街中での遭遇
それからしばらくは無言で歩いた。なんか、色々考えちゃうな。頑張りたいけど、マクロの気持ちを無視して私の気持ちを知ってもらいたいとは思えないもん。恋って、難しい。
キーファの工房に向かう途中の大通りで、どこからともなく私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
マクロと目を合わせ、キョロキョロと周囲を探すと、その声の主がこちらに駆け寄る姿が目に入る。え、ララ!?
「散歩に来たんだけど……ラナキラに戻る道がわかんなくなっちゃったんだぁ。へへっ、ここで二人に会えて良かった!」
私たちを攫った、人を操ったという不審者がどこにいるかわからないのだから、まだ一人では出歩かないようにって言われていなかったっけ?
驚きつつそう言うと、そうだったっけ? という無邪気な答え。もう、ララ! 危機管理がなってないよっ!
「うっ、ごめん。そうだよね、でも本当にラナキラの周辺だけを歩くつもりだったの! でも、好奇心が抑えられなくて……!」
私が腰に手を当てて注意すると、ララがみるみるしょんぼりとして肩を落としてしまう。ああっ、あんまり落ち込まれると申し訳なくなっちゃう。
そうだよね、ララだって外に出たかったよね!
「反省したならもういいの。でも本当に心配だから、今後は近くの散歩だったとしても、クレアやアンジェラ、他にも誰かを誘うようにして? ね?」
「うん、わかった。本当にごめん。心配してくれてあるがと!」
ちゃんと反省した後、ララはニコッと明るく笑ってくれた。うん、やっぱりララにはその笑顔の方が似合う!
でもどうしよう。この後私はキーファのところに行かなきゃだし、付き合わせるのは悪いよね。それにラナキラでクレアたちが心配して探しているかもしれない。
「マクロ、ララを連れて帰ってあげられないかな? ここからキーファのところは近いし、私なら大丈夫だから」
「でも……」
呪いを込めてもらった石はすでに受け取っている。あとは簡単な説明をすれば、キーファならわかってくれると思う。ここで一人、ララを帰すという選択肢はないもの。
「ほ、本当にごめんね。でも助かるよぉ! マクロ、お願い出来ない?」
ほら、ララもお願いしていることだ、し……。あれ? なんだろう、今少しだけ胸がチクッと痛んだ。どうして?
ララはマクロの顔を下から覗き込むようにして見つめている。マクロは困ったように一歩後退りをしているみたい。
きっと優しい彼のことだから、ここで私を放っておくってことも出来ないんだろうな。それなら、一度一緒にキーファのところに行って、そこからララを送ってもらうのがいいかな? そう思った時だった。
「あれー? 見知った顔があると思ったらー。どうしたの、道の真ん中で」
「キーファ!?」
すごいタイミングでキーファが向こう側からやってきた。のんびりとした声で、いつも通りの笑顔と寝癖。ま、街中でキーファを見るなんて初めてだよ!
「ちょっとー、そんなに意外そうな顔しないでくれる? 自分だってたまには買い出しに出ることもあるよ。キャンディスに頼むには難しい材料の調達とかさ」
なんでも、作業に熱中していたら必要な素材がないことに気付いて着の身着のまま買いに出かけた、その帰りなのだそう。
確かに服が少しよれているかもしれないなぁ。もう少しだけ身だしなみに気を付けないと、キャンディスが怒りそう。
なんにせよ、良かったよ。これで問題は解決だよね!
「マクロ、キーファもいることだし、ね? ララがこのまま帰れなかったら困るもの」
「んー、何? 自分に用があったの? よくはわからないけど、任せてよ。戦う力はないけど護身道具ならたくさん持っているしね」
マクロは私とキーファの言葉を聞いてようやく納得したようにため息を吐いた。あ、いや、まだちょっとだけ納得していないところもある、かな?
「……ラナキラに行ったらまたすぐ戻る。だからキーファのところにいて。いい?」
「うん、わかった。ありがとう」
マクロはそれだけを伝えると、ララに向かって行こうと声をかけた。そしてそのままラナキラに向かって二人が去って行く後ろ姿を見つめる。
さっきまで二人でいられたからかな、ちょっと寂しいって思っちゃう。また迎えに来てくれるっていうのにね? ワガママになっているんだなぁ、私。
「ちょっと。近い。歩きにくい」
「だって、離れて迷子になったら困るもん。腕くらい組ませてよ!」
「……はぁ」
うっ、痣が痛む……! ララはスキンシップが好きなんだよね。人懐っこいところが魅力の一つ。だから、ずるいとか羨ましいとか思ったらダメ。ダメなんだから!
「さー、自分たちも行こうか。道の真ん中で立ち止まったら邪魔になるからね」
「あっ、そ、そうだよね! ごめんね、キーファ」
キーファに声をかけられてハッとする。いけない、ぼんやりしていたら嫌な感情に負けちゃう。今やるべきことだけを考えるようにしなきゃ!
一度軽く自分の頬をペチペチと叩き、私はキーファとともに工房へと向かった。道中で石のことや、私の呪いのことを簡単に説明すると、キーファはすぐに納得したように頷いてくれた。理解が早いなぁ。
「なるほどね。必要な時にすぐ呪い石が作動するようにすればいいんだね? そのくらいならお安い御用だよ。なんなら、マクロが迎えに来る前には出来ちゃうよ」
「えっ!? そんなのすぐに出来るの?」
「ふふん、自分を誰だと思っているんだい? 寝食を惜しんで研究と魔道具作りに没頭する男だよ?」
説得力がすごい。キーファの腕が確かなのは知っていたけど、まさかそんなにすぐに出来るなんて思ってもみなかったから。
帰ったら早速作るからね、と言うキーファの笑顔はとても頼もしく見えた。心強い仲間がたくさんいて、私は幸せだなって思うよ!






