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『理なき世』に探偵は生きる  作者: 小 文具
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Page.2 爆煙は美女と電子の海を渡るか:前編

《前回までのあらすじ》

「理なき世 (ミストリア)」という星で探偵を営むヒトの男 キヅキ・センリと、住み込みバイトの少女 イチコは、ぼったくりの大家に家賃をふんだくられ、窮地に至っていた。

なんとか仕事を探そうとした時、センリの知り合い ガルバノート警部から、テレビ局で発生した爆破事件を解決して欲しいという電話が入った。

来月の生活費を稼ぐ為、センリとイチコは現場へと向かったが…

爆発の起きたテレビ局の待合室。

探偵達を待つガルバ警部は、捜査の疲れと1時間ほど待ちぼうけていたせいか、うつらうつらとうたた寝をしそうになっていた。


と、そこに。

バァン、と大きく音を立てながらドアが開き、2人の人間がなだれ込んできた。


「ハァッ、ハッ、ハッ!す、すいま、すいませっ」

「うわっ!?寝てない、寝てないよ!?ってなんだ、キヅキくん達かぁ。どうしたの?そんな息切らして」


扉の音で完全に目が覚めた警部は、廊下と部屋の狭間で崩れ落ちるように座り込んでいる2人に対して、心配そうに声をかける。


「キ、キヅキさん、ハァ、いくら、金欠だからって、この距離を、自転車は、ハァ、無理があるって、なんで、気づかな、かったんですか、ハァ、ハァ」

「すまん、つ、次から、電車代は、ケ、ケチらないと、約束しよう、ハァ、め、目眩が…」


どうやら2人はかなり長い距離を自転車で走ってきたらしく、捜査に入る前にノックアウト寸前という状態だった。


「えぇ!?晴天街からここまでチャリで!?無茶したねぇ〜、ボクが迎えに行った方が良かったかな?あ、今何か飲み物持ってくるから!その間にコレ、置いとくから読んどいてね!」


そう言って、警部は2人を跨いで部屋を出た。

2人はずるずる這いずってソファーに到達すると、警部から貰った資料に目を通した。


「えー、被害者ゴウタ・トリマキ、男性、クマ属ガルマン、年齢47、監督歴12年。過去に猥褻行為の前科アリ…うーっわ、最悪だなコイツ。同情の余地無しだな」

「え、キヅキさん他人の事言えます?」

「黙らっしゃい、オレは男女等しく他人に辛辣なだけなの。で、被害者は全身火傷で重体、事件現場の倉庫は爆発により半壊したと思われるが、現場には火薬等の爆発物が確認できなかった…ってわけか」


ペラペラと資料を捲り、内容を確認する2人。


「火を使わない爆破事件…そんなの、本当に出来るんです?やっぱり何かの間違いで、そういうなにがしがあったとかじゃないんですかね?」

「いや、火を使わない爆発自体はそこそこある。むしろ方法が固定される分、こっちの方が手口を特定しやすいんだよ」


センリは、幾つか例を挙げて説明する。いずれも、密閉した空間で特定の物質に刺激を加えると、膨張して破裂する、といった内容だった。


「だが、今回のは多分そういう類の爆発じゃない。今言ったやつは爆発ってか、どっちかと言うと破裂だ。小さいと言ってもそこそこの広さの倉庫でやるには難しいし、何より半壊じゃなくて全部吹き飛ぶはずだからな」

