わかってしまったこと
「……治まった?」
「う、うん。あの、ありがとう……」
「別に、いい。このくらい……」
どのくらいそうしていたかな。すごく長かったような気もしたけど、あっという間だったような気もする。
そっと腕を離したマクロは目を合わせてくれない。ほんの少し顔が赤い、かな? 恥ずかしい思いをさせてごめんね、と心の中で謝る。
「おや、治まったのかい。もっとそうしていても良かったんだがねぇ? ヒッヒッ」
「性格悪い、おばあさん」
タイミングを見計らったかのように部屋の奥からおばあさんが戻ってくる。実際に、見計らっていたような気もするなぁ。は、恥ずかしい……!
それからおばあさんは私に近付き、スッと手を差し出した。その手の中にはゴツゴツとした黒い石が乗っている。
「これはね、呪いの類による苦しみから守ってくれる石さ。そこにあたしが呪いを込めたから、光の呪いによく利くようになっているさね」
ただし、痛みを止めるためには一定の魔力をいちいち込めなければならないという。その調整は苦しんでいる間に出来るようなものじゃない、とおばあさんは教えてくれた。
そ、そうなんだ。確かにあの痛みが襲ってきている時に、細かな魔力調整は難しい気がする。
「ん。だから加工が必要。そこは職人に頼むから、大丈夫」
「話が早くて助かるね」
そうだ、だからこそキーファに頼もうって話だったもんね。彼なら、必要な時に発動出来るような細工をしてくれるかもしれない。
ううん、きっとやってくれると思う! キーファはいつもすごい物を作っているもの!
おばあさんは私に石を渡した後、そのまま私の手ごと両手で包み込んだ。そしてそのまま目をしっかり合わせて言い聞かせるように告げる。
「いいかい? 結局のところ、それは苦しさを紛らわすことしか出来ないよ。相当なショックを受けたらその石なんか効果も発揮しやしない」
「……はい」
薬で言うならただの痛み止めってことだよね。それはわかっているけど、ハッキリ言われてしまうとずっしりとくるものがあるな……。
「命を失いたくなきゃ、解呪することさ。無理だって思ったかい?」
私の手をポンポンと二回軽く叩くと、おばあさんはニヤッと笑ってそう言った。きっと、私を励ましてくれているんだ。それがわかったから、私もしっかり目を合わせて返事をする。
「……いいえ。私、諦めません」
「ああ、良い目をするじゃないか。ますます気に入ったよ。頑張んな」
本当は、無理かもって思ってる。怖くて、逃げ出したいって。だけど弱音を吐いたらそれでいっぱいになっちゃう気がするんだ。
心配をさせたくないっていう思いもあるけど、私が弱気になってしまう。
負けない。負けちゃダメだ。大丈夫なんて保障はないけど、私はこの気持ちを大事にしたい。
チラッとマクロの方に目を向けると、彼は心配そうにこちらを見てくれていた。単純だなぁ、私。それだけで心があったかくなるんだもん。
ありがとう、マクロ。私は貴方を好きになって良かったよ。それを今、伝えることは出来ないけれど、ほんの少しだけでも伝わったらいいなという思いを込めて笑顔を向けた。
呪い師のおばあさんの家を出た私たちは、しばらくの間無言で道を歩いていた。
マクロは元々、無言でいることが多いからわからないけど……。私は、さっき抱き締めてもらったことを思い出して今になって思い切り恥ずかしくなってるのが理由です。
うっ、恥ずかしい! でも、すごく嬉しかった。あのまま、時間が止まってくれたらって思った。ああダメだ! ついついにやけそうになるよ!
「あの、ミクゥ」
「ひゃ、ひゃい!」
そんな時、マクロの方から声をかけられて声が裏返ってしまう。もう! 私ったら!!
「ごめん、驚かせた? 考えごとでもしてたの?」
「う、うん、そんなところ。だ、大丈夫!」
嘘を吐いているような気分になるけど、マクロから考えごとって言い出してくれたおかげでなんとか誤魔化せた、と思う!
あ、危ない。しっかりしないと、変なヤツって思われちゃう。
「考えちゃうのは、仕方ないと思うから」
「あ、ありがとう、マクロ! でも、ちゃんと気持ちを切り替えなきゃって思ってるんだよ」
ああああ、罪悪感! とはいえ本当はさっきのことを思い出していました、とも言えないし! ご、ごめんなさい、マクロ……!
……本当に優しいな。別の意味でもちゃんと切り替えないとね。
出来るだけ笑顔を心掛けて言うと、マクロはほんの少しだけ目を見開いた。
「ミクゥは、やっぱり強いね。パッと見た感じの印象だと、か弱そうに見えるのに」
「そ、そうかな?」
自分が見た感じ弱そうに見えるのは自覚してるよ? 実際に戦う力はないし。だから驚いたのは強いと言われたこと。
私は別に強くなんてないと言うと、力のことじゃないよ、とマクロは少し笑った。
「最初にミクゥを見た時から、この子は強いんだなって思ってた。心が強いんだ。クレアを助けるために、自分に出来ることをしていたから」
「そ、それは! 必死だったから……!」
心が強い、のかな? そんなの初めて言われたから戸惑ってしまう。そんなことはないと思うんだけどな。
するとマクロは突然立ち止まり、私の方に向き直る。なんだか真剣な表情で、真面目に聞かないといけないのにやっぱり私の心臓はトクンと音を立てる。
「だけど、ちゃんと弱音も吐かないとダメ。心が強い人は、弱音を吐くのが下手なんだ。エクトルとかがそうだから」
これでも心配してる、とマクロは俯く。うん、わかるよ。すごく心配してくれていること。
だからこそ、複雑だった。
だって、改めて良くわかったから。
マクロは、一見冷たそうに見えるけど本当は誰よりも優しくて、困っている人を放っておけない人。そんな人に、私の気持ちが伝わってしまったら?
きっと、私のことを放っておけないと思う。私の気持ちを、どうにか受け止めなきゃって思う気がする。死なせないために。そんなの、絶対にダメだ。
私は、この気持ちを彼に伝えたらいけないんだって思った。






