シナリオとは
一方、ララはさすがに悪いと思ったのか、人差し指で頬を掻いている。それから戸惑ったように口を開いた。
「もちろん、手伝ってというのなら喜んで。なんでも手伝うけど……っていうか、いいの? みんなを騙していたのに、手伝わせて。わたし、追い出されるんだよね?」
えっ、出て行っちゃうの……? 私はみんなが許してくれたのなら、このまま一緒に仲間としてやっていくのかと思っていたのに。でもそれは、楽観的すぎる考えだったかな。
ララがみんなを守ろうと思って行動してくれたのはよくわかった。けど、確かに騙していたのは事実だもんね……。そういう人を仲間にしておくのはやっぱりよくない、よね。
決定権はエクトルにある。みんなはエクトルに注目した。
「俺は、ララには利用価値があると思う。みんなの意見は?」
みんなの視線を集めて、エクトルが腕を組みながらみんなに意見を求めた。え、それじゃあもしかして。
「めちゃくちゃ気に入らねーけど、確かに犯罪組織を一掃出来たのはこいつのおかげなんだよな。認めたくねーけど!!」
「僕を足止めするほどの、実力もある」
リニとマクロは大体同じような意見みたい。ララのことを許してはいないけど、実力は認めているって感じかな?
「自分はー、研究を手伝ってくれるならなんでもいいや」
「もうっ、キー兄はもっと視野を広げて物事を考えた方がいいと思うっ! あー、もう。キャンも別にどっちでもいい! 好きにすればいいじゃない」
キーファは相変わらず、だね。キャンディスはあんな言い方をしているけど、たぶんララを悪くは思えないんじゃないかな。
「ララが今後、ラナキラを裏切らないと誓うならいいんじゃないか。敵を騙すには味方からともいうし、あたしは騙されたことについては構わないと思ってるぞ」
「お、男前ね、アンジェラ。わたしが生み出したキャラよりずっと男前な気がする……!」
アンジェラの言うことは正論だった。でも、騙していたことをあっさり許せるのはとてもすごいことだよね。ララが男前って言う気持ちもちょっとわかるな。
「いいんじゃねぇか? 俺もこいつにゃ利用価値があると思うぜ。なんせ、マリノの情報網を搔い潜ってんだからな」
「本当ね。アタシと一緒に情報屋やらなぁい? 今よりもっと稼げる気がするわぁ」
「えっ、いいの!? マリノと一緒ならこの世の隠しごとを全て暴ける気がするぅ!」
「いや、マジでやりそうだな、お前ら……やめておけよ?」
ウェールズとマリノも賛成、というか誰よりも歓迎していそうだね。
でも、ウェールズの言う通り、全てを暴こうとするのはやめてね……。意味深に笑うマリノとララの笑顔が怖い! 否定してっ!
最後は、クレアと私だね。クレアと目を合わせ、頷き合う。先に口を開いたのはクレアだ。
「一つだけ約束してほしいわ」
「うん、何?」
クレアは真っ直ぐララを見つめて真剣に告げると、ララも佇まいを直して真剣に聞く体勢を作ってくれた。
「私たちはキャラクターじゃない。もうそんな目で見るのはやめて。どうしても考えに出てきてしまうのは仕方ないけど。シナリオだって終わったんだもの。……終わったのよね? 追加の設定メモとかないわよね?」
強気で話していた言葉が、徐々に不安そうに揺れていく。あ、確かに。まだシナリオがあるというなら、警戒しないといけないもんね。
「追加のシナリオはないよ。あのお話はハッピーエンドを迎えたらおしまい。その後のことは、それぞれがそれぞれの幸せを掴んで生きていく、っていうことくらいしか考えてなかったよ」
「……なかなか、最高の終わり方ね」
「ふふ、でしょ? 物語が終わった後のキャラたちには、平和に過ごしてほしいもん」
それを聞いてホッとしたよ。クレアも安心したように肩の力を抜いて笑っている。
それからララは人差し指を立てて続けた。
「わたしは、最初からみんなをキャラクターなんて思って見ていないよ。見ていたのは脳内にあるキャラクター像だけ。生み出したのはわたしだし、確かに我が子のように思ってる。でも、シナリオを作成している時からずっと、あなたたちはキャラクターじゃなくて意思を持った一人の人物だって思っているんだから」
そこまで言って一度言葉を切ったララは、視線を私に向けた。え? 何?
「わたしの作ったシナリオは、あなたたちの可能性に過ぎないんだよ。そういう未来もあったよってだけの話なの。シナリオは補正が働いてその通りになってしまったけど、人の心まではシナリオ通りにならなかったじゃない」
それが何よりの証拠だ、と言って笑ったララは、それはそれはとても嬉しそうに微笑んだ。
口ではキャラクターって言ったり、意地悪を言ったりもしていたけれど、ちゃんと一人の人として見ていてくれたんだね。
そのことが嬉しくて、一度目を伏せる。やっぱりララは、優しい人だった。信じてよかった。
さて、最後は私の番だね。私はララと再び目を合わせて笑う。
「私はもちろん、ララと一緒にいたいな。もっと仲良くなりたいもの!」
「んーっ!! ミクゥはやっぱり天使っ! 本当にいい子すぎるよぉぉぉ!! 大好きっ!」
「わ、ぁっ!!」
ララがテーブルの上にダイブして私の方に滑り込んで、そのまま抱き締められちゃった。び、ビックリしたぁ! でも、今は嬉しい気持ちの方が大きいや。
「ちょっと、離れて。僕の」
「うるさい、マクロ。アンタ意外と嫉妬深いんだね。初めて知ったよ」
マクロがララの手をはがそうとするけど、ララも絶対に離そうとしない。静かな戦いが始まってるぅ!?
「……知らないことなんて、もっとたくさんある。僕だけじゃない。みんなにも」
「……そうだね。ふふ、知るのが楽しみだなぁ」
ララのその言葉には、重みがある気がした。うん、そうだよ。これからもっと仲良くなっていくんだから。
「決まりだな! ララ、ラナキラへようこそ。仲間としてよろしくな。裏切るなよぉ?」
「もっちろんだよ! ははっ、まさかシナリオが終わってから仲間に入れてもらえるなんてねー! これも予想外でわたしは楽しいよ!」
仲間として、か。そっか、新しく仲間が増えたんだ……!
これからも、ラナキラはみんなで力を合わせていろんなことを乗り越えていけるよね。
きっとまた毎日が楽しくなる。そんな期待が膨らんで、私は幸せな気持ちでいっぱいになった。






