無理した笑顔
呪いの痛みを抑える魔道具をもらってからというもの、私は何度となく胸の痛みに襲われていた。
この魔道具がなかったらもっと辛いのかと思うとゾッとする。マクロやキーファには感謝の気持ちでいっぱいだよ。
もっと、心を平穏に保たないと。そう思ってはいるんだけど……。
「マークロ! ね、今日の仕事、私もついていっていい? わたし、情報収集が得意だから役に立つよ!」
「迷惑、邪魔、あともっと離れて」
「なんでそう決めつけるの? ねー、一度くらいいいじゃない。わたしの仕事ぶりを見てから判断してよー。ねーねー!」
「あぁ、もう……。わかった、少し考える」
「やったぁ! マクロ、大好きっ」
「まだ認めたわけじゃない」
ラナキラのダイニングで、ララの明るい声とマクロの声が聞こえてくる度に痛んでしまうんだもの。
私、仲間が話をしているだけでも嫉妬してしまうのかな。でも、だって、ララったらマクロとの距離が近いんだもの。
うぅ、こんな風に思ってしまう自分も嫌だ。
私は二人に姿を見られないように気をつけながらササッとラナキラの外へと出ていった。
今日は、呪い師のおばあさんのところに行く日。本当は、マクロが一緒に来てくれることになっていたんだけど……。
あんな二人を見てしまった後だから、どうしても顔を合わせられなくてこっそり一人で出てきてしまった。
約束をしていたのに、私、酷いことをしたな……。
「ミクゥ!」
「ひゃぁっ!?」
そんな時、背後から声がかけられたので文字通り飛び上がって驚いた。だ、誰だろう?
振り返ってみると、そこには少しだけ元気のない様子のエクトルが立っていた。眉尻は下がっているけど、口元には微笑みが浮かんでいる。無理に笑顔を作っている、みたいな……。どうしたのかな?
「ごめん、驚かせた?」
「う、ううん! ぼーっとしていたからビックリしただけ。気にしないで」
これから占い師のところに行くのかと聞かれたので、頷いて答える。マクロを置いてきてしまった負い目があるから、ちょっとだけ目を合わせにくいな……。
「じゃあさ、俺も一緒に行っていいか?」
「え?」
「このところ、書類とにらめっこばっかりだったから。気分転換も兼ねてミクゥの護衛に、さ」
もしかして、エクトルはマクロと一緒に行く予定だったことを知らないのかな? うーん、それならお願いした方がいい、のかな?
前みたいな事件が絶対に起こらないとはいえないもの。でも、約束を破っておいてエクトルと行くのは余計に申し訳ない気もするし……!
「ほら、行こうぜ」
「あ、えっと、う、うん」
私が戸惑っている間に、エクトルに軽く背を押されてしまう。結局、一緒に行くことになってしまった。罪悪感がっ!
「本当はマクロと行く予定だったんだろ?」
「えっ!? し、知っていたの?」
歩いて暫くすると、エクトルが苦笑しながら聞いてきた。知っていて一緒に行こうって言い出したの? な、なんでまた……。
「そりゃあな。けど、アイツってばララといちゃついてただろ? なんかイラッとしてさ。ミクゥのこと奪っちゃった」
ニッ、と悪戯が成功したように笑うエクトルだったけど、私はマクロがララといちゃついていた、ってところが引っかかって胸が小さく痛むのを感じた。
キュッと胸元を抑えた私に気付いたエクトルは、慌ててごめんっ、と謝ってくる。
エクトルが悪いわけじゃないんだから気にしなくていいのに、なぜか彼は私以上に辛そうな顔をしていた。だから、途中まで出かけた言葉も止まってしまう。
「意地悪で言ったわけじゃないんだ。あ、マクロには意地悪したけど。ちょっとは反省すりゃいーんだって思って……。いや、これは俺の自己満足だな」
本当に、どうしたんだろう? エクトルの真意がよくわからない。なぜ、マクロに意地悪をしたのかな。
「俺さ、ミクゥのことがすごく可愛くて仕方ないって思ってる。大事な大事な……仲間だから」
「エクトル……」
そう言って、エクトルは一度ギュッと目を閉じた。そして、何かを決意したかのように顔を上げると、いつも通りの笑顔を見せてくれる。
「そう! 可愛くて大事な仲間だからさ、ミクゥが悲しんだり苦しんだりするのは放っておけないんだ。その原因になったマクロにちょっとくらい意地悪したっていいだろ? この程度で俺の気が収まるんだから安いもんだって!」
「……もう、エクトルったら」
どことなく、無理をしているのはわかった。原因はよくわからないけど、それを見せないように明るく振舞っているのもわかる。
それなら、私があえて聞いてはダメだよね。きっと、エクトルにとっては大切な何かがあったんだと思うもの。そこに踏み込むのは無神経になっちゃう。
「だからさ、今日は呪い師のとこに行った後、俺とデートしてよ! 思いっきり楽しんで、マクロに自慢してやるんだ。そうしたら、ミクゥはマクロとその話が出来るし、今度そこに連れて行くことも出来るだろ?」
自分もどこか辛そうなのに、私を励ましてくれているんだ。
本当に優しいんだから。頼りになるリーダーだよ。
「ありがとう、エクトル。うん、わかった」
だから、いつかエクトルの悩みも教えてね。その時は、私が励ましてあげたいから。
ううん、相談してもらえなくても、エクトルが困っていたら絶対に助けになりたい。そう思った。






