クレアのお説教タイム
「ミクゥ、とりあえず座って。今、あったかいお茶を淹れるわ」
「あ、ありがとう」
鬼のような形相で今にもララを追いかけていきそうだったクレアだけど、私の顔色が悪いのを見て慌てて介抱してくれた。ご、ごめんね。不甲斐ない妹だよね。
リラックス効果のあるハーブティーを淹れてくれたクレアにお礼を言った後は、しばらく二人とも黙って一緒にお茶を飲んだ。冷たかった指先も少しずつ温まってきたみたい。うん、少し落ち着いた。
「あのね、クレア。少し話が変わるんだけど……」
せっかくクレアと二人になったので、早めにさっきの出来事を報告することにした。本当は、ララのヒロイン発言についても話したかったんだけど、まずはこっちかなって思って。
「場違いな存在、か。なるほどね。そっちも限りなくクロじゃない。前世の記憶持ちだってわかったから余計に」
「や、やっぱりララも、クレアと同じ……?」
「ええ。間違いないと思うわ」
クレアは迷うことなく断言した。まず、この世界に転生してから自分やエクトル意外に「ヒロイン」という言葉を聞いたことがないという。
言われてみれば、あまり馴染みのない言葉ではあったかも。私はクレアに幼い頃から聞かされていたからあまり違和感はなかったけれど。
とにかく、それが決め手となってクレアはララが転生者だって断定しているみたい。そ、そっか……。
「えっと。ララに前世の記憶があったとして、ね……? あの、それでも私はやっぱり、ララが悪いことをするような人には思えないよ」
「なっ、に言ってんのよ!? さっきの態度を見てまだそんな風に思うの? 確実にミクゥに喧嘩を売っていたじゃないの!」
クレアは信じられない、といったように目を見開いて私を見た。うっ、やっぱり甘ちゃんだって思われたかな? でも、ちゃんと自分の意見も言わないと!
「そ、それはそうかもしれないけど……。でも、好きになっちゃう気持ちは、どうしようもないもの。そこは、怒らないであげて……?」
恋は、落ちるものなんでしょう? 恐る恐るそう聞くと、クレアは何かを言いかけては口を閉じる、を繰り返した。な、なんか困らせることを言っちゃったかなぁ。ごめん。
クレアは一度大きく深呼吸すると、疲れたようにようやく言葉を発した。
「ララがマクロを好きって言っているのだって、本当かどうか怪しいものだわ。……でも、ミクゥの考えは尊重する。私はララが嘘を吐いているって思ってるけど! それはそれ、これはこれよね。ミクゥが馬鹿みたいに優しいのだって今に始まったことじゃないもの!」
「うっ、馬鹿みたいにって、言い過ぎじゃない? 酷いぃ……」
あまりにも直球な物言いに、どうしても半眼になってクレアを見てしまう。ミクゥの良いところってことよ! と慰められたけど、あんまり嬉しくないからねっ!
「まぁいいわ。エクトルも言っていたんでしょ? 疑うのは自分たちの仕事だって。アイツにしてはいいことを言うじゃない。私も同じ気持ちよ。ミクゥだけはララを信じてあげてもいい。天使だもの、仕方ないわ」
「て、天使じゃないもん」
時々、クレアは私のことをなんだと思っているんだろうって発言をするよね。私たちは双子なんだから、私が天使ならクレアだって天使ってことじゃない。
でもそれは違うっていう否定は早い。なんでぇ!?
「だから、こっちのことは任せて。で、ミクゥが今しなきゃいけないのは?」
「え、えっと。ララの様子を見ること……?」
話をはぐらかされた気がするけど、確かに今はそれどころじゃないもんね。エクトルにも言われたことだし、ララのことをちゃんと見ていなきゃ。そう思ったんだけど……。
「ちっがーう! マクロのところに謝りにいくことでしょぉ!?」
クレアには思いっきり否定されちゃった。え、あれ? え、マクロのところに!? 思いがけない言葉に反射的に顔が赤くなっていく。
「エクトルが気付いて追いかけてくれたよかったわ。一人で街を歩こうとするなんて!」
「ご、ごめんなさい!」
しまった、説教が始まっちゃった。そうでした。私、一人で街に出て行っちゃったんだよね。一度攫われたんだから、街に行く時は必ず護衛と一緒にってあれほど言われていたのに。
「だーかーらー! それをマクロにも言いなさい。恋愛感情を抜きにしても、約束をすっぽかしたんだからちゃんと謝るべきよ」
「そう、だよね。うん、わかった」
クレアの言うことはもっともだ。今日のことは間違いなく私が悪いんだから。うっ、でも顔を合わせずらいなぁ。いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないよね!
「ちゃんと私がララの様子を見ておくから。ま、今は部屋で寝ているのでしょうけど」
「うん。ごめんね……。それと、ありがとうクレア」
気付かせてくれて。言われなかったら私、このままずっとマクロとは気まずいままだったかもしれない。
恥ずかしいし、申し訳ないし、マクロの反応がすっごく怖いけれど……。悪いことをしたのなら、謝らなきゃ。
胸元にあるマクロの色の魔石を握りしめた私は、顔を上げて彼の部屋へと向かった。






