生まれた疑念
「ん? あれ? ミクゥじゃない! なんでいるのぉ?」
「おはよう、キャンディス。キーファに魔道具を作ってもらっていたんだ」
ペンダントの受け取りも終わったし、そろそろラナキラに戻ってもいいかもしれないと思い始めた頃、工房にキャンディスがやってきた。
驚いたように声をあげつつも、キャンディスは嬉しそうに駆け寄ってきてくれる。ふふっ、可愛いな。
「あ、もしかして……呪いに効くやつかなぁ?」
「しっ、知っていたの?」
ペンダントを見せつつ教えると、キャンディスは納得したように頷いた。ど、どこまで事情を知っているんだろう?
「詳しいこまでは知らないよ? でも、大体は察せるかも。ミクゥはマクロが好きで、思いが通じ合わないと命に関わるんでしょ?」
「えっ!?」
「キャハハ、当たってたぁ?」
その通りすぎてビックリだよぉ! キーファに目を向けると、ほらねとばかりに肩を竦めている。キーファから教えてもらった、というわけではなさそうだね……。
うぅ、本当に私の気持ちはみんなに筒抜けなんだ。は、恥ずかしいっ!
「でも、キー兄の魔道具があればきっと大丈夫! 治るわけじゃないとは思うけど、心に余裕が出来るでしょ? それにキャンだって協力するんだから、絶対にうまくいく! マクロを振り向かせてやろうねっ」
「す、すごく心強いけど、あの、ほどほどにね?」
私よりもやる気満々で拳を握るキャンディスの勢いには圧倒されてしまった。
でも、その明るさと前向きな言葉に勇気をもらえたよ。油断すると気分が落ち込んでしまうから、こうして背中を押してもらえるのは本当にありがたいな。
「えっと、それじゃあ私、そろそろラナキラに戻らないと」
「んー? マクロが迎えに来るって言ってたじゃないか。ダメだよ、ここにいないと」
た、確かにそう言っていたけど……。予想以上に早く魔道具が出来てしまったんだもの。マクロに往復させるのも悪いし、急げばマクロが向こうを出る前に着けるかもしれない。
「え、そうなのぉ? やるじゃない、マクロ! ミクゥ、こういうチャンスを自分から逃すのは良くなぁい! 絶対に待っているべき!」
「わ、わかったよ、キャンディス」
というより、絶対に私だけでは行かせないという意思が伝わってくる。ここで無理して出て行こうとしても通せんぼされるだろうな。でも、言いたいこともわかるので素直に従おうと思うよ。
「そうそう。ただでさえ、ララに連れてかれちゃったんだから」
「え、は? 何? ララに連れて行かれたってどういうこと、キー兄!?」
そこでキーファが漏らした言葉にキャンディスが食いついた。ちょ、言い方がなんか、アレじゃない? 連れて行かれたって……。
あれはただ、ララが道に迷って困っていたから仕方なかったんだよ。
「……何よそれ。おかしい!」
あの時の出来事をキーファから聞いたキャンディスは、怪訝そうに眉を顰めた。どこか怒っているようにも見えるけど……。和解したとはいえ、キャンディスはララと少し揉めたことがあるからちょっと心配だな。
「おかしいって、何がだい?」
「だって、ララってものすごく記憶力がいいのよぉ? それに、ラナキラの場所はこの街の人ならみんな知ってるもん。人懐っこいララなら誰にでも聞けるだろうし、そもそも大通りで迷っただなんてどう考えても変じゃないっ」
……考えてみれば、確かに少し変、かも。道を覚えるのがそこまで得意ではない私でも、ラナキラの場所はすぐに覚えたし、迷ったとしても人に聞けばすぐにわかる。
え、でもそれじゃあ、あの時のララの言葉は嘘だった、ってこと?
「そ、そうだとしても、なんのためにそんな嘘を……?」
「そーんなの、決まってるでしょ! ララがマクロと二人になりたかったんだよ! それか、ミクゥの邪魔をしているかのどっちか! 何よ、あの女。エクトルが好きみたいなこと言っていたくせにーっ!」
どくん、と心臓が嫌な音を立てる。そんな、まさか……。ララもマクロのことを、好き……?
「っ!」
「え、あっ! ミクゥ!」
ギュッとペンダントを握りしめる。すると、黒い石がほんのりと温かくなって全身にその温もりが広がっていくのを感じた。
す、すごい。本当に楽になった……。ふぅ、と大きく息を吐く。
「ごめんねぇ、ミクゥ。ちょっと考えが足りなかったよ。ムカついたとはいえここで言うべきじゃなかったよね……」
「ううん、平気。それに、魔道具の効果を実感出来たもの。キーファ、ちゃんと作動したよ」
ありがとう、と微笑むとそれは良かったとキーファも笑ってくれたけれど……。私たちは揃ってしばし黙り込んでしまった。
ララは、何を思って嘘を吐いたの? ううん、嘘だって決まったわけじゃないけど……。
でも、ララが今後どんな行動に出るのかが気になって、不安で。
私は再びペンダントを握りしめることになった。






