カラスの女王 前編
マンションの前にゴミを出そうとすると、カラスが何羽も飛び立った。
ゴミボックスには網がかけてあるのだが、頭のいいカラスはその間をくぐり、生ごみを漁ってるようだ。
よく見ると網の所々が切れている。
鋭いクチバシで食いちぎっているのだろう。
部屋に戻ると、ドアチャイムが鳴った。
開けると、黒いワンピースを着て黒いマスクをした年齢不明の女性がいる。
「隣に越してきた加川かおりです」
と言って紙包みを差し出した。
ラベルを見ると、高級のカラスミだ。
「カラスミですね。長崎からいらしたんですか?」
加川かおりと名乗った女性はそれには応えず、じっとこちらを見た後、隣室へ帰って行く。
その夜、マンションの自治会の集まりがあった。
「このところ、カラスがゴミを漁って困るという苦情が出ています。毒の餌を撒こうかと思うのですが」
議長が言うと、自治会長が
「それはまずい。鳥獣保護管理法に引っ掛かりますよ」
「いや、毒餌をゴミに出したらカラスが勝手に食べて死んだことにするんですよ」
議長の言葉に会議は喧々囂々となる。
ふと見ると、管理事務所の外に人影があった。
暗い影に黒ずくめの服で目立たないが、あの加川かおりさんという女性だ。
つづく