Page.11 拳に滴る鉄血は淡い純情を引き寄せるか:前編
《前回までのあらすじ》
黒服の隊長、キラーペイン・バグイーターの凶弾に倒れたセンリ。目的の魔獣を回収し、部下にパワハラをしている所に、通信機を奪い作戦を盗み聞きしていたガリウス警部と、既に警部に救出されていたイチコが飛んでくる。
襲いかかる黒服達を薙ぎ倒し、過去の出来事から警部を怨んでいたバグイーターの八つ当たりを聞くと、警部は満足するまで殺していいと彼に攻撃のチャンスを与える。
銃撃と爆破で警部を殺したと確信したバグイーターは、まるで何事も無かったかのように目の前に立ち塞がった警部の左アッパーを喰らい、再起不能に。
胸を弾丸に貫かれ、死んだかと思われたセンリは、胸元にしまっていたリーヴぺガスの角が弾丸を遮っていたので、無事に復活。
その後、探偵事務所のペットとして飼う事になった脱走個体のリーヴぺガスに「ペルラ」という名前が付けられ、事務所はまた一段と賑やかさを増したのだった。
チキュウとガルア、2つの星が融合した未知の惑星、『理なき世 (ミストリア)』。
アルジア大陸のニホン国にある街、晴天街。
街の木々は足元に枯葉を積もらせ、肌寒い風が駆け抜ける。
街を歩く人々はマフラーや手袋で身を包み、冬の到来を思わせる中、赤レンガ荘2階、キヅキ探偵事務所の様子は。
『しっかりしろ!99!どうして、どうしてオレを庇ったんだ!』
『良いんです。最初から、私の運命は決まっていた…破滅の未来から来た、私が存在する限り、この時空は必ず、破滅の未来へとッ、繋がってしまう。だから…』
『そんな、ッ!!お前、身体が消えて…!』
『この「タイムウェイバー」はッ、運命を変える、唯一の手段!先代様に、託します!私が、ボク達が救えなかった世界を、どうか…!』
『コレを渡す為に、最初から死ぬつもりで、未来から…!?そんなっ、クソッ!クソォォォーーーッ!』
『お願いします、曾祖父様。護って下さい、貴方達の、未来、を―――』
『キュータローーーーーーーッ!!!!!』
「うおあぁぁぁぁーーーーーん!!!キュータローーーーーッ!!!」
褞袍に身を包んでテレビを観ていたイチコは、銀色の戦士が消滅したシーンで大号泣していた。
前こ事件でペットになった魔獣・ペルラを膝に抱えて横で観ていたセンリは、番組後半から撫での手が止まっていた。
「は、話がエグすぎないかコレ…!?次の日のガキンチョ達、どんな顔して学校行けば良いんだよ…」
「じ、自分を犠牲にして、別の未来を…!最初はギャグ寄りだったのに、こんなクソ重い展開ッ!クソーッ!許せねぇーっ!滅暴大帝エグゾスモーカー!あと脚本家ーーーッ!!!」
番組の展開には勿論、凄まじい勢いでティッシュを消費するイチコにも若干ドン引きするセンリだったが、本編との温度差が激しいエンディングの愉快なダンス曲に合わせ、大きな欠伸をする。
「あー、しっかし暇だ。外はクソ寒いし、寒いから誰も出歩かない、出歩かないと事件が減る、事件が減ると懐が寒い。不謹慎極まりないが、誰かがなんかやらかしてくんねーとそろそろヤバい、家賃払えなくて追い出されたら凍え死ぬぞ」
センリの口から経営難発言が出たので、ギョッとするイチコ。
「えっ!?もうお金無いんですか!?ココ最近色々やって、結構稼いでましたよね!?」
その質問に対し、センリは膝の上の生物をつんつん指差すことで返答する。
「ペルラが来てから、諸々の消費がマッハなんだよ。トイレの替え、餌の補充、ワクチンの投与、うんとかかんとか。それでかなり持ってかれてんの、今。まあ、入院費とかコートの修理とかもあっけど」
「ふにゅっ」
顎下を持ち上げられ、ぶにゅっとした顔になるペルラ。
センリはペルラの顔をぐりぐりとこねくり回しながら、低い気温で白く見える深い溜息を吐く。
「あーあ、内職しねーとかなぁ、これは。それかババアに交渉、は無理だな。あーーーっ、仕事が歩いてドアから入ってきてくんねーかなぁー」
そう嘆いて、床に寝転がった、その時。
ベギャァアン!
