう。弟の魔力に問題があるだの、母親の不貞を疑ったりしたそうだ。

そしてそこに飛び込んできた私の情報である。

追い出した女そっくりの髪と顔立ちに、父侯爵そっくりの目の色に認めざるを得ず。その上国からの通達を無視することは叶わず、こうして迎えに来たようだった。


淡々と語られるこれまでの経緯に納得はする。

法で定められた通り、私を跡取りにという話も分かる──がしかし、だ。これは通常での話であり、例外があることは孤児院の子供でも知っていることだ。

私はその点が腑に落ちず、目の前の父親と呼ぶべき人に疑問を呈した。


侯爵様には高名な弟君がいる。

魔法が使える弟君が。

噂話ではあるが、その方にも子供がいるはずだ。

その子が跡を継ぐのでは駄目なのか。


この高名な弟君というのはつまり、勇者のことである。

侯爵家の出であり、精霊に愛された愛し子。

長子しか魔力は継がれないが、精霊に愛されれば魔力など不要。寧ろなんの対価もなく魔法を使いまくれる、所謂チートというやつだ。


そしてなんとこの勇者。魔王を屠ったあと、旅の仲間だった聖女やエルフの戦士を後目に精霊女王とゴールインしていたりする。


紛うことなき主人公。ハーレムの末に妖精界のトップと結婚とは。まぁ、妖精の上から下まで全てに愛されていれば、さもありなん、か。


この勇者伝説を知ったのは、私が6歳のときだ。知った時は乙女ゲームやら恋愛小説だのではなく、「チート主人公が無双する世界」の村人Aに転生したのではと希望を見出したが、冷静な頭の部分が直ぐに却下した。

何故なら勇者の旅は最終回を迎えている。しかも私が生まれる2年前にだ。

当の勇者と妖精女王の間に子が生まれているという話を聞いた際にも、やはりそうなのでは?!と村人A案を再考したが、その一家は表舞台から姿を消してしまったのだと周りの大人達に聞いてまた落胆した。

二人の子は妖精として、妖精界で育てることにしたのだと専らの噂だった。

けれどさすがに家族とは連絡を取りあっているだろうと思っていたが――……侯爵様の回答は否だった。


弟は10年以上帰ってこない、そうでなくとも家は長子が継ぐのが義務。

我が侯爵家の魔力持ちを途絶えさせてはならない云々。

硬い顔と声で言い募った侯爵様に、私は項垂れた。

これからのことを思うと気が遠くなる。

侯爵様の私を見るその目に嫌悪はなかったが、愛情の欠片も宿っていなかった。




拒否権などあるはずもない私は丸め込まれ、馬車に乗せられ屋敷の部屋に押し込められ、あらゆる教師から教養を叩き込まれて早数年。15歳になった、現在。

今年から始まる学園生活に鬱々としていた時だった。

勇者が妖精の世界から、奥方―…妖精女王と、娘を連れて戻ってきたとの報があったのは。


祖父母は喜び勇んで別邸から戻り、気合を入れて本邸の準備をしていた。

私のことも──弟のことも視界にすら入れず、空気のように扱うのは相変わらずのことだったので気にはならなかったがー…まさか出迎えにも、食事にも、私達を同席させなかったのには流石に困ってしまった。


