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“雨降って地固まる”理論

 (2019年10月現在)

 このところ、日韓関係がかなり危うい。

 戦時中、募集や徴用で日本企業よって奴隷のように働かされたと訴える労働者達に対する損害賠償問題…… いわゆる徴用工問題が直接の切っ掛けとなって、日韓関係が急速に悪化してしまったのだ(ま、それ以前から、対立を煽るような事件は何度も起こっているのだけど)。

 ニュースやなんかで散々取り上げられてきた問題だから、知っている人の方が多いと思うけど、一応は説明しておく。

 日本はこの問題は、“日韓請求権協定”によって解決済みだとしている。まぁ、平たく言っちゃえば、「既に金は韓国に払ったよ」と言っているのだ。

 だから、韓国人達がこの損害賠償を請求するのなら、それを支払わなくてはいけないのは韓国政府であるはずだ、と。

 ところが、韓国の文政権はこの主張をほとんど無視しているのだった。そして、なんらアクションを起こそうとしない。

 それで日本は「ふざけるな!」とばかりに、韓国に対して輸出規制という報復措置に出たのだった(“報復”とは言っていないけど)。

 実は日本と同じ様に韓国政府に問題があると考えている人は、韓国にもたくさんいるらしく、実際に何千人という規模の韓国人達が、韓国の文政権相手に訴訟を起こしたこともあったらしい……

 

 僕は韓国についてそれほど詳しくはない。だから、正直に言えば全く自信がなくて、これは“想像”に過ぎないのだけど、韓国の文政権はちょっとおかしい気がする。

 ちょろっと小耳に挟んだ程度の知識で申し訳ないのだけど、「韓国には非常に偏った民族主義で左翼の思想団体が存在し、その団体は日韓関係の悪化のみならず、米韓関係の悪化すらをも目論んでいる」なんて噂話が存在するのだ。

 そして、その団体は日韓関係を悪化させる目的で、日本企業に対して徴用工訴訟を起こしているのだとか。

 つまり、徴用工訴訟の目的は、損害賠償などではないのだ。日韓関係の悪化が目的。そして、もしこれが真実ならば、“彼らに善意はない”って事になる。

 この話を単なる噂話として聞き流せないのは、文政権が裁判所に干渉して、徴用工訴訟を勝利させたという話があるからだ。

 こーなって来ると、文政権がその民族主義の思想団体と、何らかの関係を持っていると疑いたくなってくる。

 が、この話にはちょっとばかりリアリティが欠けている。

 そう僕は思っていた。

 だって、韓国が日本に対して喧嘩を売るまでは分かるにしても、アメリカに対しては流石に喧嘩を売りはしないだろう。

 ところがどっこい、そんな事を思っていた矢先に「文政権は米韓同盟にも否定的」なんてニュースを目にしてしまった。それで、

 「おいおい、韓国さん。マジですか?」

 と、僕は驚いてしまったのだった。

 

 「――この問題、どう思う?」

 

 そんなある日、僕はクラスメイトの吉田にそう話しかけてみた。

 この男はなんだかよく分からない変な知識をたくさん持っていて、だからこれについても何か意見があるかも、と僕は思ったのだ。

 もっとも、この吉田という男は、アホほどマイペースな男で、一般の人間が捉えるような感覚でこの問題を捉えていない可能性も大いにあるのだけど。

 「そうだね。非常に面白いデータになると思っているよ。たった一つとはいえ、検証ができるのは貴重だ」

 なんて思っていたら、やっぱりそんな何だか分からない事を言いやがった。

 僕が不思議に思っていると、何を勘違いしたのか吉田はこう言った。

 「“面白い”って表現はちょっと不謹慎だったかな? でも、それは飽くまで学術的な意味でって事なんだ。別に日韓関係の悪化を面白がっている訳じゃないよ」

 それを聞いて僕はこう返した。

 「いやいやいや、吉田よ。学術的って何だよ? 何がどう面白いんだ? それに“検証”って何の?」

 それを聞くと、一瞬だけ吉田は“何を言っているのか理解できない”といった顔で僕を見ると、その一呼吸後でこう訊いて来た。

 「ゲーム理論って知っている?」

 「知らないけど」

 「数学の一分野でね、有効な方略を導く理論とでも言うべきかな?

