ラーティス視点 会議
妄想の続きです。
『守護者』のキース様がユキリアの身体は油断しない限りもう大丈夫と仰っていたし、ユキリアもお腹すいた、お風呂に入りたいということだったので、専属メイドのエマにユキリアを任せ、僕たちはユキリアの部屋を後にした。
後は大人たちで話すから子供たちはもう休みなさいと部屋に促され、アリアとタクスは部屋に戻っていった。
僕も部屋に戻るように言われたけど、僕はユキリアを守る為にもその話し合いに参加したいと訴えて、参加させてもらうことにした。
僕たちは応接間に移動した。メンバーは、キース様、父上、母上、執事のセシル、そして僕だ。セシルがさっと紅茶を用意してくれる。
「さて、これからのことを話しましょうか」
キース様が率先して話し出してくれた。
「まず、私は子供の姿です。この姿ではできることが限られてしまいます。しかし、私はユキリア様のそばを離れる訳には行きません。ここに怪しまれずに馴染むにはどうしたらいいでしょうか?」
キース様の質問に父上はかなり難しそうな顔をする。
「…うーん。…私たちの子供とするにはちょっと無理そうですし、養子になるのも私たちには子供4人もいて、今さら養子をとるってなると体裁が悪くなりそうで、とても難しい難題ですね」
「私としてはここで雇って頂く形にするのが一番だと思っていたのですが、それも難しいですか?この世界では子供でも働いているはずですよね?」
キース様の言葉を聞いて皆がしばらく固まった。
キース様はどこで知識を入れてきたんだろう?自分の立場をわかっているのだろうか?神の使い様を雇えるのは神様ぐらいじゃないかな。確かに子供でも働いているところはあるけど、それは平民だけで貴族はなかなかないし。
「………神の使い様を働かせる訳にはいきません。それに子供で働いているのは平民たちだけです」
父上は突拍子もない話にも、なんとか冷静に返事を返していた。
「困りましたね。私としてはユキリア様の専属執事としてなら、いつでもそばにいてもおかしくないと考えたのですが…」
確かに執事としてなら、ずっとそばにいてもおかしくはない。貴族の子供に、話し相手として執事見習いをつけているとこもある。キース様は最初からそういうつもりで雇えと言っていたんだろうか?
僕は聞いてみることにした。
「キース様はユキリアの専属執事見習いとして雇えと言われているんでしょうか?」
「そう!それです!」
「………確かに、それなら子供の姿でもユキリアのそばにいて、違和感はないですが……」
父上はかなり難しい顔をしている。当たり前だ。どこの誰が、神の使い様を雇うなんて恐れ多いことができるだろうか。
「…それに確かに貴族の子供に専属執事見習いをつけることはありますが、その専属執事見習いというのはだいたいが自分たちの爵位より下級貴族の次男、三男を執事見習いとしてつけるものですので少し難しいかと…。キース様がどこの貴族出なのかと勘ぐられかねませんし…」
さっきまで大人しく聞いていた母上が一瞬、名案を思い付いたという顔をした。僕は嫌な予感がする。
「あら、それならセシルの養子ということはどうでしょう?セシルは元々王家で特別な執事ですし、この歳でまだ結婚もしていなくて跡取りがいないですわ」
「「「マリー!?(母上!?)(マーリア様!?)」」」
3人の声が重なった。
やっぱり嫌な感は当たった。さすが、元王家。肝がすわっている。僕はちょっと現実逃避してみた。セシルは父上と母上と同い年らしいから確か29歳だったかな。セシルの容姿はグレーに近い茶髪、アッシュブラウンの長い髪でその髪を後ろで一つに縛っている。いつも涼しげな顔つきで眼鏡がよく似合っているし、セシルもなかなか顔が整っている方だ。キース様を見ると、キース様は黒髪で目が金色だった。その瞳からは神の圧を感じるような気がする。顔は優しい感じの美少年だ。でも、どこか冷静で涼しげな顔つきは、セシルと似たものを感じるから、意外と遠い親戚から養子をとったと言っても通じるかもしれないなぁ。………さっき、母上はセシルのこと元々王家って言ってた気がするけど、気のせいかな?