「な、なるほど…?」


いまいちピンと来ていない表情で納得するイチコに、センリは絶対理解ってないだろという目で睨む。

そうしている間に、再び待合室の扉が開いた。


「いや〜おまたせおまたせ!お茶で良かったかな?あ、事件の方はどう?なんか理解りそうかな?」

「ありがとうございます、ガルバさん。そうですね、現場を確認しないと確信は持てませんが、なんとなくは掴めたってとこですかね」


受け取ったペットボトルのお茶を飲みながらそう答えるセンリ。それを聞いた警部は笑顔になり、ガルマンの剛腕で探偵の華奢な背中をバンバン叩く。


「ホントかい!?うわぁ〜流石センリくんだよぉ!やっぱ探偵はすごいなぁ!もうウチの事件全部任せちゃおっかなぁ!アッハハハハハ!!!」

「あ゛っ、あの゛っ、そうする前に゛っ、オレが死ぬ゛っ」

「え?あぁっ!申し訳ない!」


待合室が事件現場になりそうな一幕があったところで、警部は新たな話題を提示した。


「それはそうと、今回の依頼人も呼んできたんだよね。ちょっとお話してもらってもいいかな?」

「え、ガルバさんじゃないんですか?」


イチコがそういうのも無理はなく、警部が話を持ち掛けた時は、大抵警部が依頼人だったからである。が、今回はどうやら違うらしい。


「そうなんだよ〜。その子、第1発見者というか、爆破した時丁度そこに居たとかで凄い疑われてるから、じゃあ探偵呼んでみよっかって流れになってね」

「ほぉー、まあテレビ局の人間は、不祥事なんかは特にタブーだからな。ま、金払ってくれりゃあ誰だろうとお客様だ。色々聞けるだろうし、いいですよ。連れて来て下さい」


そう警部に促すと、警部はドアに向かって声をかける。


「おーい!レルヴェスさーん!入ってきてもらえますかー!」

「!? れ、レルヴェス!?レルヴェスって、あのレルヴェス!?!?」


警部が叫んだその名前に、イチコが異常な反応を見せる。


「あ?どうしたイチコ」

「レルヴェスって言ったら、今巷で超話題の若手女優ですよ!絶世の美女ってくらいのドラゴン属のガルマンで、ドラマにバラエティーにコスメのCMで引っ張りダコの!逆に知らないんですか!?」

「いや知らん、知識の守備範囲外だし…」

「ウソッ、ナマのレルヴェス!?ああダメっ、生きてるナマモノに会っちゃうともうテレビじゃ満足出来なくなっちゃうかもしれない!待って、心の準備が!!!」


興奮したイチコの叫びは届かず、ドアが開き1人の女性が入ってくる。

その姿を見た瞬間、イチコは甲高い歓声を上げた。


真紅に輝く鱗に、翡翠を連想させる緑の瞳。

並々ならぬ努力で維持していると思われるプロポーションに、地毛かウィッグか、金色の髪が大人の色香を漂わせる。

光を反射する黒い2本の角も、後方でうねる長い尻尾も、全てが彼女の魅力であると感じさせる。

言葉を発せずとも伝わる程自信に満ちたオーラに、大して詳しくないセンリでも一時意識を奪われていた。


ハッとしたセンリは、すぐに挨拶を交わした。


「ど、どうも!探偵やってます、キヅキ・センリです!」


その挨拶に対して、彼女が返した言葉は。


「ち〜っす!イマをトキメく若手女優、レルヴェスちゃんで〜っす!れるれるって呼んでちょ!ちなコレ芸名!ウチ本名マジイモくてさぁ、ハデめな方がみんなテンアゲってゆーか?まそんな感じで、ヨロまる!」


ナウなヤングだった。

あまりのギャップにセンリは硬直し、警部はそうなるよねという顔をして頷く。バッとイチコの顔を見ると、変わらず彼女に憧れの眼差しを向けているに驚く。


「おいイチコ!テレビで見た時とキャラが全然違うぞ!?もっとこう、落ち着いた感じだったよな!?」

「うわセンリさん、ドラマと役者を結び付けるタイプですか?フィクションと現実は違いますよ〜、それくらい『常識』ですよ?」


イチコに「常識」で嘲笑され、センリは歯軋りする。そんな彼をさておいて、イチコはどこから出したか、色紙とペンを持ってレルヴェスに歩み寄り、緊張した声で話しかける。


「あ、アタシ!この人の助手の、イチコって言います!あの、すごいファンです!さ、サイン貰っても良いですかッ!?」

「ウッソマジ?チョー嬉しー!ウチ、ウチの事好きな子めっちゃ好きぴ!サインオッケー!あでも、ウチ指切っちゃったナウだからちょっちグシャッちゃうかもだけど、おけまる?」

「あ゛っ!全然!ノー問題ですっ!いやっっったーーー!!!レルヴェスのサインだーーーーー!!!」


最早目的を忘れてはしゃいでいるイチコを見て、自分がしっかりしなければと強く思うセンリ。色紙を持って飛び跳ねるイチコをどかし、依頼人に確認を取る。


「とにかく、正式に依頼契約する前に一応確認しますが、本当に貴方は犯人ではない、と誓えますか?」

「たりめーじゃんセっちん!ゴッドに誓ってやってねーから!つーかタメでいいよ、セっちんの方が歳上だし」

「…ま、わかった。これ契約書なんで、サインを頼む」


秒であだ名を付け、サラッと過激な発言をしたが、今回の件は濡れ衣であると主張するレルヴェスを信じ、センリは彼女と契約手続きを行った。


正式に契約を受けた探偵達は、事件捜索に現場へと足を運ぶ。その道中、センリはレルヴェスに対して質問を投げる。


「まず、事件があった時、何をしていたかを教えてくれないか?第1発見者、なんだろ?」


「それな、ウチ昼休みに用事あってぇ、プチお暇してたんけどね、帰ってきた時にダッシュのゴックマにマジタックルされてさぁ」

「そんでウチにワビも無しにトンズラするから、ちょ待てしってんで追っかけたら、倉庫にインしたゴックマがドーン!ってなワケでぇ」

「したら警備の人とかドカドカ来て、ウチのことごっつ現行犯ってディスり散らかすから、えチョー失礼くね?探偵呼べやーってなったんよ、もうマジ萎えなんけどウチ!」


イマドキの女子の口から滝のように溢れる単語量に脳が追いつかず、センリは一旦思考を停止する。


「すまんイチコ、翻訳頼む」

「えーっと、お昼休みに外出して帰ってきたら、走ってきた被害者にぶつかって、お詫びも言わず走っていくから追いかけてみると、行き先の倉庫が爆発して、居合わせたレルヴェスさんが疑われてる、ってとこですかね」