 このゲーム理論の研究者の中には、“世界平和を実現する方略”を研究している人達もいるんだけど、その方略ってのが案外シンプルなんだ。

 なんと“しっぺ返し方略”であるらしいんだ」

 「しっぺ返しって?」

 「そのまんまの意味だよ。相手が非協調的なら非協調で返し、協調的なら協調で返す。“なんだそんな事くらい、人間はやっているじゃないか”って思うかもしれないが、この方略の肝は相手が協調的になったなら、それまでの確執は忘れて直ぐに協調で返すって点にある。

 そして、これを長期間し続ければ、やがては互いが協調行動に至ることが期待できる。

 ま、非協調は互いにとって損となり、協調行動の方が互いにとって利になる方が多いから、自然とそこに収斂するだろうって話だよ。

 “雨降って地固まる”理論とでも呼ぼうか?」

 僕はその説明を聞き終えると、少し考えた。

 元は日韓関係の悪化問題の話題だったはずだ。韓国の“元徴用工の損害賠償請求”という約束破り…… つまり、非協調行動に対して日本は輸出規制という報復措置…… 非協調行動で返した。

 「えっと、待て。つまり、今の日韓関係は“しっぺ返し方略”を日本がしている状態だって事か?」

 「少なくともその可能性はあるね。ま、日本がどんな目的を持っていて、どんな行動を執るつもりなのかは分からないけど。

 ただ、もし韓国が協調行動に出た時、直ぐに日本が協調行動で返したとして、それで韓国の“反日”が弱まったなら、“しっぺ返し方略”は平和をもたらす方略として有効に機能した、という一つの事例にはなる。

 平たく言えば、これは、韓国が“日本とは仲良くした方が良い”と学ぶって事なのだけどね」

 そう言い終えると、吉田は少し考えるような素振りをした後でこう続けた。

 「国に対する批判は、捏造、歪曲、飛躍が珍しくなくて、どんな批判であるにせよ直ぐに信じてはいけないと僕は考えている。

 ただ、韓国に関しては“民族主義が強い”という事を示す、客観的な事実が存在する。

 なんと韓国は、漢字を捨ててしまったんだ。

 漢字は習得は難しいけど、文字としては優秀だよ。表意文字である漢字を使っているからこそ、抽象的な思考ができ、日本の科学は成長したなんて仮説があるほどだ。自国語で自然科学を研究できている国というのは実は少ないらしいのだけど、日本でそれが可能なのは漢字を使っているからだというんだね。

 ところが、その漢字を韓国は捨ててしまった。これは民族主義故だと言われている。ちょっと、どうかと思う。

 だからこそ、その韓国がこれから“しっぺ返し方略”によってどうなるのか、注目すべきだと僕は思っているんだ」

 その吉田の説明を聞きながら、僕はもしも韓国がこの話を知ったなら、どんな反応をするのだろう?と少し考えた。

 却って意固地になるか、それとも民族主義を反省し、異なった民族である日本とも協調行動を執るようになるのか……

 まぁ、いずれにしろ、吉田のこの話を、理屈だけじゃなく、感情でも理解できたらって場合だけど。


ニュース記事の類で、作中で述べた”しっぺ返し戦略”(世間的には”戦略”と表現されています)を踏まえて、今の日本の対応を述べているものを見た事がなかったので、書いてみました。

雨降って地固まる

になれば、いいですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の友だちの吉田君がゲーム理論の「しっぺ返し戦略」を、分かりやすく説明してくれているところ。 その後に日本と韓国の根幹的な相違(漢字)を冷静に論じているところ。 [一言] ハングルって…
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