聞いた事の無いタイプの擬音が、事務所の入口から聞こえてきた。部屋着だった探偵達はそれなりの格好に早着替えすると、急いで玄関先へと向かう。
そこには、玄関前で話し合っている2人のガルマンが居た。
「ちっ、違うんだ!あの、官舎のドアと勝手が違くて、そう!このドアが脆いのが悪い!ワタシは普通に開けようとしたんだ!ホントだぞ!」
「あのっスねぇ〜、そんな言い訳通じないッスよ、フツー。隊長は頭も力もバカなんスから、他所のモノに触れないで欲しいんスけど。弁償の手続きとか始末書とか書くの、オレなんスからね」
「ば、バカって言うなーッ!バカって言う方がバカなんだぞこのバカモノーッ!」
仄かに青みがかった白い体毛に、背中を覆う、透き通るように輝く美しい銀髪。貫く様にピンと尖った耳と、靱やかで、それでいて柔らかな印象を与える長い尻尾。身長は180cm程で、そして、イチコが初見で顰めっ面になる程の、恐らくGかH程の豊満な胸を持つ、凛々しい顔立ちのオオカミ属らしき女性のガルマンが1人。
赤寄りの茶色をベースに、身体の節々に走る黒色のライン。掌の指に該当する部分は、その周辺のみが白い羽根になっている。開かず真っ直ぐに纏まった尾羽は、手と同様に先端の数枚だけ白い。半開きで気だるそうな雰囲気の目元には、不思議な模様がペイントされている。身長は175cm前後、黒いハンチング帽の下から黄色の嘴を覗かせる、タカやワシを彷彿とさせるトリ属の男性ガルマンが1人。
「あ、あの〜、どちら様で、何用なんでしょうか?」
ドアが抜けた玄関の壁から、そろりと顔だけ出してセンリが尋ねる。
声に気づいたガルマン2人組、トリの方がオオカミの頭をガシッと掴むと、ペコペコする様に上下に動かす。
「や〜、すんませんっス。依頼の相談に来たんスけど、ウチの隊長バカなんで、ドア壊しちゃったんスよ。ホンットすんません、ウチで弁償するんでホラ、この通りっス」
「スイマセン!ゴメンナサイ!スイマセン!ゴメンナサイ!」
コントの様な謝罪を見て、更に警戒心が強くなる探偵達。
しかし、外から入り込む冷たい風に耐えきれなかったので、取り敢えず客間に上がるよう促した。
段ボールのドアで玄関の応急処置をし、4人分のお茶と、何故か1本のストローをお盆に乗せると、イチコと客人の待つ客間へと足を運ぶ。
「どうぞ、ヤマーテ村の旨いヤツです。外は寒かったでしょうし、まあ良ければどうぞ。あ、ストローどうぞ」
「プッ!ブッハハハハ!!!さっすが探偵さんっス!そうなんスよ、ウチの隊長コップも割っちゃうからマイストロー持ってゴフッ!」
ドアを破壊したと思われるオオカミの彼女に対しストローを差し出すと、それを見たトリの彼はゲラゲラと笑い転げ、横からゲンコツを食らってテーブルに頭をぶつける。
「切実な悩みをゲラゲラと…あ!お気になさらず!彼の帽子、耐衝撃機能付きなので!オホホホホ!」
「痛っ、ててて、ハァ…対隊長専用防御装置って大層な名前でこれとか、不良品っスよ、技術班…」
地獄の様なやり取りから早く逃れたいと思ったのか、パンと手を叩き、センリは急いで面談を始める。
「ハイ!お2人のお名前と職業、お願いします!」
すると、オオカミの彼女から先程までの緩い雰囲気が消え去る。素早く立ち上がり胸に拳を当て、部屋中に響き渡る声で名乗る。
「ハッ!本官は、アルジア大陸警察所属、特殊戦闘部隊『HAND's』の隊長、ミルキィローズ・スノウホワイトでありますッ!どうぞ遠慮無く、『ローズ』とお呼び下さいッ!」
アルジア大陸警察、特殊戦闘部隊。センリの知り合い、ガルバノート・ガリウス警部も、嘗てココに所属していたという、警官からは憧れの目を向けられる部隊だ。
残念美人から歴戦の戦士へと瞬時に切り替わる様を見たセンリは、着崩してはいるが彼女と同じ隊服を着た、トリの彼に視線を移す。
「ん?あ、オレっスか?いやいや、こんなのやんないっスからね。えー、同じく特殊戦闘部隊所属の、ガンズアイ・ナハトムジークっス。一応、副隊長っス。ま、歳上に名前でタメはキツいと思うっスから、『ナハト』でいいっスよ。あと、先祖は鷲っス」