だって父親が勇者、母親が妖精女王なんて、その時点で設定盛り沢山ではないか。

しかも娘?そこまで来たらもう、愛されヒロイン若しくは2代目チート主人公以外の何者でもないだろう。

妖精として生きるならその可能性も望み薄だと思っていたが、戻ってきたなら話は変わってくる。

タイミング的に学園に入学するつもりなのだろう。

やっぱり三角関係の泥沼恋愛物じゃなくてチート無双逆ハーレム物なのでは?!と一縷の希望を抱いたのだ。


とはいえ一応確認しないと安心出来ない。

そう思った私は身体強化の魔法を使って、止めようとする使用人たちを振り切り、ティータイムを楽しむ場に乱入した―――……のが、事の経緯である。


「突然の御無礼をお許しください。スイネアク侯爵家が長子、レイア・スイネアクと申します。」


叩き込まれた礼儀作法に則り、スカートをつまんでお辞儀をする。

名乗ったことで警戒が解けたのか、叔父夫婦の顔が幾分か緩んだ。

祖父母は逆に顔を歪ませているが。

たぶん私がスイネアクの名を名乗るのが気に食わないのだろう。

国からの通達がなければ、私を迎えに行こうともしなかった人たちだ。さもありなん。


「挨拶が遅れてすまないね、君の叔父にあたるヒスパーロという。こちらは妻のティターニア、そして娘のジュエリッタだ。」


端正な顔立ちの叔父

美を集結したような妖精女王

そして愛らしく、全てのパーツが完璧な従姉妹


その顔を順にしっかり眺めても、心が沸き立つことはなく、自分のものではない思考―…負の感情が巡るわけでもない。

つまり懸念していた強制力が、ない。


「ご挨拶出来て光栄です。ご歓談中失礼いたしました。かの有名な英雄様とその御家族をひと目でもお目にかかりたくて… どうかこの度のご無礼をお許しください。」


「い、いや…。君もこの家の一員なのだから、気にせずともいいよ。」


(やったわ!)と叫びそうになるのを堪えながら、寛大なお言葉ありがとうございます、それでは失礼致します、と叩き込まれた通りに挨拶をこなす。


一礼してその部屋を出れば、しかめた顔を隠しもしない執事やメイドに出迎えられる。

が、それを気に止めずさっさと部屋に戻りながら私はガッツポーズをきめた。


いやはや、一番可能性がないと諦めていたけれど。


(神様はどうやら本当に、気まぐれな方らしいわ。)


色々考えていたが、結局のところ私はヒロインでも、悪役令嬢でもない、「主人公の従姉妹」という位置付けの、ただのモブだったのだ。

この転生に、特別な意味などなかったのだ───!






『そんなわけないでしょ。』





───あれ、何処だここ。

私はついさっき自室のベットで、安堵とふかふかの布団に包まれて眠りについたはずなのに。


どこまでも真っ白な空間。

遠近の感覚も掴めず、目がチカチカする。

真っ暗闇も怖いけれど、白は白で発狂しそうだなと、気が遠くなりそうな頭で他人事のように思った。


『えぇ…僕の存在は無視?この空間が気になるのは分かるけどさ…』


一応僕神様なんだけど、と少しむくれている、その人――正しくは神様らしいが――に、さ迷わせていた目線を向けた。


『お、やっと目が合った。こうして話すのははじめましてだね。レイア。それとも別の世界での名前で呼んだ方がいいかな?』


「……いえ、レイアで構いません。前の私は、過去のものと思っています。」


『そう、それはなにより。これまでも慌てず騒がす堅実に行動してきたようだね。弟君ともいい意味で仲が良いようだ。君を選んで正解だったってことかな。』


「?、選んで?」


『うん。"本来"のレイアなら今頃、侯爵令嬢の地位を脅かす従姉妹に対して、良くない思考に囚われてるからね。でも君は特にそういったものは感じていない。そうだろう?』


「………。」


聞きたいのはそういうことでは無かったのだが、転生の理由は察することが出来たし、重要なことを知れた。


私が異世界に来たのは、偶然などではなく、神によって引き起こされたもの、ということ────。


「つまり貴方は―…この世界の神は、レイアの行末を変えたいということですか。レイアを破滅から助けるために、悪役令嬢物の様な物語の結末を変えるために、私をこの体に憑依…若しくは転生させた。そういうことですか?」


今の今まで私は転生者だと思っていたけれど、本来のレイアがいたのであれば話は変わってくる。

もしかしたら私の中に────


「本来の…本物のレイアは今どこに?」


『死んだよ。』


「え、」


『うん?死んだよ。でなきゃ君は今頃別人になって生まれ変わってるさ。』


死ん、だ…?

