キーファのありがたいお言葉
「はい、無事に着いたねー。ミクゥちゃんいらっしゃーい」
無事にキーファのお宅へ到着した私たち。隣には居住スペースである小さな建物があるんだけど、案内されたのは工房だった。
キーファにとっては工房こそが自宅のようなものなんだろうけど。ちゃんとベッドで寝ないと疲れが取れないんじゃないかなって心配だ。
それも、キャンディスに言わせれば寝ているだけマシらしいけれど。本当に、キャンディスが側にいてくれてよかったって思うな。いなかったらきっとすでに倒れているもの。
「キャンディスはいないの?」
「まだ寝ていると思うよ。もうすぐ起きてくるんじゃないかな。キャンディスは意外と朝に弱いんだよ」
そういえば、前にラナキラに泊まった時もクレアと一緒に寝坊していたっけ。あの時は夜更かししたからかな、って思っていたけど、元々朝に弱かったんだね。しっかり者だからちょっとだけ意外。
適当に座って、というキーファのお言葉に甘えて空いている椅子に腰を下ろす。工房内は私にはよくわからない道具や材料があちらこちらに散らばっていて、片付け好きの血が騒いじゃう。
でも、こういう物は勝手に触ったり移動させると作業するのに困ったりするだろうからやらないけれど。でも魔道具を作ってもらうわけだし、聞いてみて許可が下りたら片付けをしたいな。
「あっという間に出来ちゃうから待っててねー」
「そんなにすぐに出来るの? すごい。あの、見ていてもいいかな?」
「ん? もちろん、いいよ」
魔道具作りを目の前で見るのなんて初めて。興味津々でキーファの手元を見つめた。
いつもはフワフワとした雰囲気を纏うキーファだけど、作業中はものすごく集中していて真剣な目つきだ。やっぱり職人さんなんだなぁ。
そして手元は慣れたように動き、細かい作業だというのに迷いなく、そしてミスをすることもなく石の加工が進められている。私だったらどれだけ時間をかけてもこうはいかないよ。
カチャカチャと道具を使い、ペンダントにする台座の裏側をいじりながらキーファが突然口を開いた。
「ねぇ。ミクゥちゃんはさ、伝えないの? マクロに」
「えっ!?」
ずっと黙っていた上に、予想外の内容に声が裏返ってしまう。ど、どどどどうして急に……!?
「し、知ってたの?」
「ミクゥちゃんはわかりやすいからね。気付いてないのはマクロ本人とリニ、アンジェラくらいじゃないかな」
動揺もそのままに顔を上げて訊ねると、キーファは手元から視線を外さずに微笑みながら答えてくれた。
わ、わかりやすいのかな、私? 顔には出さないように気を付けていたのに!
そ、そっか。知られていたんだ。それはそれでものすごく恥ずかしい。顔に熱が集まってくるのがわかる。
そのまま俯いていると、キーファはクスクス笑いながら先ほどと同じ質問をしてきた。
伝えないの、か。それはマクロに私の気持ちをってことだよね。
「つ、伝えられないよ。マクロは、優しいから。私の気持ちを知ったら、自分の本当の気持ちを無視してでもこの呪いをなんとかしようとしてくれそうで。そうじゃないにしても、マクロを悩ませてしまう気がするから……」
だから、この気持ちは自分の中で大事にしまっておいた方がいいって。今はそう思ってる。
本当は伝えたいよ。気持ちを知ってもらいたいし、呪いをなんとかするためにも頑張りたいって思う。
だけど、自分が苦しむことよりも、自分のせいでマクロを悩ませてしまうことの方が辛いって気付いたんだもの……。
「そうだね。マクロなら、そうしそうだ。ミクゥちゃんはマクロのことをよく見ているんだね」
コトン、と道具を置いたマクロは顔を上げていつもの微笑みを浮かべた。
「マクロは確かにそういうところがある。一見、他人に冷たく見えるけど実はお節介なとこがあるんだ。その辺、リニの方がかなりシビアなんだよねー。リニは仲間以外は本当にどうでもいいって思っているから。あの男の方がよっぽど冷たいんだよ」
私を元気づけようとしてくれているのか、キーファはあははと笑いながら頬杖をつく。でもすぐに真剣な口調に変えて、私を諭すように静かに語った。
「マクロはさ、確かに悩むかもしれないけど……。自分の気持ちに嘘は吐かないよ。それが不誠実だって気付かないほど馬鹿な男じゃないから」
「そ、れは……」
「同時に、ミクゥちゃんをなんとか救いたいって、解決方法を必死で探してくれると思うんだ。これしか方法がない! だなんて、誰にもわからないじゃない。きっと、最後まであきらめたりしない。マクロは負けず嫌いなところもあるし」
そう思わない? とキーファはふわりと私に微笑みかけて、手元にあるペンダントを私に手渡してくれた。
「はい、出来たよ。ペンダントトップ風のデザインにしたから、身に着けていてもお洒落でしょ? それに……黒はマクロの色だ」
「き、キーファっ!」
黒はマクロの色。それを聞いてしまっただけで、このペンダントがものすごく特別なもののように思えてしまう。
もうっ、キーファったら! でも、その心遣いに感謝だよ。そして、話してくれたことも。
そうだよね。マクロは、中途半端なことはしないと思う。自分の気持ちにも嘘は吐かないだろうし、きっとその上で答えを出してくれる。それでも、悩ませてしまうだろうけれど……。
私の中で結論を出すのはまだ早いってこと、だよね。私も、もっともっと悩もうと思うよ。
「……ありがとう、キーファ」
「どういたしまして。ミクゥちゃんの痛みと、心も軽くなったらいいな」
だから、二つの意味で感謝を伝えた。ペンダントのことも、励ましの言葉も。
私は、答えを出すのに焦っていたのかもしれない。せっかく痛みを抑える魔道具を用意してもらえたんだもの、慌てずにゆっくり考えよう。
そっとペンダントを手の上に乗せて、じっくり見る。苦しくなった時は強く石を握るだけで痛み止めの魔法が発動するんだって。
本当にすごいな。短時間でそんな細工をしてしまうなんて。本人は本当に簡単な仕組みだからと笑うけど、実際はそんなに簡単なものではないんだよね。
心強い仲間たちがいっぱいで、自然と笑みが溢れた。