ナハトと名乗った彼は、先程迄と同じ様に、気だるげなテンションで自己紹介をした。
2人の身分を確認すると、続けて要件を聞こうとした、のだが。
「ガンズ!挨拶ぐらい真面目にやれと来る前言ったろ!しかも何故苗字なんだ!?上司に合わせて名前だろ、ソコは!」
「真面目じゃないのは隊長っスよ、なんスか、『HAND's』って?オレ、そんな名前の組織知らないんスけど」
「こ、こないだ説明したじゃないか!特殊戦闘部隊って長いから、別の呼び方考えようってなって、ワタシの提案した『HAND's』で全員賛成の可決だったじゃないか!」
「元々賛成1票だったのに腕力で脅した採決とか、普通無効っスよ。『Hyper Assault Noble Defender's』で『HAND's』って、意味わかんないっス。しかも略称が『手』って、戦闘部隊となんか関係あるんスか?」
「あ゛あ゛あ゛!!!人前で説明すなぁぁぁ!何が、何がダメなんだ!?『HAND's』の何がダメなんだよぉーッ!?」
「その中学2年生から全然成長してない語彙とセンスっだだだだだ!!!折れる!オレ、折れるーーーッ!!!」
警察の中でも選りすぐりの戦闘のエリートが集う、筈の、特殊戦闘部隊の隊長と副隊長が勝手にコントを始めるので、話がズルズルと脱線してしまう。
男女がイチャイチャしている様を見るのが得意ではないセンリは、机をバンバン叩いて中断させる。
「だーーーっ!夫婦漫才師かアンタらは!?ハンズだかなんだかはどーでもいーから!とっとと要件を話しなさいよ!」
怒鳴られてシュンとしてましったローズに代わり、折れかけた腕を抑えながらナハトが説明を始める。
「あだだ、や、すんませんっスホント。あの、『最強怪人ファイターキング』って噂、聞いた事あるっスか?」
何それ、という顔のセンリに対し、暇を持て余してうたた寝をしていたイチコが、急に目を覚まし反応する。
「あ!アタシ、それ知ってます!アレですよね、道行く人に勝負を挑んでは、敗かした人から身ぐるみ全部剥いで持ってっちゃうっていう、あの!」
「そう、それっス。ソイツは怪談でも与太話でも無い、実際に生きてる人間っス。通行人を突然ボコボコにしてパンツ一丁残して持ち去る、ヤバめのカツアゲ野郎なんス」
鞄から取り出した資料を捲りながら、ナハトはこう続けた。
「被害者数、報告があるだけでも52名。パンツ一丁になった男達が、各地の交番に泣きつく事件が大量発生したっス。当然、そんなヤツを野放しにしとけないっスから、オレ達戦闘部隊はソイツの場所を突き止めて、拘束しようとしたっス」
そこまで聞いたセンリは、彼の最後の発言を確認する。
「ち、ちょっと待て!拘束、しようとした!?それって、まさか!?」
「そのまさかだ。別件でその場に居なかったワタシとガンズ以外、全員ソイツにやられた。全滅だ」
探偵の問いに、俯いたローズが答える。
悔しさを噛み締めた表情で、当時の状況を語る。
「負けた隊員達は決して弱くない、寧ろ、大陸の中でも有数の精鋭だ。それが、たった1人に手も足も出なかった。信じて送り出した隊員が、帰ってきたら全員パンツ一丁だった」
「ブフッ!」
ついその光景を想像して吹き出してしまったイチコに、センリのチョップとペルラのネコパンチが入る。
「強すぎて捕まえられない。こんな事、初めてっス。オレと隊長がしくじれば、ヤツを止める人間は、この大陸に居ないという事になるっス」
そう呟くと、ナハトは改めて探偵達に向かい合い、椅子から立ち上がって頭を下げる。
「お願いっス、探偵さん。ヤツを逮捕するには、ヤツを倒さなきゃならないっス!アンタの知恵で、オレ達を勝利に導いて欲しいっス!」
依頼の内容を理解し、契約書を取りに立ち上がろうとするセンリ。だが、途中でピタッと動きが止まり、頭に過った疑問を口に出す。
「ん?そういえば、ガルバさんはどうなんだ?焦らなくても、ガルバさんが退院するのを待ってから挑んだ方が堅実じゃないか?」
ガリウス警部は数ヶ月前の事件でかなりの無茶をし、現在も入院生活を送っている。