「……マリー、何を言っているんだぃ?相手は神の使い様なんだよ?」
父上は動揺しすぎて、キース様の前で母上を愛称で呼んでしまっている。
「でも、ユキリアを守る為にもそれが一番良くなくて?わたくしはあの子が神様に言われた様に自由に伸び伸びしていてほしいのですわ」
「母君様の言う通りです!私は一応、神の使いではありますが、一番はユキリア様の守護者なのです。ユキリア様のお側にいられるなら何だってかまいません」
キース様も母上に便乗している。母上がこうなったら誰にも止められないから、もう決定したようなものだ。しかも、キース様まで乗り気だし。
父上はこっそりため息を吐いていた。
「…わかりました。キース様がそれでいいならそうしましょう」
「ランス!?」
「…セシル…諦めて、覚悟を決めろ…」
セシルは動揺しまくっている。父上のことを呼び捨てで、しかも愛称で呼んでしまっているぐらいだからね。この3人は学友だったと聞いているけど、セシルは執事として完璧だったから、こんなの初めて見たよ。
「そうと決まれば皆様はもう私に対して敬語は不要です。私のこともキースとお呼びください」
キース様は動揺する僕たちをそっちのけに満面の笑みだった。
「そんなことはでき…」
「どこの貴族が執事見習いに敬語を使うんです?」
父上のできないと言う言葉を言わせないようにキース様は言葉を被せてきた。
「あなた方貴族は執事見習いに様付けし、敬語で話していたらおかしいでしょう?従者方ならまだしも、執事のセシルも様付け、敬語は不要です。私もセシルのことは父上と呼ぶようにしますから」
キース様はこれで解決ですねと、にっこりとしている。セシルはもう開いた口が塞がっていない。
「…セシル…覚悟を決めよ…」
「…ランスもな…」
2人は慰め合うように見つめあっていた。
母上はそんな2人を放っておいて、それではと話し出した。
「ねぇ、キース。このことはユキリアの祖父にも伝えてもいいかしら?さすがにわたくしたちでも処理できないことがあるかもしれないから、味方につけたいわ」
母上はもうさっそく敬語をつかっていない。母上の心臓はどうなっているのか?王家の方が神の使いの尊さを勉強するはずなのに。
「かまいませんよ。ユキリア様の害にならないのなら別にどなたに話されても私はかまいません。ですが、ユキリア様には許可とってください。ユキリア様は繊細ですので勝手に話されると傷付いてしまうかもしれません」
ユキリアの祖父ってのはきっと母上のお父様、つまり先王のことだろう。確かに先王を味方につけるのは心強い。
「よかったわ。もうすぐユキリアとタクティスの4歳の誕生日だから、お祝いをしにやってくるはずですの。今年はせっかくだから、身内だけでパーティーしましょ!」
母上の提案に、セシルと慰めあいながら覚悟を決めていた父上が反応した。
「…それって、俺の父上も呼ぶのかな?」
「当たり前ですわ!ユキリアはどっちのお祖父様もお祖母様も大好きだし、どっちのお祖父様もお祖母様もユキリアのことを愛していますわ!それにあなたのお父様も公爵ですから味方につけておいて損はないですわ!」
父上は自分の父親なのにお祖父様のこと苦手だからね。
父上は誤魔化すように話を戻し、これからキース様の寝床はどうするのかを話し出した。いくら執事見習いとしていつでも側にいれるとしても、さすがに男の姿で寝室を共にするのはまずい。
キース様もそれは理解しているようで、ユキリア様の隣を自室として空けてほしいと言い出した。確かに執事が主の部屋の横に部屋を構えていることは一般的だ。
今のユキリアの部屋は両親の寝室の隣でユキリアの部屋の更に隣は専属メイド、エマの部屋になっていた。
母上はそれならユキリアの部屋の場所を代えましょと提案し、皆が承諾した。もちろん、ユキリアの許可をとってからにするつもりだ。キース様はその部屋のお引っ越しが終わるまでは空き部屋を利用するということになった。ユキリアの部屋には結界を張ってあるから少しなら大丈夫と妥協してくれたからだ。
この後もいろいろと話し合い、気がつけばもう朝になっていた。とりあえずはこの辺でと話し合いは終了した。
こうして、キース様あらためてキースはユキリアの専属執事見習いとして、いることになった。
僕もユキリアの為にキースを執事見習いとして見るように覚悟を決めた。
後からセシルのことを母上に聞いたらセシルは私のいとこになるのよって教えてくれた。母上の父の弟、先王の弟とメイドの間に出来た子だからセシルが気にして執事になったらしい。そして、先王の弟とそのメイドはセシルが幼い頃に亡くなられているそうで、それからはお祖父様はセシルのことも子供と思って接しているらしいけど、セシルは変なところが頑固で執事として貫いたから諦めて、母上の執事としたらしい。
誤字、脱字、読みにくいなどあったらすみません。