事も無げに返された言葉に混乱する。

いや、確かに私はレイアとして生まれた瞬間から「私」であったけれど。でも。


『死んで、還ったんだよ、元々のレイアは。』


ふぅ、と悩ましげに嘆息して、神とやらは指を2本立てた。


『君の質問に答えよう。1つ、君はレイアの身体に憑依しているわけじゃない。別の世界で死んで、この世界で生まれ変わっている。精神だけ乗り移ってる、なんてことは無いから安心して。』


立てた指を1本下ろす。


『2つ、僕は別にレイア個人を助けようとここまでしている訳じゃ無い。僕が回避したいのはこの世界の崩壊だよ、崩壊。国が滅ぶとかそんなレベルじゃない。星ごと木っ端微塵。それが嫌で、可能な範囲で時を戻してる。ループ、逆行、君がいた世界ではそう呼ばれてたんじゃないかな?』


「………ループ物は、多々、ありましたけど…」


『でしょう?けれど世の中そんなに甘くなくてね、ループといっても記憶を持ったまま何度も何度もやり直すことは出来ない。人間の魂は脆いからね。二度が限度なんだ。』


「…三度となるとどうなるんです?魂が壊れでもするんですか?」


『うん、その通り。普通魂というのは巡るものなんだ。生きて、死んで、一度リセットして、また生まれ変わる。普通はリセットした以上前世の記憶なんてない。人生は一度きりが基本だ。けれど神の特権によって、リセットする過程を省くことができる。それが2回目のレイアや、今のきみ。』


「…2回目のレイアは、何故…?」


一度目の記憶を持ってして、何故死ぬようなことになるのか。


『ん。あー…先々のことを知っていたせいか、それを利用して自分があの子の立ち位置になろうとしてね。失敗したみたいだ。』


「あの子……」


脳裏に浮かぶのは、あの可愛らしい天使のような、妖精であり人間である彼女。

そして先程の神様の言葉。


「……重要なのは、レイア自身はなく、レイアの立場…?世界の崩壊とやらにあの子が関わっていて、阻止出来る可能性が高いのが私、もといレイア、ということ…?」


『あぁ、話が早くて助かるなぁ。細かく言うと、僕が干渉出来るギリギリのラインにいるのがレイアだったってことなんだけどね。…それはさておいて、君にお願いしたいのはひとつだけ。』



『彼女と、魔力持ちを添い遂げさせるな。』



特にこの国の第一王子。あれは絶対に駄目だ。

この男と添い遂げた挙句に世界は崩壊したのだから。


別に愚を犯したわけじゃない。

良き王子と王子妃だった。聡明で優秀な王子と、妖精と人間のハーフである美しい王子妃は国民から愛されていた。けれどもふたりの間に子が生まれた数年後、国は、世界は滅んだ。



結婚して何の憂いもなくハッピーエンドなんてのは物語の中だけだ。

分かるかい?

ここは君が想像していたような、物語の世界じゃないんだよ。


シナリオなどない。決められたポジションもない。

ただ無条件に愛される少女と、愛されない少女がいて。

嫉妬と悪意によって、片方は破滅し、片方は愛を得た。

けれども得られた愛の対価は世界の終わりだった。


神様は、レイアは作られた悪役ではなく、生まれた環境によって必然的に生まれた悪役なのだと、そう宣った。

どこか辛そうなその表情に、ふざけるなど叫びたいのを唇を噛んで我慢する。


けれどその次の瞬間には、にぱっと顔を上げてこう宣った。


『じゃあ頼んだよ。大丈夫、僕が把握していることは教えてあげるよ。──あぁ、君は元のレイアのように愚かではないから処刑されることはないだろうけど、もしものときは、そうだな、僕の遣いの女神として召抱えてあげるよ。光栄だろ?』


ふふん、とドヤ顔している目の前の自称神様を胡乱な目で見遣る。



───こんなクソッタレな神様の世界なぞ、滅んでも問題ないだろうと思ったのはここだけの秘密だ。


なろう初投稿になります。

オリジナルは初挑戦だったので、至らない点も多々あったかと思います。

最後までお読みいただいた全ての方に感謝を。



追記

評価・誤字報告ありがとうございます!評価や報告がある=読んでくださった方がいらっしゃる?!ということに狂喜乱舞しております。有り難や…

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