が、彼は何発も弾を受け、直後に爆発を受けても生きている程のタフネス、一撃で骨を砕く程の剛腕、瞬く間に照準を定め的確に狙撃する射撃スキルを併せ持つ。
センリの中では、正に最強の名を冠するに相応しい男であると思っているので、彼の力を借りるべきだと考えた。
しかし。
その名前が耳に入った瞬間、ローズは机に拳を突き立て、否定の意を示す。
突然、机が真っ二つになったので驚愕する探偵達をよそに、拳を堅く握り締めたまま、絞り出すように唸る。
「彼には、頼れない。あの人はもう、隊の人間じゃないんだ。黙って出ていったあの人を、巻き込む事は出来ない…」
項垂れたままのローズを横目に、バラバラになった机の破片を集めるナハトは、探偵達に謝罪する。
「正直、オレは頼った方が良いと思うんスけどね。ま、この机みたくなりたかないっスから。すんません、これも弁償するっス」
思いつきの一言で事務所の備品が破壊され、複雑な顔をするセンリだったが、頭をガシガシと掻いた後、デスクから取り出した契約書を2人の前に突きつける。
「ったく、仕方ねぇな!無理なら無理で、どうにかするだけだ。ガルバさんの完治まで待ってて被害が増えちゃ、元も子も無いしな。理解った!俺がアンタらを勝たせてやる!但し!報酬はガッツリ貰うからな!でっかく見積って、300万!ドアと机は別腹だ!」
探偵の了承で、途端にパァッと明るい表情になるローズ。
「ほ、本当か!?ああ、約束しよう!勝利した暁には、キミの事務所に新たなドアと机を進呈する!共にこの街の、いや、このアルジア大陸の平和を脅かす悪党を打ち倒し、我々の手で平和を掴み取ろうじゃないか!」
彼女は、ナハトが依頼書を受け取って空になったセンリの右手を、ガッシリと強く掴んで握手をする。
そう、強く、ガッシリと。
「痛ッッッッッ!!!でェェェーーーーーッ!!!!!」
Page.11 「拳に滴る鉄血は淡い純情を引き寄せるか:前編」
つづく
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
小 文具です。
捕まえたって構わねぇぜ!倒せるモンならなぁ!
という事で、「強すぎて捕まえられないカツアゲ犯の攻略を手伝って欲しい」という、なんともこう、よく判らん感じの依頼が来ました。大丈夫かコレ…?バトル小説やんけ…まあいいか(天下無双)
新キャラ、ドポンコツ剛腕厨二美人巨乳オオカミおねえさんと、後輩語尾帽子半目ダウナー系ワシおにいさんです。性癖発表会?
ナハトムジークって苗字の切り取るとこ「ジーク」じゃなくて「ナハト」なんだ…という感じですが、多分ジークなんて名前の人は後から出てきそうなんで、名前被り対策でもあります。
が、よく見てください。ナハト、ナ ハト、名、「ハト」…なんだこれは、たまげたなぁ…彼の正体が確定的に明らかになってしまいました。彼の真名はハトだったのです。なわけあるかい
ナハトとはドイツ語で「夜」だそうです。ナハトムジークはミュージックと合わせた造語だそうで。また賢くなってしまった…
HAND's(仮)の2人は、話が続けば準レギュくらいに出てくるんじゃないでしょうか。続けばですけど…
ちなみに、冒頭の特撮シーンは前回出てきた人が消滅してますが、何ヶ月か経ってるので、前回のとこから10話ぐらいかけて今回のシーンに繋がります。描写的にめんどくさいので赤と銀(と敵ボス)のセリフしか書いてませんが、こっちはこっちで色々設定があります。なんなら主題歌も作詞してます。世に出ることは、多分無いです。
次回はカツアゲ犯と対決!タイマンでやりあうダリアさんがやられる前に、3人(と1匹)はカツアゲ犯攻略の糸口が掴めるのか!?ガルバさん、前のエピソードも途中まで居なかったけど、今回も良いトコかっさらっちゃうのか!?決闘開始ィーーーーーーッ!!!(磯野)
それでは、次回もよろしくお願い致します。
あと、前回出てきたバグイーターさんもHAND's(仮)出身でダリアさんとも面識ありますが(ナハトは追放後に入隊したので知らない)、今回の話では多分ノータッチです。安らかに…




