第2話
――ことの起こりは去年の秋、町を襲った強盗団。煉獄団と名乗るそいつらは、奪うだけでは飽き足らず、町を根城と居座った。表向きは自警団、だが実態はダニの群れ。町の中から町の外から、金品作物かっさらい、時折り女も引っさらう。小さな町だ、保安官はいない。電信も汽車も通ってはおらず、駅馬車も立ち寄ることはない。銃と力で脅されて、誰も何も言えなかった。何もかもを取られても、誰も何も言えなかった。
そんな町だったから、ジョシュアは銃を欲しがった。クリスマスの願いはそれだった。町をどうにかできるとは思えなかったが、せめて妹を、ジュリエットを守りたかった。今は無事でもいつかは危ういと知っていた。
願って眠ったイヴの夜が過ぎ、クリスマスの朝。ジョシュアは銃声に目を覚ました。飛び起き、窓から外を見れば。怒号と銃声飛び交う中、町の男たちが猟銃を手に、強盗団へ襲いかかっていた。だが、ジョシュアが目を見開くその間に、弾けるような乾いた音がいくつも上がり。胸から頭から血を流し、男たちは倒れた。その中には父の姿もあった。
ジョシュアは口を開けていた。喉の奥から、絞め殺されるガチョウのような声がわずかに漏れた。そのままゆっくりとしゃがみ込み、窓から、外の光景から目を背けようとして。その前に見つけてしまった。動かなくなった父へと駆け寄る妹の姿を。
寝間着のままでジョシュアは駆けた。枕元で手に当たった、見知らぬ包みを半ば無意識に引っつかみながら。そうして、外へと裸足で飛び出したときには。下卑た笑みを浮かべる髭面の男が、妹に銃を突きつけていた。
ジョシュアは駆けた。間に合う距離ではないと知りながら駆けた。何もかもがゆっくりと感じられた、横たわる男たちの体を踏む生温かな柔らかい感触も、首を何度も横に振り、震えて後ずさる妹の動きも。銃を突きつける男が唇を吊り上げ、鼻筋から縫い傷の走る頬を歪ませて笑うのも。駆けながらジョシュアは感じた。自分の顔がゆっくりと歪む感触と。握り締めた、包みの中の硬い感触。思い出した、サンタクロースに願ったもの。
足を止め、包みを破り捨て、男へ向け。引き金を引いた。
男はわずかに目を見開いた、が。笑って銃を撃つ。妹の頭へ向けて。
その瞬間、感覚は元の速さに戻っていた。小さな妹の頭、その後ろから炒りトウモロコシのように弾けた、薄桃色の中身がジョシュアの顔へ散った。ジョシュアはそのままでいた。震えながら、痛いほどに引き金を引いたままでいた。サンタがよこした、木のおもちゃの銃を。男は縫い傷の走る頬を歪め、肩を震わせて笑った。遠ざかるその背を見つめながら、ジョシュアは未だ震えていた。――
ジョシュアは今、銃帯の後ろに手をやる。そこに手挟んでいたおもちゃの銃を取り、地面に叩きつけた。
「守れなかった。死んじまった、あいつは。こんなものっ、あんたがよこすから!」
サンタクロースは表情を変えず息を吸う。鼻から白く煙を吐いた。
「馬鹿が」
ジョシュアは顔を歪めてうつむいた。分かっている、分かっているそんなことは。今、本物の銃を手に入れたって――落馬でもしたのか、農作業へ行くときに見つけた流れ者の死体から拾った――奴らに向けることもできない。復讐が叶わないから、サンタクロースなんかに八つ当たりしている。本当に悪いのは――
サンタクロースはジョシュアの顔に唾を吐く。
「てめぇだ、ガキ。悪ぃのは全部よ」
「え……」
煙草臭い唾を拭うのも忘れ、ジョシュアは顔を上げた。
紫煙を吐き出し、サンタクロースは続ける。
「力のある奴が全部取る。力のねぇ奴が全部悪い。力がねぇなら泣き寝入れ」
ジョシュアはうつむき、それから顔を拭う。つぶやいた。
「そんな……そんなわけあるもんか、そんな道理が」
「それがこの国さ……少なくとも、昔俺が来た頃からな」
サンタクロースはジョシュアに目もくれず、懐から出した別の帳面に目を走らせる。黒い表紙の帳面。
「煉獄団、つったか? ご大層な名前だぜ、クソ笑かしてくれらぁ……と、なるほどな」
音を立てて帳面を閉じ、ジョシュアに目を向ける。
「偶然だな、ガキ。どうやらそいつらんとこは、俺の配達先らしい。居場所はそこの酒場、違いねぇか?」
ジョシュアは目を瞬かせ、ただうなずいた。
サンタクロースは馬に乗り、袋を肩にかつぐ。
「待って、配達って、何であいつらの……」
散弾銃が再び頭へ押しつけられる。
「ガキ。聖しこの夜に、子供がすべきことは何だ? 黙ってとっとと寝ることさ。覗き見ることじゃあねぇ、サンタの顔とか、父ちゃんと母ちゃんがベッドでナニやってっか、とかよ。でなきゃ死ね」
撃鉄が起こされる音が聞こえ、きりり、という震動が銃身から頭蓋骨に伝わる。喋ろうと開きかけていた口の動きをぴたりと止め、ジョシュアは再び手を上げた。
サンタクロースが白髭の伸びるあごをしゃくる。ジョシュアはその方向へ後ずさり、それから後ろも見ずに家へと駆けた。
音を立てて細巻を吐き捨て、サンタクロースはつぶやいた。
「さぁて、良い子のとこへ仕事に行っか。クソみてぇな聖しこの夜に」
馬が小さく駆け出して、鈴の音が清く響いた。