「成程、現代女子の語彙は凄まじいな」


なんとか話の概要を掴み、次の質問へと移る。


「って事は、爆発の瞬間を見たんだよな?ケガとかしてないのかアンタ?」

「あーウチそういうのヘーキだし。ポシャった服もお忍び用のイモいヤツだから、カバンとかも持ってないし」


ヒトに比べて強靭な肉体のガルマンの中でも、ドラゴン属は特に外部の衝撃に強い耐性を持つ。倉庫の外だったとは言え、もし他の人間だったら無事では済まなかったであろう。


「じゃあ、爆発の瞬間も目撃してた筈だよな。具体的に、どんな感じだった?」

「えー?確かぁ、ゴックマがドア開けっぱで倉庫入った後に、白い煙?みたいなんが出てさぁ、なんこれキモって思ってたらドーン!ってなって、ドアんトコからファイアーゴックマ飛んできてクソワロって感じ。あれマジでバカウケだったわ、ウチ的に『世界』イケるレベル」


笑いながら説明する彼女の話から、センリは何かを察し、口に出す。


「そうか。つまりその指のケガは、火達磨の監督を消火する時に使った魔法で、ってとこか?」

「え?ウッソマジ!?これから話そうとしてたんに!セっちんヤッバ!マジ探偵じゃん!そーよ、ウチわざわざ火ぃ消してめっちゃエラいんに、みーんなウチが犯人とか、オニじゃね!?」


ガルア由来の「魔法」は、使用者の血液を媒体とする。

つまり魔法を使用する場合、予め血液を抽出して保管したものを使う、「魔石」という決まった魔法の入った乾電池の様なものを使う、身体の一部を自傷して使う、の何れかになる。


「絆創膏にまだ赤い血が滲んでるし、カバンは持ってなかったって言ってたしな。その服じゃあ魔法用の血液も魔石も入る余地がないし、だいたいの予測はつく」

「凄いなぁ!ボク、ケガの理由なんて考えもしてなかったよ。う〜ん、やっぱりボク、警部向いてないのかなぁ」


警部は少し落ち込んだ雰囲気を出すが、センリはすぐさまそんな事ないと言い、こう続ける。


「こういう考え事は、ガルマンよりヒトが向いてるってだけですよ。お互い、出来る事と出来ない事がある。オレに出来なくてガルバさんに出来る事、いつもいっぱいしてもらってますしね」

「セ、センリく〜〜〜ん!!!キミはなんて優しいんだぁ〜〜〜〜〜っ!!!!!」


警部は感動のあまり背後から抱きつき、捕縛対象は235cmの巨人に押し潰され、悲鳴を挙げた。


そんなこんなをしている内に、現場の倉庫へと到着した。

手前にはひしゃげたドアや小物が飛び散り、倉庫内の奥の壁は爆発によって穴が開き、吹き抜けになっている。

現場を警備している警官に事情を話すと、センリは倉庫内を調べる。が、そう時間が経たないうちに、確信したような口調で話し始めた。


「やっぱりな。床に散ってる粉、細めのヒモ、そんで裂けてるデカい袋。間違いねぇな、これは明らかに被害者を狙った、計画的犯行だ。この床に散ってる粉に引火させて、倉庫を爆破したんだ」


その発言に警部やイチコ、その場にいた全員が驚く。

センリと一緒に中を見ていたイチコが、その場にいる全員の疑問を代弁する。


「ち、ちょっと待ってくださいセンリさん!引火って、火をつけるモノがないって話だったんじゃ!?」

「確かに、直接火を出すような道具はここにない。けど、火を作るには十分すぎる道具があるんだよ」


そう言ってセンリが指差した先には、使用済みの雷の魔石が乗った、黒く焼け焦げた電子レンジがあった。


「あのレンジ、内側までしっかり焦げてるだろ?ただ爆発に巻き込まれただけなら、焦げるのは外側だけの筈。つまり、発火の元はあのレンジってことだ」


言われてみれば、という顔で納得するイチコ。

どうやらセンリは、爆破の手口を殆ど推測できたらしい。


「手口はもう理解った。後は()()()()()()()()()()、だな」


Page.2 「爆煙は美女と電子の海を渡るか:前編」


つづく

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

(しょう) 文具(ぶんぐ)です。

最後の最後でギリギリ現場に触れました。電子レンジ、白い粉。爆発と言えば、なアイテムですが、2つ同時に使うのは何故なのか、という感じですね。勿論、手口だけで謎は終わりません。どうやって用意したか、も大事なので、そこもしっかり書きたいと思います。

次回はセンリが爆発の手口を語り、容疑者を探し出す所からです。人物が多くなってしまうので、多分中編になってしまうかなぁ、と思います。

それでは、次回もよろしくお願いします。

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