【クレア】マクロルート
「じゃあ、キーファのとこに戻る」
「本当にありがとね、マクロ! でも、わざわざ迎えに戻るなんて、優しいんだぁ」
「別に。約束だから」
突然、マクロがミクゥではなくララと二人で戻ってきた時は、状況が理解出来なくて一瞬動きが止まってしまったわ。
っていうか、何よあれ。なんでララはあんなにマクロにベタベタと引っ付いているの!? どういう心境の変化よ!
「あーあ、行っちゃった。寂しいなぁ」
しかも、走り去っていくマクロの後ろ姿を見えなくなるまでずっと見送っているし。アレじゃあまるで、恋する乙女じゃない。
というか! あの場面、ゲームのマクロルートで見たことあるんですけど!?
ゲームの時はキャンディスがライバルキャラだから、マクロはキャンディスの下に行くためにキーファの工房に向かったんだけど、その相手がミクゥであるという部分が違うだけで、まるっきりあのシナリオと同じだっていう事実に背筋が凍る。
何よ、それじゃあまるで、ララがマクロルートに入ったみたいじゃない……!
「ごめんねぇ、クレア?」
そんな時、振り返らずにララが口を開く。その声色はどこか大人びていて、妖艶な響きを持っていた。ゾクリと寒気を感じた。
「……どうして、謝るのよ」
警戒しながら答えると、ララはクルッとこちらに向き直り、口元に笑みを浮かべて私を真っ直ぐに見つめた。
「だって、わたし……マクロに恋をしちゃったから。貴女の大事な双子のミクゥと同じ相手に、ね」
ゾワッと毛が逆立つ。どうしようもない絶望感も襲ってきて、思わず自分の身体を抱きしめた。
「わたしだって、さっき自覚したばかりなの。これまで素敵だって思う人はたくさんいたけど、マクロを見ていると、これまでと違って胸がざわめいて……どうしようもなくドキドキするんだ」
やめて、やめてよ。シナリオと同じセリフに冷や汗が止まらなかった。
「きっとこれが本気の恋、なんだよね。だから、自分ではどうしようもないの。ミクゥの想いを知っていながら……わたし、最低だよね」
覚えてる。間違いない、乙女ゲームのララのセリフだ。それは、マクロのルートに入ったことを意味する。
「でもね、マクロの素敵なところは他でもないミクゥのおかげで知ることが出来たの。本当は優しいんだって、ミクゥが言ってくれたんだよ! だからわたし、ちゃんと向き合ってみたいって思ったんだ。それで……」
キャンディスだった部分が、ミクゥに変わっただけで、全く同じ。次に続く言葉も私はよく知っている。
「……気付いたらマクロのことを目で追っている自分に気付いた、って?」
「え、あれ? そう、そう言おうと思っていたの!」
驚いたように目を丸くしたけれど、はにかむようにララは笑った。
「だからね、ミクゥが大変だってこともわかってる。だけど、初めて抱いたこの想いだけは、わたしも譲れないんだ」
そして、真剣な眼差しで宣戦布告をした。
ミクゥの呪いを解く方法については他の方法を絶対に見つけてみせる、だなんてヒロインのセリフを言い捨てて、ララは自分の部屋へと戻っていく。
私はそんなララの後ろ姿を震えながら見送ることしか出来なかった。
……何よ。
何よ、何よ、何よ! 絶対に見つけてみせる? それが叶わないって、私は知っているのよ!
結局ヒロインは想い人とくっ付いて、焦がれて死んでいくミクゥを助けられなかったと泣くんだもの。ミクゥの分まで幸せになるだなんて、気休めにもならないことをいいながら、ヒロインは幸せになるのよ。
そんなの、そんなの許せない……! あの悲劇をリアルで体験するなんて冗談じゃない。それを避けるために幼い頃から頑張ってきたのに、結末が同じだなんて。
「エクトルルートじゃ、なかったの……?」
ララがエクトルに興味を抱いていると気付いた時は、少しだけ焦ったわ。だって、元々はミクゥがライバルキャラになる相手だったから。
でも、現実でのライバルはキャンディス。彼女には申し訳ないけれど、ミクゥがライバルにならなくて良かったって安心してしまったの。その罰かしらね……。
って、現実逃避をしている場合じゃないわ。このままじゃ、ララがマクロと結ばれてしまう。ヒロイン補正みたいなものがないとも言い切れないもの。
例え、今はマクロの気持ちがミクゥの方に傾いていたとしても、ヒロインの影響は無視出来ない!
「こうしちゃいられないわ。ああ、もう。またエクトルの部屋に行かなきゃいけないのね」
ついさっきまで、失恋に打ちひしがれるエクトルを慰めてやったところだというのに。ミクゥが幸せなら、相手がマクロなら喜んで応援する、と膝を抱えてウジウジしている野郎のことなんか、あとはもう放っておきたかったんだけど!
でも、ミクゥの一大事だもの。なんとしても立ち直ってもらわなきゃ!
ガクガクと足が震えている。ついにこんなところまで物語が進んでいたんだって今更実感して、恐怖が私を襲っているんだ。
気をつけていたのに。たくさん頑張ってきたのに。
あの時、意地でも村を出なければよかったんだ。
だって私、なんだかんだ言ってこの生活を楽しんでいたもの。口では否定していたけど、やりがいのある仕事や仲間たちとの共同生活は楽しかった。
もしかしたらミクゥのこと、後回しにしていた部分があったかもしれない。
……ええい、後悔なんてしている暇はないわ! しっかりするのよ、クレア! まだ間に合う。絶対にミクゥを守るんだから。
私は思い切り震える自分の足を叩くと、マクロルートのシナリオを必死で思い出しながらウジウジエクトルの部屋へと走り出した。






